第8話 幸のスペック
バトル(笑)
ジェスト達は、ザワザワと呻くような音を立てる森をジェストが先行し、その後ろをてくてくと幸が追いかけてくるという陣形で慎重に進んでいた。魔物に不意打ちできるよう、なるべく息を殺し、音を立てないよう歩いている。
歩き続けること約五分。ジェストが急に、そして静かにしゃがみ込んだ。幸も真似をするようにしゃがみ込む。
「前方に二体の灰狼がいる。幸、やってくれ」
「わ、分かりました…身体強化・初」
幸がそう唱えると、ジェストの体がほんのりと光る。ジェストはそれを確認すると、体に異常が無いか確認し、腰に帯刀したロングソードに手を掛け、眼前の灰狼目掛けて思いっきり踏み込んだ。
(これが身体強化…体が軽い。そして…)
灰狼はジェストが斬りかかっている事に気付かぬまま、首元を一刀両断される。
(速い)
隣にいた灰狼がジェストの存在に気付き直ぐに噛み付こうとしたが、ジェストの剣が牙を斬り、口内を引き裂き頭の半分を飛ばした。
幸は灰狼が死んだのを確認すると、ふぅ、と息を吐いた。そして、ジェストの方に小走りで近づいてきた。
「どうでしたか…?僕の魔法は…」
幸は不安げな顔でジェストに問う。ジェストは剣を降って付いた血を取り、鞘へ戻してから答えた。
「…何時もより格段に戦いやすかった。幸を殺そうとした渡部とやらはきっと後悔するだろう。それぐらい素晴らしかったと、思う」
幸はそれを聞くと安堵と嬉しさの混じったような顔をした。錫杖を握る力が弱まる。
「良かったぁ…約立たずなんて言われたらどうしようかと思いましたよ。ありがとうございます!」
「約立たずなんて言う訳ないだろう。寧ろ助かった。感謝する」
森の中に、二人で謎のほのぼの空間を作り出す。当の本人達は気付いていないが、周りから見れば勘違いしそうな光景が繰り広げられていた。だが、そもそも幸は男である。
ジェストはほんのり空間を堪能(無意識)したあと早速灰狼の解体を始める。幸が色んな角度からジェストの解体作業をまじまじと見つめている。
「そういえば、なんでこの森には灰狼しかいないんですかね?他の魔物がいても何ら不思議ではないんですが…」
「…よく分からないが、そういうものなのだろう。ダンジョン自体が奇怪なものだからな。」
ダンジョンはその小さな外見に見合わず、その中には広大な場所があり、しかもそれが五層も続くのだ。また、各層によって彼方地平線まで続いていそうな大海、溶岩やマグマがドロドロと流れる火山地帯など、様々な環境に変化する。各国の学者が、ダンジョンの謎を解明出来れば何かわかるのではないかと研究を続けたが、人類の叡智を持ってしても解明は出来なかった。そんな謎をジェストが知るはずもない。だから、「そういうもの」として処理する他なかった。
ジェストは灰狼二体の解体を終わらし、素材を雑嚢に入れて背負う。
「行くぞ。二人分稼ぐんだ。急ぐぞ」
「は、はい!」
幸は慌てて錫杖を拾い上げて、ジェストの後を追う。ジェストはそれを見て気を使ったのか、何時もより歩く速度を落とした。
「…よし。今日はこのぐらいでいいだろう」
「結構殺りましたね…。えっと…全部で十二体ですね。」
あれからジェスト達は灰狼を順調に斃し続け、遂に本日のノルマを達成した。ジェストは灰狼の素材でパンパンに膨らんだ雑嚢を拾い上げ、幸とダンジョンの出口へと歩き出した。
「幸のお陰で順調に進んだな…疲労感も差程無い。感謝する」
「そ、そうですか…えへへ、褒められるのは慣れてないから恥ずかしいですね」
幸は顔を赤らめながらジェストの隣を歩く。その顔は嬉しさと恥ずかしさが綯い交ぜになっているが、笑顔であることには変わりなかった。
幸きゅん頼りになるナリねぇ…




