大ハード(4)
「これ、どうなっちまうんだよ……」
木杉は、思わず呟いていた。
ほんの三十分くらい前、セント・エルモ学園は『白い牙』なる武装集団により占拠された……はずだった。
ところが今は、テロリストと暴走族とヤクザとUMAと怪盗(?)が入り乱れ、あちこちで戦いを繰り広げている。
その火種となっているのが、ここにいる只野なのだ──
混乱している状況の中、教室のスピーカーから声が聞こえてきた。
「貴様らぁ! おとなしくしろ! いいか、我々は校内にプラスチック爆弾を仕掛けた! その数は十箇所以上だ! スイッチひとつで、全てを爆発させられるのだぞ!」
おそらく北村であろう。とんでもないことを言い出してきた。さすがに、生徒たちの顔も一斉に青くなる。
だが、顔色が変わらない者もいた。
「プラスチック爆弾? なんたそりゃ?」
「ガンプラのバリエーションみたいなもんか?」
真顔で尋ねる一州連合のふたりに、只野は丁寧に説明する。
「プラスチック爆弾はですね、粘土みたいに簡単に形状を変えられる爆弾なんですよ。ただ威力は凄いです。たぶん、この校舎を吹っ飛ばすくらいはいけるのではないか、と」
「何だと! それはえらいこっちゃ!」
「どうするんだ只野!?」
パンチパーマが叫び、リーゼントが只野に迫った。しかし、只野は涼しい表情だ。
「うーん、僕は今のところ、この学園の生徒だからね……やっぱり、校舎を壊されるのは困るな」
「だったらよお、やるしかねえだろうが!」
「爆弾を取っ払おうぜ!」
またしても、謎のやる気を出している暴走族ふたり。そんなに正義感あるなら、暴走族なんかやめろよ……などと思う木杉であったが、さすがに声には出さなかった。
そんな中、状況はさらに混沌としていく。
「オラァ只野! これはどういうことだ! こいつら、お前の手下かぁ!? 出てこい只野ぉ!」
その声が誰のものであるか、間違いようもない。ついに、東亜組の鎌田が校内に侵入してきたのだ。廊下をドタドタ歩いてくる足音が聞こえてきた。
生徒たちが唖然となる中、鎌田が教室に入ってきてしまった。ゴツい体格は相変わらずだ。手には拳銃を持っているが、その拳銃もまたゴツいのだ。
彼の拳銃を見た途端、芳賀はハッとなる。確か、以前に只野が学校に持ち込んでいたモデルガンだ。家族で観た映画に登場した刑事が持っていた、世界最強と言われる拳銃である。
(四四マグナムは世界最強の拳銃だ。お前の頭を吹き飛ばすかもしれねえぞ)
そんな拳銃を握ったヤクザが、教室内に入って来たのだ。彼は只野を見るなり、恐ろしい勢いで突進してくる。
「コラァ只野! これはどうなっとるんじゃ!? どっかのアホアニメみたいに、学園がテロリストに占領されたとか言わないよなぁ!?」
「いや、実はその通りなんです。アホアニメみたいですが、本当に占領されちゃったんですよ。ハクい牙とかいうテロリスト集団です」
「ハクい牙じゃない。白い牙だ只野」
横から木杉にツッコまれ、只野は慌てて言い直した。
「ああ、そうでした。白い牙です」
この脱力感に満ちた声を聞き、鎌田の動きが止まった。口をポカンと開けたまま、只野をじっと見つめる。
だが、それは一瞬であった。鎌田は。その場で地団駄を踏み始める。地面をドスンドスンと踏みつけた。正確に五回である。横で見ている芳賀は、ちゃんと数えていた。前回来た時と、全く同じだ。
「ふざけやがって……白い牙だか赤い激流だか知らんが、調子にのるんじゃねえ!」
吠えた鎌田。いや、赤い激流ってなんだよ……と心の中でツッコむ木杉だったが、鎌田は既に戦闘モードに入ってしまった。
「こうなりゃやったるわ! テロリスト共を一網打尽じゃあ! 行くぞオラァ!」
怒鳴ると同時に、鎌田は廊下に飛び出して行ったのだ。皆が止める暇もない。
「おい、あいつが下手に暴れたら、北村はプラスチック爆弾を爆発させるんじゃないのか?」
木杉の至極もっともな言葉に、皆がハッとなる。
「と、とにかくお前らは逃げろ。校庭からなら脱出できる……」
言いかけたパンチパーマだったが、その場に立ち尽くしてしまった。
何と、校庭に猫が現れたのだ。それも、一匹や二匹ではない。黒、白、三毛、茶トラ、ブチなどなど……大きさも毛並みも多種多様な猫たちが、尻尾をピンと立ててこちらに向かって来るのだ。
そして芳賀は、この猫たちにも見覚えがあった。
この猫たち、ちょっと前に只野くんのテントで手打ち式をしていたよね……。
そう、その時の猫が集まって来たのだ。対立していたはずの猫の群れが、只野のいる場所を目指して進んで来ている……。
「た、只野……まさかと思うが、これもお前の知り合いなのか?」
木杉がそっと尋ねたところ、只野はウンウンと頷いた。
「うん、知り合いっていうか……まあ、いろいろあった時に相談に乗ってたんだよ。で、何しに来たの?」
恐ろしいことに、只野は猫に向かい真顔で話しかけていた。
すると、猫はニャアと答えたのだ。
「えっ、本当? じゃあ、手伝ってもらおうか……あのさぁ、プラスチック爆弾てわかる?」
これまた、真面目な顔で聞いている只野。こうなると、さすが木杉もツッコむことすら忘れている。周りの生徒たちも、唖然となり両者の会話を見守っている。
一方、リーダー格らしき黒猫は、得意げにニャアと鳴いた。途端に、只野は皆を見回す。
「凄いよ。ボス猫のアレクは、映画のダイハード観てプラスチック爆弾がどんなのかわかるんだってさ。今から、猫たちを総動員して見つけてくれるって。そしたら、後は僕らが起爆しないようにすればいいんだよ」
「えっ? どうやってやるんだよ?」
不安そうに尋ねたのは星川だ。
「いや、そんなの簡単だよ。粘土みたいな爆弾から、信管を抜けばいいだけだから。前にコマンド部隊を指揮してたジョン・メイトリクスさんに教えてもらったから」
「おい、大丈夫なのか……」
相変わらず不安そうな様子の星川だったが、只野は自信たっぷりの表情で顔を近づけていく。
「うん、大丈夫だよ。僕は、僕を信じてるから」
「なんでだよ!? お前のその自信の源は何なんだ!?」
星川は、思わず叫んでいた。ここがテロリストに占拠された学園内だということも忘れ、かねてからの疑問を只野にぶつける。
そして、その疑問は一年D組の生徒全員が薄々感じていた疑問でもあった。
しかし、それに対する解答は──
「だってさ、信じてるから信じてるんだよ。それ以外に言いようがない。カレーがなぜカレーか、なんて考えたこともないでしょ? それと一緒だよ。とにかく、みんなは危ないから逃げた方がいいよ。僕は、彼らと一緒に爆弾を探してみるからさ」
そう言うと、只野は教室を出ていってしまった。猫もまた、その後に続く。廊下からは銃声が聞こえていた。おそらく、テロリストと鎌田が撃ち合っているのだろう。
さらに上の階からは、微かに叫び声が聞こえてくる。怪盗ジャイアント・ホースが戦っているのか。それともUMAのセイトカイチョウが暴れているのか。
そんな中、只野がいなくなった教室を仕切り出したのは暴走族のふたりだった。
「そ、そうだ。只野の言う通りだ。やっぱり、お前らは逃げた方がいい」
「それもそうだ。俺たちが先に行くから、大丈夫だと思ったら付いてこい」
そう言うと、ふたりはおっかなびっくりで校庭に出ていった。生徒たちの大半は、その後に続く。
ただし、教室に残った者たちもいた。
「なあ芳賀、お前はなんで残ってる?」
聞いたのは木杉だ。すると、芳賀も聞き返す。
「そう言う木杉くんこそ、なんで残ってるの?」
「俺もいるぞ」
言ったのは幸田だ。次いで、宮本が口を開く。
「あたしは、なんか面白そうだから残った」
「お、俺は……なんか、あいつの言ってることが意味不明だから残った。このままだと、納得いかないよ」
星川は、本当に納得いかない様子だ。と、そこで芳賀が彼の肩を叩く。
「考えちゃ駄目。感じるんだよ」




