第29話 由紀乃の朗読
続いて由紀乃が立ち上がった。
そして淡々と読み始めていく。
「2人の夜」
正一と直樹は放課後、教室で話をしていた。
それはとりとめのない話であった。
クラスのこと、食べ物のこと、映画のことなど。
そのうち2人は眠くなり、机に突っ伏したまま寝てしまった。
「起きろ正一」と先に起きた直樹が正一の肩を揺らす。
気が付くと、すでに外は真っ暗で、時計の針は22時を指していた。
「どうやら2人とも寝てしまったようだな」と直樹が言う。
「ああ。そのようだな。そろそろ帰ろうぜ」と正一。
2人で真っ暗な廊下を歩いて行く。
しかし、どこのドアも閉まっている。
「どうやら閉じ込められたようだな」と直樹。
「そのようだな。部室に行かないか? とりあえずソファで休もうぜ」と正一が言い、部室へ向かった。
途中に自販機があった。
直樹が飲み物を買おうとしたが、財布には小銭がなかった。
「五千円札しかない」
「俺も小銭は一人分しかない。直樹、何が飲みたい?」
「俺はいいよ。正一が好きなの買ってくれ」
「なに言ってんだ。2人で飲もうぜ。好きなの選べよ」
「じゃあコーヒーでいいか?」
「わかった」
そうして暖かい缶コーヒーを部室で2人で飲む。
すると正一が少し焦る。
「どうした正一」
「どうやらバングルを落としたようだ」
「本当か?」
「ああ。教室を出る前はあったんだ」
「すると出口を探している時にどこかで落としたか」
「まあ、しょうがない。このままソファで寝ようぜ」
「よくない。探しに行こう」
「悪いから」
「いいって」
そう言って直樹が正一の手を引っ張る。
さっき通った道をスマホで照らしながら歩く。
「お前、好きな奴いんの?」と直樹が聞く。
「いる」
「へえ、誰」
「……言ったら、お前が困る」
「そうか」
手を握り合い、廊下を歩きながらバングルを探した。
ドアの近くでバングルを見つける。
「おっ発見」と直樹。
「ありがとうな」
「いいってことよ。じゃあ部室に戻ろうぜ」
部室に戻ると、ソファに2人で座る。
「夜は冷え込むな」と正一。
「寒いのか? ならこっち来いよ」
直樹が正一の肩を抱き寄せる。
正一が直樹に身を任せる。
そして2人はそのまま眠りについた。
朝日が差し込んでくる。
密着した2人が目を覚ます。
「学校で一夜を過ごしたの、初めてだ」と正一。
「よかったろ。相手が俺で」
「ああ。また泊まりたいな」
「いいぜ。また泊まろうぜ」
そしてお互いを見つめ合った。
由紀乃が読み終える。
正一郎と直臣はふざけんなって感じで由紀乃を見る。
まわりの女子生徒が正一郎と直臣を見る。
「違うんだ、これは由紀乃の妄想だ」と僕は言う。
しかし2人に向けられた疑いの目が晴れることはなかった。
由紀乃め、なんてことをしてくれるんだ。




