第10話 不穏
長くなりますた。
「…気絶しているな」
「え、僕が男だって事そんなにショックだったの?」
ジェストと幸は倒れたライゼルが生きていることを確認すると、気絶しているライゼルを彼のパーティメンバーに引き取ってもらった。
「さて…やっと換金出来るな」
そう言ってジェストはずんずんと受付まで一直線に歩く。すると、それに気付いた1人の受付嬢がすかさず受付に戻る。
「どうも、ジェストさん!…ジェストさん、隣の子供さんは?」
「僕一応冒険者登録したんだけどなあ…」
「幸だ。昨日冒険者になったばかりの新人だ。俺とパーティを組んでいる」
「へえ、パーティを…え!?パーティ!?」
アリアはまるで有り得ないものを見たかのような声を出した。これまでジェストと付き合いの長かったアリアですら、彼がパーティを組んだところを見た事がなかった。アリアにとって、今の状況は非常事態と言っても過言では無かった。
「ジェストが?パーティ?マジですか?」
「ホントだよ!ね!ジェストさん!」
「あ、ああ…」
ジェストは幸やアリアのリアクションに気圧されて、ぎこちない返事になってしまった。ジェストは驚かれはすると思っていたが、まさかここまで驚かれるとは想像もしなかったのだ。
「アリア、そろそろ換金を済ませて欲しい」
「…あ、そうですね。分かりました。では此方へどうぞ」
ジェストは後ろからの突き刺すような視線から、早急に逃げ出したかった為、アリアに換金を急かした。
換金所に着くと、アリアはジェストから雑嚢を受け取り、中から素材を出して鑑定し始めた。
「…今日は一段と素材の状態がいいですね。何時もより切った跡が綺麗です!これ、どうしたんですか?」
「幸に支援魔法を解体時も掛け続けてもらった」
「僕が掛け続けました!」
身体強化・初を解体時に使用した結果、何時もなら硬く切りにくく、力任せに雑にやってしまう毛皮などを、より丁寧に切り取ることが出来た。ジェストにとってこれは新たな発見である。
「…よし!終わりましたよ!今回は2000Gです!状態がとても良かったのでこれが適正価格になるかと!」
「わかった、感謝する。ああ、六対四ぐらいに分けてくれ。幸用が六、俺が四で」
「…えっ、六割もくれるんですか!?僕支援魔法を掛け続けてただけですよ!?」
幸は一瞬硬直した。が、慌てて意識を取り戻して驚いた様子でそう言うと、ジェストはため息混じりに言った。
「…幸はもっと自信を持った方がいい。そもそもお前の支援が無ければ、俺はこんなに灰狼を仕留められないし、解体もこうも上手くはいかなかっただろう」
「そ、そうですか」
「ああ、そうだ」
幸は渡部達に裏切られ支援魔法を小馬鹿にされた事もあり、心のどこかで「自分の支援魔法は大したことが無い」と、思い込んでいたのだろう。しかし今、ジェストの言葉によってその雑念は綺麗さっぱり消失した。
「そう、ですか…少し自信が湧きました!ありがとうございます!」
幸は再び笑顔を取り戻し、ジェストに感謝を伝える。それを見たジェストは少し口角を上げた。
「…笑った?…あのジェストさんが笑った?」
「…そんなに驚く事でもないだろう。俺だって一人の人間だ」
アリアは内心「何か悪いことでも起きるんじゃなかろうか」と割と本気で思っていた。しかし、これを発言することによってジェストとの仲が拗れることは避けたいので、アリアは喉まで出かかったものを無理やり押し込めた。
「で、では、こちらが今回の報酬になります!お受け取りください!」
「ああ、すまんな」
ジェストは少し頭を下げてから、金が入った袋を受け取る。幸もそれを見て慌てて礼をしてから受け取った。
その時突然、ぐーという音がジェストの隣から聞こえた。そちらでは、幸が顔を真っ赤にして突っ立っている。
「…ジェストさん。お腹が空いたので何か食べたいのですが…」
「…そうだな。何か食べるか」
ジェストはそう言って辺りを見回すと、冒険者達が机を独占する中、二席空いているところを見つけた。ジェストは未だに顔を赤く染める幸に声をかけて、席に近づき座った。
(久しぶりにまともな物を食べれそうだ)
「幸、食べるものは決まっているのか?というか…食べれる物はあるのか?」
「その点についてはご心配無く!王国にいる時にこの世界の食にしっかり慣れておきましたから!」
そういうことなら心配ないかとジェストは安心した。幸は日本という場所からこのスターティアに転移してきた…いや、させられた。だから幸の常識と、この世界の常識が同じという事はまず無いだろう。そういうところも気をつけていこうと、ジェストは心に刻むのだった。
〜???〜
「ふんふんふーん♪ふーんふーん♪」
どこまでも続いていそうな真っ白な空間の中、花歌を歌いながら何やら光る板のようなものをを弄っている者が、そこにぽつんといた。
「ええっと、こっちはと…お!もうこのダンジョンもクリアしたのか!いやあ中々な高難易度設定にしたつもりなんだけどねぇ、流石勇者だな…そういえば、一人追放された勇者がいたな。追放した奴はきっと苦労するんだろうなぁ」
何やら独り言を呟いているようだ。ここに誰かいるのなら、その人からは広大な広い部屋で独り言をブツブツいってるヤベー奴扱いされるような、そんな光景が広がっていた。
「しっかし地球ってとこは凄いねぇ。ゲームとか車とか…こんなアイデア僕でも思いつかなかったよ…だから人間は面白いんだけどね。お陰で仕事が遊び感覚で出来て楽しいよ。あ、灰狼が減ってるな…ん?こんな魔物いたっ――」
「スターティア様」
「うわぁ!?」
スターティアと呼ばれた「それ」は突然現れた何かに、大袈裟に声を上げて驚いた。隣にいたのはメイド服を来た、背の高い凛とした女がいた。それだけなら特に違和感は無いのだが、背中に生えている大きな白い翼が人間ではないことを物語っている。
「びっくりしたぁ…驚かせないでよアルマ」
「驚かせるつもりはありませんでした。申し訳ございません。何分急いでいたもので」
「ああ、この変な魔物かい?」
そう言ってスターティアは、手に持っていた板をアルマに見せつけた。
「はい、私達の方で昔の資料を確認したのですが、中々情報を掴めませんでしたので、スターティア様なら何か知っているかと…」
「実は…僕も見たことがなくてね。僕はあんな魔物作った記憶が無い」
アルマは顔には出さなかったものの、世界を統べる主に知らない事実があることに内心酷く驚いていた。
「アルマ、全神に命令する。この魔物について調べさせてくれ。こっちもできるだけ努力はする」
「はっ!」
アルマが跪き、一瞬で消えた。アルマが消えると、スターティアはもう一度板を確認する。そこにはやはり、見たことの無い魔物の反応が一つあった。
「勇者の追放に僕が見たことの無い魔物…何が起こっているんだ?」
板の中の魔物の信号を見ながら、スターティアは呟いた。
「お待たせ致しました。スターティア様」
「おお、仕事が早くて助かるよ。何かわかったのかい?」
「はい、地球の神から有益な情報を得ました。どうやらバグ、と言うものらしいです」
スターティアはバグと言う言葉を聞いて納得した。実はダンジョンは神が作ったシステムであり、そのシステムに何らかの影響でエラーが発生したのだ。
「どうやらそれっぽいな…よし、うちの部下にバグの原因を調査させておくよ」
「御意」
すると、アルマは一瞬で消えてしまった。それを確認したアルマはため息をついた。
「さて、久しぶりの大仕事だな」
何も無い白い世界に、スターティアの声が虚しく響いた。




