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只野聖斗は世界を改造する  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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3/8

学食

「はあ……」


 芳賀は溜息を吐いた。

 これから昼食の時間である。セント・エルモ学園の生徒たちは、基本的に学園内の食堂(通称・学食)で昼食をとる。

 元来、引っ込み思案で人見知りな芳賀にとって、食事の時間はつらいものであった。ひとりで食事をしているところを、他の者たちに見られる……これは、ある意味では苦行である。

 いっそ、何も食べずにいようか……そんなことを思いつつ、学食へと入っていく。


 セント・エルモ学園では、食事すらクラスによって違っている。

 Dクラスは、ご飯とおかず三品に味噌汁で終わりだ。しかも、ご飯は半分が米で半分が麦である。まるで刑務所のようなメニューだ。一応、おかわり自由ではあるが……何とも切なくなる内容である。

 これがCクラスになると、和食と洋食を選べる。魚か肉か選べて、さらに麺類も付けられるのだ。しかもデザート付きである。この時点で、はっきりとした差が出てくる。

 BクラスとAクラスは、そもそも学食の場所からして違う。そのため、彼らと食事で顔を合わせることはない。


 そして今、芳賀が学食に入っていくと……既にCクラスは、全員が揃い食べ始めていた。そう、彼らCクラスは時間に正確なのである。一方、Dクラスはまだ揃っていない。

 この食事の時間もまた、学園により意図的に作り出された比較の場なのである。どちらが時間に正確に動けるか、ここでも両クラスの競争意識を煽っているのだ。

 遅れて入ってきた芳賀には、Dクラスの面々から険しい視線が飛んでくる。遅いんだよ、とでも言いたげだ。一方、Cクラスから飛んできたのは侮蔑の視線だ。芳賀は慌てて自分の分を取り、空いているテーブルに着いた。

 まだ視線を感じる。恥ずかしい。他のみんなは既に仲良しグループができあがっているのに、自分はひとりで食べなくてはならない。しかも、こんな注目を浴びている中で……。

 だが、彼らの視線はすぐに離れた。別な人物が入ってきたからだ。

 芳賀は、そっと入口を見る。すると唖然となった。入ってきたのは只野である。しかも、手には布袋を持っているのだ。

 当然ながら、彼はCクラスとDクラス双方の視線を浴びている。にもかかわらず、彼に怯む気配はない。すたすた歩いていき、自分の分のお盆を手にすると、そのまま空いているテーブルに着いた。当然、ひとりである。

 そこから、只野の食事……いや、ステージが始まった。彼は、まず小型のガスバーナーを取り出す。

 それで、ご飯を炙り始めたのだ──

 

 唖然となる一同であったが、只野の奇行は止まらない。今度は布袋からゴリラのぬいぐるみを取り出し、隣の席に座らせたのだ。

 そして、ぬいぐるみに向かい語り出す。


「今回はご飯を炙ってみたぞ。焼きおにぎり的な味になるんじゃないかと思ったんだ。なあコング、どう思う?」


 続いてゴリラのぬいぐるみを持ち上げ、声音を変えて答える。


「んなもん知らねえよ。食ってみろ。でも飛行機は勘弁な」


 聞いている芳賀は仰天していた。食べるのも、ボッチ飯であることも忘れ、ただ見ていることしかできなかった。


 何よあれ……。

 ひとりで恥ずかしくないの?

 だいたい、飛行機は勘弁なって何? 意味わかんないよ?


 そんなことを考えている間にも、只野の奇行は続く。ゴリラのぬいぐるみを持ち上げ、こんなことを言ったのだ。


「おい只野、大統領でもぶん殴ってみせるから、それちょっと食わせろ」


 声音は低く、オッサン風である。直後、元の声音で答える。


「うん、コングが飛行機に乗ってくれたらいいよ」


「ふざけんな。俺は飛行機には絶対に乗らない」


 只野とコングの会話(?)を聞いているうちに、芳賀の中にもひとつの感情が生まれていた。


 私、何やってんだろう。

 只野くんのやってることに比べれば、ボッチ飯なんか大したことない。

 そう、みんなの視線なんか少しも怖くない!


 芳賀の体内は、ポジティブな思いで満たされていく。彼女は、たったひとりの食事を始めたのだ。

 その間にも、只野とコングの会話は続いている。


「それ、うまそげだな。どんな味だ?」


「すげー美味いよ。やっぱりさ、炎というのは命に繋がってるんだね。ご飯を燃やすことにより、人間の持つ命の炎も燃え上がるんだよ」


「なるほど。でも、飛行機の燃料だけは勘弁な」


 そんなことを言っている只野を横目で見つつ、芳賀も元気よくボッチ飯を楽しんでいた。


 ◆◆◆


 そんな只野を、忌々しげな目で見ている者たちがいた。


「おい木杉、あいつほっといていいのかよ? このままじゃ、Cクラスの奴らにナメられんぞ」


 そんなことを言ったのは幸田尊(コウダ タケル)である。体は大きく、喧嘩っ早そうな顔立ちだ。


「ほっとけ。どうせ、俺たちには関係ない」


 木杉は、すました表情で答えた。しかし、箸を持つ手は震えている。ふざけやがって……という感情を隠しきれていない。


「ほっといていいの? あいつがいたら、クラス内ポイントダダ下がりだよ。そしたら、あたしたちDクラスのままじゃん」


 言ったのは宮本静香(ミヤモト シズカ)だ。彼女もまた、ひとり芝居を続ける只野を睨んでいた。


 このセント・エルモ学園では、他の高校にはないシステムが導入されている。

 まず入学式で点数順にAからDまでのクラスに分けられる。Dクラスの寮にはエアコンすらなく、扇風機とストーブのみだ。学食のメニューも差があるし、学園内での待遇にも差がある。

 もっとも、これには続きがある。期末テストのクラス平均点にプラスして、各クラスのポイント次第で、クラスは入れ替わるのだ。下剋上システムと呼ばれているものである。

 CクラスとDクラスはもちろんのこと、点数次第ではAクラスとの入れ替わりも可能である。

 しかし、只野のような平均点を下げる生徒がいては、入れ替わりは叶わないのだ。


「いっそ、俺たちであいつを追い出さないか?」


 物騒なことを言い出したのは星川末次(ホシカワ スエツグ)だ。親は大企業の社長であり、Dクラスでもトップレベルの財力を誇る御曹司だ。

 しかし、木杉は首を横に振った。


「やめとけ。そんなことしても仕方ねえ」


「なんでだよ!? あいつがいたら、Cクラスを抜けねえだろうが!」


 食ってかかる星川だったが、木杉はクールな表情で宥める。


「まあ、待てよ。俺たちが動くまでもない」


「どういうことだ!?」


「わからないのか。もうじき中間テストだぞ。そうすりゃ、あいつは消える」


 木杉は、感情を押さえ答えた。

 そう、Dクラス内で中間テストで最低点を取ると寮を追い出される。さらに期末テストで最低点を取れば退学になる。

 もっとも、これまで中間テストで最低点を取り寮を追い出された生徒は、全て自主退学している。あまりにも恥ずかしい目に遭うからだ。


「けどさ、それまであいつにやりたい放題やらせとくわけ? すっげーウザいんだけど。さっさと追い出さない?」


 ふてくされたような口調で絡んできた宮本に対し、木杉は首を横に振った。


「駄目だ。今は、あいつを最下位で確定させておいた方がいい」


「なんで?」


「今、Dクラスで最下位は只野で確定だ。だから、お互い足を引っ張り合うこともない。クラスもひとつにまとまれる。だがな、只野がいなくなったら、間違いなく最下位争いが始まる。テストの時期になると、カンニングする奴まで出てくるぞ」


「本当かよ?」


 顔をしかめつつ聞いた星川に、木杉は頷く。


「ああ、そういうバカなことをやりだす奴が必ず出てくる。さらには、誰かを不正な手段で蹴落として最下位を回避、なんて考える奴も出てくる。しかし只野がいれば、そういう争いは起きないんだよ」


「でもさ、只野がいなくなったらどうすんの?」


 宮本に聞かれ、木杉は渋い表情になる。


「問題はそこなんだよ。だから、只野がいる間に対策を考えないとな」






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