第1話 アークブレスとの遭遇
三重県・松阪市。
夏の湿った風が、廃工場の錆びた鉄骨を揺らしていた。
矢本翔、25歳。
温厚で臆病――自分でもそう思うほど、争いごとが苦手な青年だ。
仕事帰り、ふとした好奇心で立ち寄ったこの廃工場で、彼は“それ”を見つけた。
薄暗い空間の奥。
瓦礫の山の中で、ひときわ強い光が脈打っている。
「……なんだ、これ」
近づくと、それは 腕輪 だった。
金属とも石ともつかない、不思議な質感。
中心部には青白い光がゆっくりと回転している。
触れた瞬間――
光が爆ぜた。
「うわっ……!」
翔は思わず後ずさる。
だが光は彼を包み込み、逃げることを許さなかった。
耳の奥に、声が響く。
『……起動確認。適合者、矢本翔。
アークブレス、契約プロトコルを開始します』
「え……? 誰だ……?」
声は続く。
『私はアーク。古代文明が残した守護装置。
あなたを選んだ理由は――いずれ分かる』
「いや、待ってくれ! 俺はそんな……!」
臆病な翔は、腕輪を外そうと必死に引っ張る。
だが、腕輪は皮膚に吸い付くように密着し、びくともしない。
『拒否権はありません。あなたは“適合者”です』
「適合者って……なんなんだよ!」
翔の叫びに応えるように、腕輪の光が強くなる。
次の瞬間、視界が白く染まり――
翔は気づく。
自分の周囲の瓦礫が、ゆっくりと浮かび上がっている。
「な……なんだこれ……!」
腕輪が勝手に発動している。
物質変形、空間制御――
理解できない力が、翔の身体を中心に渦を巻く。
『これはあなたの力です。
受け入れなさい、翔』
「俺は……そんな力、いらない……!」
翔は震えながら叫んだ。
だが腕輪は静かに、しかし確実に彼の心に語りかける。
『臆病でいい。
だが――逃げ続けることはできない』
光が収まり、瓦礫は静かに地面へ戻った。
翔は膝をつき、荒い呼吸を繰り返す。
「……なんで俺なんだよ……」
腕輪は答えない。
ただ、淡い光を灯し続けていた。
その光は、まるで――
翔の未来を見つめているようだった。




