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只野聖斗は世界を改造する  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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退学

 期末テストの三日後、学園では体育館にて学年集会が開かれた。中間テストの時と同じく、各クラスで最低点を取った者を晒し物にするイベントが行われるのだ。

 木杉は、フゥと溜息を吐いた。これから、各クラスで最低点を取った者が、担任の教師によりボロクソにけなされ人格否定され、ランクが下のクラスへと移動させられる。

 正直、そんなことは木杉にとってどうでも良かった。彼にとって不快なのは、只野の退学を皆の前で見せつけることだった。

 

「こんなものを、喜んで見るようなバカには死んでもなりたくねえよ」


 木杉は呟いた。これは、中世に行われていた公開処刑そのものではないか。安全な位置から、殺される犯罪者を眺め優越感を抱くと同時に、自分が安全であることを知り安堵する。

 最低の人間たちだ──


 そんな中、集会は滞りなく進んでいく。A組の最下位はB組に、B組の最下位はC組に……生徒たちの移動が進行していった。皆、教師にボロクソに言われ、人目もはばからず泣きながらクラスを移っていった。

 最後に、D組担任の玉川が壇上に立つ。彼はマイクを握り、生徒たちを自信たっぷりの表情で見回した。

 少しの間を置き、口を開く。


「この学園の理念、それは……社会で上に立つ人間たるための実力を持つ人材を養成すること、だ。そう、この学園は実力主義! 実力さえあれば、下剋上も可能なんだ!」


 そこで玉川は、してやったりという表情をしてみせる。だが、木杉は冷めた表情で見ていた。

 そして、芳賀も、星川も、幸田も、宮本も……いや、一年D組の全員が、壇上の玉川を冷めきった目で見ていた。


「実力は、競争によってこそ養われる! だからこそ、我々は君らを徹底して競わせた! 全ては君らのためだ! しかし、そんな我々の理念を全く無視している愚か者がいる!」


 そこで、玉川は横を向き手招きする。


「さあ只野、出てこい」


 言われた只野は、神妙な顔つきで出てくる。木杉は、そこで初めて表情を変えた。


 只野、どうした?

 お前ですら、この場で何かを感じたのか?


 そう感じたのは、木杉だけではなかった。D組の生徒たちの間に動揺が広がっていったのだ。

 そんな中、玉川は勝ち誇った表情でマイク片手に語り出す。


「この只野聖斗は、期末テストでクラス最低点を叩き出した。知っての通り、D組で最下位となった者は自動的に退学処分となる。まあ、この結果は入学式の時点からわかりきっていたことだ。そもそも、お前みたいな奴が、この学園に来たこと自体が間違いなんだよ」


 言いながら、玉川は只野を睨みつける。だが、只野は神妙な顔つきだ。無言で下を向いている。

 見ている芳賀はハッとなった。これは、何か事件が起こる前触れだ。只野がおとなしい日には、必ず何者かが乱入してきたのだ。

 しかし、玉川はそんなことなど知らない。ネチネチと嫌味を言っていく。


「そう、お前は存在自体が害悪なんだよ。まさしく腐ったミカンだ。さあ、皆に向かい言ってみろ。僕は腐ったミカンでーす! ってな」


 その瞬間、バッと立ち上がった者がいる。木杉だ。

 彼は凄まじい形相で、つかつかと歩いていく。壇上に一瞬で飛び上がり、玉川のマイクを奪い取ったのだ。


「な、何をする!?」


 完全に不意を突かれた玉川は、それしか言えなかった。

 一方、マイクを握った木杉は玉川に向かい語り出す。


「先生、思ったんですけど……この学園ってRPGみたいですよね。やってる間は、ひたすらその世界に没頭し、王様に言われたクエストをこなしていく……でもね、RPGって電源切ったら終わりなんですよ」


「は、はあ? 何を言っている!? さっさと降りろ!」


 玉川が怒鳴り、他の教師たちが木杉に詰め寄っていく。しかし、木杉はすぐに壇上から降りてしまった。ただし、マイクは握ったままだ。

 そして、教師たちを睨みつける。


「わかんねえのか。じゃあはっきり言ってやる! うんざりなんだよ! こんなしょうもねえ学園で、点数稼ぎのために、お前らの顔色を窺い醜く這い回るのが、心底から嫌になったんだよ! 何が実力だ! こんなちっぽけな世界での点数稼ぎで、どんな実力がつくって言うんだよ!」


 突然のことに、教師たちは完全に呑まれ目を白黒させている。

 一方、木杉は生徒たちに視線を向ける。


「こんな箱庭みたいな小さい世界で、点数稼ぎに血道をあげる……そんな姿を見て、上級国民のクソ共がほくそ笑むんだよ! 自分たちの言いなりになって、バカなルールに従い従順に動いているお前らを見て、豚野郎が喜ぶんだよ! これでまた、自分たちの奴隷が誕生したってな! でもな、こいつらは俺たちに何かあっても助けてくれねえんだよ!」


 そこで、木杉は玉川を指さす。


「こないだテロリストが来た時、あの玉川が何してたか知ってるか? 気絶してぶっ倒れてたんだよ! 教師のくせに、真っ先に気を失ってたんだ!」


 聞いている芳賀は、そこで悟った。只野がおとなしくしていた理由、それは事件が起こる前触れだったのは間違いない。

 ただし、今回その事件を起こすのは外部の人間ではない。

 木杉なのだ──


「こんな学園で、実力とやらを身につけたところで……行き着く先は、テロリストが出た途端にビビって、生徒たちよりも先に気絶する惨めな大人になるだけなんだよ! そんな学校、こっちから辞めてやらあ!」


 叫んだと同時に、木杉は教師らに向かい何かを投げつける。

 それは、セント・エルモ学園の学生証であった──


「な、何を考えている! バカなことはやめろ!」


 教師の誰かが叫んだ。しかし、誰が叫んだかなど木杉は見ていなかった。彼の目は、只野へと向けられていた。


「おい只野、俺もやめるぞ。さあ、こんな所さっさとオサラバしようぜ」


 木杉の呼びかけに、只野は困った様子で頷いた。


「うん、わかった。じゃあ、帰ろうか」


 そう言うと、只野は壇上を降りた。そのまま、木杉の所へ歩いていく。

 愕然となる教師たちだったが、本番はこれからだった。

 なんと、D組の芳賀もまた学生証を投げ捨てたのだ。


「私も、この学園をやめます! 『劇団ひかげ』に入団します!」


 そう宣言し、只野と共に歩いていく。と、D組の他の生徒たちが、次々と学生証を投げ捨てていったのだ。

 まず幸田、星川、宮本といった面々から始まった行為は、他の生徒たちにも次々と伝染していく。皆がどんどん学生証を投げ捨てていく姿に、教師たちは何もできず呆然としているだけだった。


 その日、一年D組の生徒たちはひとり残らず自主退学してしまった。教師たちは、どうにか止めようと必死に説得したが、彼らの退学の意思を変えることはできなかった。

 結果、ひとつのクラスが一日でまるごと消えてしまったのである。これは、日本の教育史上でも類を見ない出来事だった。




 それから一月も経たぬうち、セント・エルモ学園の学園長は辞任に追い込まれた。教師たちも大半が辞職した。無論、その中には玉川も含まれている。

 その後、どうにか立て直しを図ったが……もはや、学園の評判は地に落ちていた。元生徒たちは次々と内情を暴露し、非人道的な教育方針までもが浮かび上がってしまう。

 結果、セント・エルモ学園は廃校となってしまった。進学率・就職率ともに百パーセントと言われていた超エリート校が、ひとりの生徒をきっかけに崩壊してしまったのである。

 二〇二〇年に入ると、もはや噂すら聞かなくなっていた。「そういや昔、そんな学校あったね」と言われる程度のものでしかない。

 さらに二〇二X年には、日本中をとんでもないニュースが駆け巡る──




 



 





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