〈TURN-5〉ミアと愛海、勇敢に闘う。
――遊覧船は逃げる、海賊船は追う。
追いつ追われつの攻防を繰り広げる電脳の海原。
『ティーチの使者』の海賊船から放つ大砲の弾をがむしゃらに発射し、海に着弾した際の衝撃と高く上がる水柱が、船の乗客達を恐れ慄かせる。
すると突然、海賊船の攻撃が鳴り止んだ。
遊覧船の格納口が開き、一台の水陸両用車と乗り込む二人が今にも発進しようとしているのを見て、ティーチの使者は攻撃を止めたのです。
――伊佐教授に変装したミアさんと愛海さん。そしてミアさんの水陸両用車『WADATUMI』が、海賊船へ突入していきます!
「……行くよ、ミアちゃん!」
「お願いします……!」
互いに小声で合図を交わす。自衛隊で水陸両用車の免許も持っていた愛海さんが運転し、水上前進させます。
漆黒の電脳海の波に乗って、ミアさんと愛海さんは敵陣、つまり海賊船の船体中央の下まで、車を近付いていきました。
「伊佐教授を連れてきたわ! 縄梯子を降ろして下さい!」
愛海さんは大声で指示を促します。
「その前に、ディレクション・ダイスを見せてからだ!!」
当然、敵側も警戒します。先程の敵前逃亡から、また欺かれないとも限らないと思ったのでしょう。
ミアさんはジュエリーケースを取り出し、本物のディレクション・ダイスをティーチの使者に見せた。
カバーの中にあるサイコロが、本物であると確信したのでしょうか。船員は約束通り縄梯子を降ろして、伊佐教授に変装したミアさんを引き渡すつもりです。
既に遊覧船の方は、ティーチの使者が気を引いている内にどんどんその距離を離していく。凡そ400メートルまで離れ、安全区域まで辿り着こうとしている所。
その距離を見計らいつつ、ミアさんは降ろされた縄梯子に手を掛け、登っていく。それと同時に愛海さんもWADATUMIを発車し、船から離れます。
登る途中、ミアさんは後ろを見渡す。遊覧船の姿は霧に隠れ、更に距離が離れたのを確認する。そして、ティーチの使者に煽り始めます……!
「罪もない人から奪った金品で、ミリオンダイスをするゲームは楽しいですか?」
「何!? お前は……!」
先程の交渉で聞いた女の声に、いち早く伊佐教授で無い事を気付いた船員。ここで猿芝居は終わりだと言わんばかりに、ミアさんは変装を取ります。
「貴方達みたいなのが居なくならないから、不毛な争いも、不条理な涙さえも無くならないんだ……!! ―――愛海さんッッ!!!」
「よっしゃーー!!」
愛海さんは合図に合わせて車を急加速、Uターン。その動きに合わせてミアさんも、縄梯子から飛び降りて車の助手席にスタッと着地。全速前進で海賊船から離脱します。
「クソぉ、騙したなこのアマーー!!」
「逃がすなーーー!!」
これにはティーチの使者も怒り心頭。しかしミアさんはそれ以上に怒っていたのを、愛海さんもこの私も分かっていました。
ディレクション・ダイスを携え、電脳海をWADATUMIが水飛沫を上げて突っ走っていきます。
だけど敵もさる者。海賊船のエンジンのギアを急速に上げて、途轍もない馬力でミアさん達を追い掛け、またしても砲弾攻撃を仕掛けていきます。
「来ちゃったよぉ……! これからどうするの!?」
「愛海さんは引き続き運転をお願いします。ここからが、私達の正念場です!!」
ミアさんの決心固く、荒波をも逆らい、突き進むは勝利への道……なのでしょうか。
ただひたすらに、敵の砲弾攻撃を避けながら逃げるように見えますが、ミアさんには秘策がありました。
「私の記憶では、この辺りの筈なんですが……」
「何を探そうとしてるの?」
「ティアーズアイランド近辺に、船をも進路を遮るほどの大きな岩礁があるんです。そこに輩を誘き寄せます」
岩礁とは、海面近くに存在する岩石の塊や浅瀬の事です。遊覧船の航海ルートの途中で、岩礁から避けるために大きく方向を変える事を知っていたミアさんは、そこに海賊船を誘い込んで、座礁させようと考えたのです。
ミアさんの眼前に、その岩礁と思われる塔のような岩石の柱の数々が見えてきました。
「よし、突っ込みますよ!」
石柱の間をスレスレに、華麗なコーナリングで突破していく。小型で小回りの利くWADATUMIに対し、同じく岩礁に突入した海賊船は、車の何十倍もの大きさからは勝てず、石柱の間に船体が挟まれて動きが封じられました。
「やったぁ!!」
作戦成功に喜ぶミアさんと愛海さん。……しかしここで、計算外な事が起こりました。
怒りに我を忘れる者が如く、猪突猛進なエンジンの馬力によって、無理矢理に岩礁の岩々を破壊して突き進む!
「やだ、うっそぉ!?」
「マドリードの牛も真っ青ですね」
まさに中東の闘牛と言うべきでしょうか。物凄いパワーとスピードを持って、次々と岩礁の岩をぶち壊し、ミアさん達を追い詰めていきます。
それに追い打ちを書けるように、岩を砲弾で倒壊させて、倒れた石柱がミアさんの車を阻み、逃げ道を狭めていきます。そして、恐れていた最悪の事態が……!
「しまった、行き止まりだ!!」
「ダメ、ぶつかる!!!」
海底火山の活動によって隆起された岩壁が、ミアさんの目の前に立ち塞がっていました!!
―――KABOOOOOM!!!
――SPLASH!!
「「きゃあああああああああ!!!!!」」
あわや追突かと思われたその刹那、敵の砲弾がミアさん達の真下に着弾し、衝撃に生じた水柱がWADATUMIを押し上げて、車ごと岩壁の上に奇跡的に乗り上げたのでした!
まさに海神の加護でしょうか。九死に一生を得たミアさんと愛海さん……でも、ありませんでした。
横転した車に投げ出された二人の背後には、海賊船の影…………!!
「…………絶体絶命、ですね」
「どうやらそうみたい」
既に海賊船の中からは、無数の砲台がミアさんと愛海さんに狙いを付けていました。これに逃げようにも、岩壁の上からでは逃げようがありません。
勇敢に戦ったにも関わらず、万策尽きた二人は地面にへたり込んでしまいました。
「……ごめんなさい、愛海さん。貴方を危険に巻き込んでしまって。不甲斐ない私で宜しければ、思う存分怒って下さい……!」
他人の命を巻き添えにしてしまった事に、深く頭を下げて謝罪するミアさん。それに対して愛海さんは……
―――ぴんっ!
「痛っ!」
ミアさんのおでこ目掛けて中指を弾いた。
「今のは怒ったからじゃないよ。ミアちゃんが諦めそうになってたから。今だってデコピンで痛がってるし、生きてんじゃん! 一緒に最期まで抗ってみましょう! 危険はあたしにとって、生き抜く為のスパイスだって思ってんだから!!」
「愛海さん……?」
そして愛海さんは、ミアさんの前で庇うように仁王立ちした。
「さぁ、撃てるもんなら撃ってみなさい! でもミアちゃんに傷付けたら承知しないわよ!!」
「愛海さん! ダメです、貴女が死んじゃ……」
「あたしは、死なないよッッッ!!!!」
「…………!!」
ミアさんから見て、愛海さんの足からの震えは止まらず、それが全身に来ている事は分かっていました。
怖い、死ぬのはあたしだって怖い、と。けれど愛海さんの叫びから来た強固な意志は、確かにミアさんの心に突き動かしていました。
「海賊ごっこは終わりか? 小娘。今度ばかりはカリブ海で暴れ回るアン・ボニーとメアリ・リードとはいかないぜ」
と、女の友情にしゃしゃり出るティーチの使者の船長。皮肉を効かせた煽りを魅せるが、
「…………何それ? どこぞのお菓子??」
(昔の有名な女海賊の名前ですよ、愛海さん……)
無教養に皮肉は効きませんでした!!
「……お前、馬鹿か?」
「はー!? 馬鹿って言った方が馬鹿だもんね、ヒゲのバーーカ!!」
等としょーもない冗談はさておいて。
「……まぁ、良い。どうせお前等はここで死ぬんだ。さっき俺達がミリオンダイスを参加してどーたら言ってたな? 平和ボケして情勢を理解しようとしない日本人と、そこの日本とドイツの敗戦ハーフ女の二人に教えてやるよ。
―――この世は金が全てなんだよ……!! 強い奴が大金を牛耳り、その欲で略奪と戦争を繰り返す。
弱い奴はそれらの言いなりになって、鉄砲玉と爆破に巻き込まれて死んでりゃ良いんだ!!!」
血も涙もない、残虐者の高笑いが漆黒の電脳海に木霊する。それを目の当たりにしたミアさん、愛海さんの怒りは頂点に達しました。
((コイツ……ッッ、絶対許さない………!!!!))
そして、無意識に二人の手と手が握り合って、窮地の中で芽生えた絆を確かめ合った……!
「愛海さん、ありがとうございます。やっぱり最後まで諦めちゃ駄目ですよね。――私も、精一杯生き抜いてやりましょう!!」
「そうこなくっちゃ! あたしは何時でもミアちゃんと一緒だよ!!」
海原に芽生えた女たちの絆の花。それは心から咲き誇った魂の花。
ミアさんは、その魂から覚醒して能力を経て『ゲーム戦士』になった。更に愛海さんもゲームが大好きでたった為に『ゲーム戦士』に覚醒していました。
二人のゲーム戦士の魂が、絶体絶命の場面で力を発揮し、最後の最後まで諦めない意志が共鳴し合った時……!
「「―――行くぞォォォォォッッッ!!!!!」」
―――不思議な事が、起こりました……!!
『もう止めてっ、これ以上二人を……傷付けないでええええええッッ!!!!』
ゴコゴゴゴゴゴ………!!
「!?」
「え、何!?」
「何でしょう……?」
天地神明、電脳の世界に神が宿るというのなら、今がその時でありましょうか……!?
電脳の海が、地平線の彼方から強風と地響きを立てて、真っ二つに割れていくではありませんか!!
「ふぇええ?! 何アレ!!?」
「まるで、モーセの海割りのようですね……!」
しかもその分断していく海は、ミアさん達の岩壁を境に開き始め、ちょうどその正面に立っていた海賊船は、乾いた海底への真っ逆さまに転落していった。
「「「うわあああああああああッッッ」」」
この衝撃により、巨大な海賊船は大破。そしてあっという間に真っ二つに割れた海は元に戻り、海賊船は急激に上がった水嵩の高さにバランスが崩れ、転覆していった。
「…………ねぇ、愛海さん。神様って、仮想空間にも居るんでしょうか?」
「あたし馬鹿だからわかんない。でも……あたし達助かった、のね」
夢か真か、仮想空間であるゲームワールドに問い質しても答えに困るミアさんと愛海さん。今はただ、窮地を脱した事にホッと胸を撫で下ろすだけでした。
⚀⚁⚂⚃⚄⚅
――その数分後、遊覧船からの緊急通報により出動したゲームワールドのセキュリティ警備隊が駆け付け、ティーチの使者の船長並びに船員が逮捕されました。
その後を追うように、退避していた遊覧船がミアさん達を迎えに戻ってきてくれました。
乗客の皆さんや伊佐教授、娘の架純さんからは笑顔で彼女達の健闘を讃えてくれます。
「……ね? 最後まで諦めなくて良かったでしょ」
「ホント、その通りですね。愛海さん」
「もう、『愛海』で良いよ! あたしも『ミア』で呼び捨てしちゃうから」
「それって、かえって失礼になりませんか?」
「その逆よ。今からあたし達は“親友”! ミアと愛海で、一緒!!」
「親友……この上なく良い響きですね。愛海!」
「そうそう、その調子♪ それじゃそれを証明する為に、誓いの握手しちゃおうよ、ミア!」
そして、二人はギュッと温かい手を握り合いました。死線を渡り歩いて手に滾った熱と血潮が、互いに生き抜いた証となったのです。
―――間もなく、電脳の海から太陽が昇っています。朝焼けの太陽です。
その太陽の先には、ミアさん達が行きたがっていた『ティアーズアイランド』があります。
私……ルカは、そこで貴女達と出会う事になるのです。
ミアさんと、愛海さんと、私。三人で『ミリオンダイス』に挑むために……!!
さぁ、ミアさん、愛海さん。早く私がいる『ティアーズアイランド』に来てください!
私は―――貴女達をずっと待っていたのです!!
⚀⚁⚂Go to the next turn!⚃⚄⚅
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今後とも『ミリオンダイス』の応援、宜しくお願いします!!




