第6話 吐き出す。そして救われる
キ ャ ラ 崩 壊
冒険者の朝は早い。ジェストは今日も今日とてベッドから降り、ダンジョンへ行くための支度を始める。
「…よし」
そしたジェストは支度を終え、ダンジョンへいざ行かんと宿の部屋を出――
「おはようございます!ジェストさん!」
「…」
ようとしたが問題が発生したためドアをそっと閉じた。
「ねえ!閉じないでくださいよ!流石に傷つきますよ!?」
幸がドアをバンバン叩きながら悲痛な叫びをあげる。ジェストは大きな溜息をつき、再度ドアを開けた。
「…なんだ」
「おはようございます!ジェストさん!ダンジョン行きま――」
ばたん
「ねぇ!閉めないでくださいよ!二回目は流石につまらないですって!」
幸がまたバンバンドアを叩きながら、悲痛な叫びを上げている。
(どうしてこうなった…)
原因は昨日の病院での出来事にある。昨日、幸に「パーティ組んでください」とジェストは頼まれたのだ。ジェストは食い気味でその話を蹴った。
(まさかアイツがこんなに面倒な性格の奴だとは…一度決めたら真っ直ぐ突き進むというか、突進してくるタイプだ)
この手の輩は目的を達成するまで、絶対に折れないとジェストは知っていた。
「…はぁぁ」
ジェストはまた一つ、大きな溜息をついた。
「いやぁ。今日はよろしくお願いしますね!ジェストさん!」
「…」
ジェストと幸は、結局、ジェストは幸と渋々一緒にダンジョンを潜ることになった。
(昨日の謙虚さは一体何処へ…)
ジェストは隣を歩く幸を見て、ため息をついた。幸は不思議そうにそれを見つめている。
「でもなんでジェストさんは、そんなにも人とパーティ組むのを嫌がるんですか?」
幸が歩きながら質問する。それはジェストに対して、地雷を踏む行為に等しかった。しかし、ジェストはポツポツと話し始めた。
「…俺は、強くない。もうかれこれ二十年近く、ほぼ毎日ダンジョンに潜り戦闘を続けたが、Lv10から上がらない。とっくの昔に成長限界が来てしまったんだ。だから俺は当時組んでいたパーティを辞めた。皆に迷惑をかけてしまうから。皆は引き止めてくれたが、俺はそれを押し切った」
「…」
幸は真剣な顔でジェストの話を聞いている。ジェストの話は止まらない。何故話を止められないのか、ジェスト自身にも分からなかった。
「常人なら成長限界Lv10という事実を知った時点で、冒険者を辞める。だが、俺が稼ぐには冒険者ぐらいしか方法がなかった。冒険者を続けているものだから、周りの冒険者からは現実を見れない夢見がちな奴認定された。避けられ、嘲笑われ、蔑まれた」
ジェストの顔が段々と暗くなっていく。それと比例するように、歩く速度が遅くなる。
ジェストはいつになく饒舌になった。まるで、心の膿を吐き出していくように。
「そんな俺にも…妻と子供がいた。楽しかったよ。あの頃は…本当に楽しかった。だが、失ってしまった。ある日ダンジョンから帰ってきたら、町が消えていたんだ別のダンジョンから魔物が溢れたんだ…あの日、全てを、失った…」
ジェストの眼は完全に、濁っていた。
「俺は…行く宛てもなく彷徨い、この街に辿り着いた。そして、今に至る…俺と組めば、幸は俺と同じように異端扱いされるだろう。いや、違うな…これは建前だ」
ジェストは泣きそうな顔で、小さな声で、呟いた。
「失うのが…怖いんだ」
「…そう、だったんですか」
ジェストと幸は、遂に歩くのをやめてしまった。ジェストは全てを吐き出した。今まで溜め込んでいた全てを、会って間もない子供に。普通ならこんな男気持ち悪くて、パーティ云々の話は無しになるだろう。
だが、影宮 幸は違った。
「別に僕は異端扱いされても構いませんよ。そういうの慣れっこですし」
「だ、だが――」
「それに、別にダンジョンを攻略しようだなんて思ってませんから。一回層にずっと居座るつもりです。一回層なら死ぬことも無いでしょう。まあ、死にかけた僕が言うのもなんですが」
ジェストには意味が分からなかった。何故ここまで自分に拘るのか。
「何故、そこまで…」
「…最初は恩返しのつもりだったんですが…困っている人を見つけたら、放置する訳にはいかないじゃないですか」
幸は笑顔でそう言った。そして、ジェストは気付いた。この男は底無しの良心を持った人間だと。
ジェストは知っていた。コイツは本当に何を言っても聞かない頑固者だと。
(何故こんなヤツが虐められていたのか、本当に分からない)
「…後悔しても知らんぞ」
「っ!!はい!!」
二人を導くように、太陽が道を照らしていく。その道を、二人は歩き出すのだった。
いやーテンションの上がり下がりパないのぉ




