第11話 化け物
受験っす
朝日が顔を出してから数時間後、ジェストと幸は各々支度を済まし、いつものように順調にダンジョンへと足を運んでいた。
「ジェストさん、そろそろ着きますね。今日も灰狼ですか?」
「ああ…っ!?」
ジェストはその時、全身が粟立ち謎の不信感に襲われた。突然の事に、ジェストはその場で立ち止まってしまう。
「どうしたんですかジェストさん。急に立ち止まったりして」
「いや…何でもない」
幸はジェストの奇行に不思議がっていたが、ジェストが歩き出した為、幸もジェストの後を追った。
(今のは、なんだったんだ?何も無ければいいが…)
ジェストは不信感を拭えぬまま、ダンジョンへと突入するのだった。
階段を登り切ると、そこには毎日飽きるほど見た草原、森、山々が広がっている。ジェストはそんな光景に安堵すると、ずんずんと森へと歩き出した。すると歩いてる途中、ふと幸がジェストに質問をした
「そういえば、なんでジェストさんは灰狼しか倒さないんですか?もっと他の魔物もいるじゃないですか。ほら、あそこにも」
幸が指を指した方には、水色のゼリーのような魔物、スライムがいた。そのスペックは全魔物の中で最も弱いとされている、ルーキー御用達の魔物だ。今だって、明らかに剣の使い方がなっていない冒険者にいとも容易く殺られてしまっている。
「…特に理由はないが、敢えて理由を作るなら「慣れている」からだな」
「慣れている、ですか」
「ああ、昔住んでいた町のダンジョンは狼が多かったからな」
「………」
幸は「こりゃやっちまった」と言っていそうな顔をして、黙り込んでしまった。ジェストには、住んでいた町がダンジョンの「決壊」によって蹂躙された過去がある。それを思い出させてしまったと、幸は話してしまってから気付いたのだ。
「幸が気に病む必要は無い。辛かったのは事実だが、もう終わった事だ」
「…はい」
幸は笑顔で返事をするが、明らかに落ち込んだ様子でとぼとぼと歩いていく。
(気に病む必要は無いと言ったんだが…まあ、アイツの性格上仕方ないか)
ジェストは嘆息して、目の前を歩く幸を追いかけた。
「幸、頼む」
「わっかりました!《身体強化・初》!」
幸がそう唱えると、ジェストの体が淡い光に包まれた。ジェストはそれを確認すると、目の前でうろうろしている灰狼目掛けて突っ込んだ。
「ふっ」
一閃。灰狼の首がズレ落ちる。そして首から大量の血を吹き出して斃れた。
「お疲れ様ですジェストさん!てかジェストさんどんどん太刀筋良くなってません?」
「あまり意識はしていないが…それだけ幸の魔法が凄いのだろう」
あれから二時間程経った頃、幸はすっかり調子を取り戻してジェストと共に灰狼と戦っていた。ここまで順調そのものであり、ジェスト達は「そろそろ街に戻ろうか」と考えていた。
しかし、そんな冒険はある異変によって一変することになる。
「…これは」
「揺れてます、ね」
ジェスト達が灰狼をあらかた解体し終わった直後、森に謎の地響きが発生した。その地響きはどういう訳か、どんどんとジェスト達のいる方向へと向かってきているようだ。
「ッ!幸ッ!逃げるぞッ!」
「え?あ、はい!」
ジェストはこの地響きが根拠はないが只事ではないと確信し、幸に呼びかけ共にその場から走り去った。幸は何も分からなかったが、森に何回も何十回も何百回も足を運んでいるジェストが焦るのだから、相当不味いことが起きているのだろうとすぐさま察した。
(ダンジョン前のあれといい、今のこの揺れといい…一体なんなんだ)
ジェストの表情には焦り、恐怖等が見える。今までに無かった本能からの謎の不安が、ジェストをより一層恐怖させ、焦らせていた。
ジェストはその不安の原因を探るべく、走りながら後ろを振り返ると
「なんだ、あの化け物は…」
そこには、魔物がいた。いや、それを表現するには魔物と言うネーミングは的外れかもしれない。太く、紅く、頑丈そうで血管が浮き出ているまるで牛のような足、しかし胴体はびっしりと緑の鱗が敷き詰められており、かの竜を思い出させる風貌をしていた。片方の腕は毛に覆われた獣のような形状をしている一方、もう片方の腕はタコの触腕のような形状をしている。首から上は熊になっており、その口からは荒々しい息が吹き出ている。背中からは悪魔を思わせるような漆黒の翼が生えている。
ジェストの表現は中々的を得ていた。その容姿はさながら化け物であった。ジェストの本能が訴えかける。「あれは近づいてはいけない」と。しかし、少し訴えかけるには遅かったようだ。
化け物と、目が合ってしまったのだ。すると、化け物は突如、仰け反るような体制に移行した。このとき、ジェストの危機察知センサーが悲鳴のような警告を鳴らした。
「ッ!!!幸!!!耳を塞げッッッ!!!」
「は――」
「ウッギッギア…ギィアイガアイィィイイガァァァアアアア!!!!!」
突如、魔物の音を全て混ぜたような、この世でこれ以上不快な音は無いんじゃなかろうか、というような化け物の咆哮が森全体に響き渡る。
「ぐっぐうぅぅぅっっ」
「うううぅっうぅっ」
咆哮はジェスト達を襲う。その咆哮はまるで衝撃波のようであった。咆哮が止むと、ジェストはその場に膝を付き、幸は倒れた。
「幸、生きて、るか」
「は、はい…一応。今の、なん、ですか?」
「俺にも、さっぱりわからん。だが、一つだけわかることが、ある。あれは、化け物、だ」
ジェストは体を懸命に起こした。幸も悲鳴を上げている体に鞭を打って起こす。
「幸、逃げるぞっ!」
「は、はいっ!」
ジェスト達は再度走り始めた。後ろを振り返ると、化け物はこちら目掛けて追いかけてきた。
(走るスピードは同じ、いや、こっちの方が少し速いな…だか、何なんだあの化け物はっ…見るだけでわかる程のレベル差、この階層にいるはずがない。このままでは俺達が全滅どころか、この階層にいる殆どの冒険者が蹂躙されるだろう…)
ここはダーテダンジョン一回層、冒険者としてまだまだヒヨっ子な者共が集まる場所。こんなところで格上の魔物が暴れようものなら、一瞬で辺り一面血の海になるだろう。
(しかし、俺に何が出来る…この雑魚に、何が――)
ジェストが諦めかけたその時、隣で一生懸命に走っている幸の存在に気付いた。幸を見た途端、ジェストの頭に一つの考えが過ぎる。コイツとなら、サポートに特化している幸となら、奴を食い止められるかもしれない、と。
(しかし…相手は未知数の魔物。幸を危険に晒すには…)
「ジェストさん、まさかアイツ倒そうとか思ってます?」
「なっ!?」
ジェストが一人うんうんと悩んでいると、幸が思いもよらぬことを聞いてきた。ジェストは内心口に出していたか…?と思ってしまう程、的確に思案していた事を突かれていた。
「あ、やっぱりそうだったんですね。僕の力があれば〜とか、思ってたりしてたんでしょう?だったらやりましょう!」
「だ、だか――」
「ジェストさんは過保護過ぎなんですよ。僕だってこの見てくれですが、冒険者なんです。冒険者が冒険しなくてどうするんですか」
ジェストは反論する余地なく、幸に被せ気味に説得された。幸の言っている事はジェストにも理解出来た。
「…済まない、危険だと判断すれば直ぐに逃げる」
「今この瞬間がだいぶ危険ですけどね…」
「違いない」
そんな軽口を叩けるまでに回復したジェスト達は、全力で走っていた足を止め、謎の魔物に向き直る。謎の魔物はどすどすと音を立てこちらに向かってきている。その光景に圧倒されながらも、ジェストは口を開いた。
「幸、今から俺は少し無茶をするが、それを止めたりしないでくれ。いいな?」
「はい。でも、一体何を…?」
ジェストは冷や汗をかきながら幸に告げた。
「お前が使える最上位の支援魔法、全部俺に掛けろ」
「…まじっすか」
静寂の中に、魔物の足音が木霊していた。
投稿頻度ガタ落ちになるっす




