〈TURN-8〉ミアと愛海、非情な戦争の記憶に嘆く。
――それは、ミアさんと愛海さんが、ティアーズアイランドに到着する5分前の事でした。
『このディレクション・ダイスを、君達に授けたいんだ』
ティーチの使者に命を狙われていた伊佐教授と、その娘の架純さん。
そんな彼等を助けたミアさんと愛海さんに、自身がミリオンダイスに参加する為に使われる『ディレクション・ダイス』というサイコロが埋められた方位磁針の腕時計をジュエリーケースごと渡された。
『……良いんですか? これが無ければ、またミリオンダイスに参加できなくなりますよ』
『そーよ! ミアから聞いたけど、あのゲームって危険だけど、運が良ければ億万長者も夢じゃないって話でしょ?』
そんなハイリスク・ハイリターンなゲームの存在を知ったミアさんと愛海さんとて、そんな貴重品を安々と受け取る訳にはいかないと最初は拒みました。しかし教授の腹は決まってました。
『こんな老いぼれに、もうそんな夢を抱く気は無いわい! それにコイツのお陰で、危うく死にそうになったんだから。ワシにとっちゃ良い厄介払いになるわ!』
等とディレクション・ダイスに対して厄病神のような言い振りで、懲り懲りな様子を見せた。
『私も考えましたが……これは間違いなく、ミアさん達が持ってる方が相応しいと思います。
自らの知恵でティーチの使者を潰したんですから。貴女達なら、あのゲームで勝ち取った賞金で、何か凄いことをしそうな気がしたんです。私利私欲じゃなくて、皆の為に……!』
教授を尻目に、架純さんは真剣な眼差しで本心を打ち明け、改めてディレクション・ダイスをミアさんに渡します。
彼女は少し躊躇いつつも、架純さんの意思を真摯に受け止めて、その方位サイコロも受け取った。
『このサイコロは確かに受け取ります。しかし……私がミリオンダイスに参加するかどうかは、動機が確立してから決めます。
ティアーズアイランドで戦争の本質を知るまで、少し時間を下さい……!!』
⚀⚁⚂⚃⚄⚅
――そして今、ミアさんは『ディレクション・ダイス』を手にミリオンダイスを参加する覚悟を決めようとしていました。
「本気なの? 本気であのミリオンダイスに挑むつもりなの? ミア」
「勿論本気ですよ。出ないとやる意味がありません。それに、私一人でやるつもりもありません。愛海さんとルカさんも一緒に、です」
「あたしはミアと一緒なら何処までもついて行くけど……ルカちゃんも巻き込んじゃって大丈夫?」
「ルカさんも愛海と一緒。彼女も本気で私達について行こうとしてるんです。泣き虫だけど、あの時の眼差しは真剣そのものでした。だから三人で、ミリオンダイスに挑むつもりです」
私、ルカが二人と出逢い、共に海を出たいと意思を表明した事で心が決まったのか。ミアさんはある確信もありつつ、心に決めた事がありました。
「それに……あの子に一つ気掛かりな事があるんです。私の思い込みかもしれませんが」
「気掛かり、って何よ?」
「あの時、ティーチの使者にやられる前に海が真っ二つに割れたでしょう? あの直前に、何か声がしたんですよ」
ティーチの使者との闘いで絶体絶命になっていた二人。モーセの海割りの如く、電脳海が真っ二つになって助かった訳ですが、その前に二人の頭の中で叫ぶ声を聞いたというのです。その声の詳細が、こちら。
『もう止めてっ、これ以上二人を……傷付けないでええええええッッ!!!!』
「あの声、今思えば……ルカさんに似ていたんです」
「うっそぉ!? それじゃあ、ルカちゃんがあの海を割ったって事?」
「それは分かりませんが……とにかく言えるのは、彼女と私達には、繋がれた因果があるのかも知れませんね……」
皆に様々な謎を残す人魚、それが私。なんて自分で言うのも烏滸がましいですが……。
ミアさん達は何時までも方位サイコロを持って、海に佇んでいられません。
いよいよ旅の本命、ティアーズアイランドの中心部。現実世界の戦争の記憶が刻まれた慰霊碑の祠へと向かいます……!
⚀⚁⚂⚃⚄⚅
―――ティアーズアイランド中心部・鎮魂の祠。
澄み切った電脳の海と、自然の恵みに育まれた森林の地下に祠は建てられていた。
そこには、地球上において繰り広げられた戦争の歴史と、それによって亡くなられた人々の証言や、時代考証を元に記録された全てのデータがここに眠っている。
黒曜石で創られた石板で創られたメモリーデータから、戦争の歴史が組み込まれている。そして、こう書かれていました。
―――地球上の戦争の歴史は、人の遺伝子に『闘い』が組み込まれているかのように、紀元前から行われている。
記録されている世界最古の戦争は、紀元前8000〜1万年頃のケニア・ナタラク遺跡で発見された集団虐殺の跡とされている。
そこからトロイア戦争、ポエニ戦争、マケドニア戦争と、ギリシャ神話・古代ローマに纏わる闘いを繰り広げていった。
そこから紀元後を経て、国が栄え、それと同時に幾多の戦争を繰り広げていく。その根源は民族、資源、宗教、領土の争いと言われており、それは古代から現代に至るまで変わらない。
特に人類史上最大の紛争と言われていた『第2次世界大戦』。
1939年9月1日のナチス・ドイツによるポーランド侵攻により、イギリスとフランスがドイツに宣戦布告し、欧州での戦争が勃発。
更にアジアでは1941年12月の日本軍による真珠湾攻撃が太平洋戦争の端緒となった。
その戦争の発端は、ヒトラー率いるナチス・ドイツの領土拡大からの軍事侵攻。
太平洋戦争は、アメリカが石油輸出を停止したのを起因に日本がアメリカの真珠湾に奇襲を仕掛けたのがきっかけとされています。
つまり、戦争のきっかけは国の指揮者・首脳の強烈なエゴからなったものであり、その本質は現代でも愚かしくも全く変わっていない事が分かる。
これらの戦争は、核爆弾の使用により終結に至ったが、結果として各国により強力な核兵器の生産・実験を繰り返し、核戦争の未来を予感させる情勢に至る訳である。今尚その脅威は消えていない。
そして今我々が生きる時代でも、世界の何処かで軍事侵攻が行われ、泥沼の争いを繰り返していく。果ての無い闘いに一体何を意味するのか。
そしてそれらの戦争が過去の記憶になった時、人々はその争いの無意味さを知り、愚かさを曝け出される事を憂うか……或いは―――
地 球 上 の 生 物 が 誰 一 人 と し て 居 な く な る 時 だ ろ う。
⚀⚁⚂⚃⚄⚅
……ここまで読んでくれた皆様、本当にありがとうございます。私も語っていて、こんなに辛くなった事はありませんでした。
でも、もっとシンドい思いをしたのは、ミアさんと愛海さんでした。
字だけでなく、生々しい映像や音、挙句に果てには匂いすらも遺していた戦争の記憶。これにより彼女達の心を抉り出し、吐き気までしてきたという。
これでもかと戦争の記憶を頭に叩きつけられて、虚無感に襲われながらも鎮魂の祠から出た二人。
そして祠から出て解放された時、次第に二人の眼から涙が溢れだした。
「…………大丈夫ですか、愛海」
「いや……ダメ、シンドい。辛い……。でも、戦争で亡くなった人達は、それ以上に辛い思いしてたんだもんね……。なんか……悔しいよ……!!」
元海上自衛官であり、己の正義を貫いていた愛海さん。その正義すらも無意味にさせるのが戦争の怖さ。太平洋戦争の神風特攻隊の記憶を見せられて、大きなショックを受けた愛海さん。
蹲るほどに泣き出す彼女に、ミアさんはしゃがんで背中を撫でながら慰める。
「……愛海が、ここまで泣いてくれて、こんなに優しい人で、私は良かったと思います」
「…………ミア」
そんなミアさんも、声を震わせながら泣いていました。
ミアさんの住むドイツでは、ナチス関連の事は完全なタブーとされています。以前からナチスでの残虐非道な行為は知っており、ホロコーストといった大量虐殺の事等をちゃんと知ろうと思い、勇気を出して真実を受け止め、そして涙を流しました。
「私に流れてるドイツの血も、時代が違ってたら非道な人種として……扱われてたのかも知れませんね」
「そんな事言わないでよ……っ!!」
遠回しに自虐し始めたミアに、今度は愛海が慰めます。そして互いに泣き叫びました。
忌わしい歴史を知る事は、非常に勇気が要ります。そしてそれをしっかり受け止めようとする者は、他者の悲しみを受け止め、涙を流せる人。
ミアさんと愛海さんは、改めて戦争を憎み、今そこにある平和を噛み締めていくのでした。
―――いや、ちょっと待って下さい。
“今そこにある平和”?
ホントに今は平和と呼べるのでしょうか?
停戦とされてるとはいえ、国同士で僻み合ってる。
泥沼の軍事侵攻は今も何処かで続いてる。
戦争は放棄しても、他国のミサイル発射や領土侵入に脅されている。
それって、本当の平和なんでしょうか……?
結局は資源や金がものを言うんでしょうか。何処まで領土を欲しがるんでしょうか。欲張りな独裁者に踊らされているだけでしょうか。SNSでの低レベルな口論で惑わされているだけでしょうか。
金と、それを支配する者が世界を動かすのなら……!
―――誰かが動かなきゃ、“永久の平和”なんか続かないんだ……!!
そんな想いがミアさんと愛海さんの心に抱いた時、いよいよある決心を固めるのです。
「………覚悟は決まりましたよ」
「奇遇ね。あたしも同じく!」
―――ミリオンダイスで、そんな金を奪い取ってやるんだ!!!!
いよいよ【MILLION’$ DICE】へ本格参戦するミアさんと、愛海さん!
次回はそんな究極のボードゲームの詳細をドンッと御紹介、ブックマークとしおりはそのままで!
――本日のターンは、これで終了!!
⚀⚁⚂Go to the next turn!⚃⚄⚅
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次回も『ミリオンダイス』でお会いしましょう!byルカ




