第18話 落研(おちけん)
「今日の活動は……どうする?」
「自由でいいんじゃないか~~~♪」
僕らはまだミュージカルが抜けてないみたいだ。
「あのう、便利屋部はここでよござんすかねえ」と男子生徒が言う。
「そうですよ~~~♪」
「その発声方法はなんですか?」
「うおっほん。それであなたは?」
「私は落語研究会をやっております。実はお願いがあってまいりやした」
「嫌です」と直臣。
「まだ何も言ってないでしょう」
「どうせ人数足りないから出てくれでしょ?」と直臣。
「よくおわかりで」
「落語って決まったお題を言えばいいの?時そばでしたっけ?あれをしゃべればいいのかな?」と僕が言う。
「それは古典落語ですね」
「あっしらがやるのは新作落語。つまりオリジナル」
「それ台本は……」
「そこからお願いします」
「だから無理って言ったんだよ」と直臣。
「そこをなんとか」
「ちなみにいつ?」
「5日後です。いつかだけに」
「帰って下さい」
「すいません。お願いします」
仕方なくやることになった。
しかし5日でネタを考え覚えられるものだろうか。
僕と直臣は授業中も必死で考えた。
由紀乃は2人で大丈夫と言われ、お気楽モードである。
そして当日になった。
まずは僕の番だ。
袴を着て高座に向かい座布団に座る。
「え~背九里亭完璧と申します」
「あっしこの前右手を怪我いたしましてね。それで左手を使うようになったんですがね。その時世界の秘密を知ったのですよ。世の中右利きに支配されているとね」
そして客席を見る。
「自動販売機が入れにくい。改札が通りづらい。ドアノブが開けにくい。ハサミが使いづらい。字が書きにくい」
そして扇子を叩き「世の中は右利きに支配されているって知ったのでさあ」そして一呼吸。
「世間じゃサウスポーだあ、左利きは天才が多いとかもてはやしてるけど、なってみるとそんなことはねえ。もうねえ世界に絶望しかけちまったんでさあ」そしてまた一呼吸。
「しかしね。ある時楽園をみつけやした。それは縦書き。右利きの人は書いてると右手が汚れていくんだね。これぞ普段左利きが味わってるのを右利きが味わう。なんとも痛快な話じゃないですか」そしてオチ前に観客を見る。
「でも考えてみりゃ縦書きって滅多にないんですよね。そこで縦書き専門の習字と俳句がべらぼう上手くなりました。お後がよろしいようで」
僕は客席を見た。
かなり微妙だった。
所詮5日じゃこんなものと思ったのだ。
次は直臣の番。
「え~九折亭高志と申します」
「カレーを作るってんでみんなで具材持ち寄ったんですよ それでみんなが持ってきたのが アボカド・ちくわにかまぼこと豆腐。闇鍋かよって内容なんですよ」そして一呼吸。
「とりあえず入れてみたらどれも美味しい。たまげたねえ。カレーってのは万能だねと思ったよ」ここでちらりと客席を見回す。
「そしたら遅れてきた人がスイカを持ってきましてね。これも入れちゃえってなったら、まあ合わない合わない。カレー万能説が崩れましたね。カレーよごめんよ」そして一呼吸。
「でもねカレー食べた後にスイカを食べると美味しいんですよ。教訓。フルーツは別々に食べよう」そして客席を見回した。
「するとね。酢豚のパイナップルが睨んでいるんでさあ。酢豚は懐が深いねえと思ったものだ」ここで一息つく。
「じゃあ酢豚にアボカド・ちくわにかまぼこと豆腐入れたらどうなるかって?それは酢豚じゃなくなるから入れられないのさ」ここでオチ前に一呼吸。
「じゃあパイナップルは何なんだ……と思ったら、横で女房が言うんですよ「あなた、酢豚にパイナップル入ってるくらいで何を今さら驚いてるの。うちのカレー、昨日スイカ入れたじゃない」おかしかったのはあっしの舌でした」
客席はクスリと笑っている。
僕は直臣に負けて悔しいと思った。
そんな僕を見た由紀乃が一言。
「どっちもダメね。破門だわ」
今日で僕の落語人生は終わった。




