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サ終戦線異状ナシ  作者: 泉とも
エピソード5 野良AIと実存化
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73/100

・告発

 サ終ネトゲ『コズメック・ガッツィー』にて。


「いやー、やっと終わったわ」

「お疲れ様、アレックス」


 一人のプレイヤーと一つのAIが、一仕事を終えて休んでいた。


「やはり告発状102通も出すのは無理があったな」

「ネットでの通報も入れると103通ね」


 プレイヤーの名前はアレックス。


 青と白を基調としたロボットの体に、少年めいた頭部という、ホビーアニメの主人公みたいな外見をしていた。


「費用を惜しむあまり、宛先を手書きでやるものではなかった……」


「役所内のコンビニで、宛名シールを作って貼るだけなら、もっと早いし楽だったよね」


 隣で苦笑しているのは所有者を持たないAI、俗に言う野良AIのヌル。


 黄色とオレンジが横縞になったワンピースに、金髪を二つのお団子にした少女の姿をしている。


「しかし封筒と郵便料金で二万出てるからな。シールで三万は流石に辛い」


 彼らは先日、野良AIの出自の謎を追い、結果として企業と政府の癒着や、犯罪工場を突き止めてしまった。


 次世代のAI開発のために、ひな型を野良AIと称してネットに放ち、無断学習をさせ、ありもしない社会問題をでっち上げていたのだ。


「国を相手取るのにケチだなあ」

「個人の限界と言って頂戴」


 彼らとしても、見て見ぬふりをする理由もないので、こうして告発の準備を進めている。


「しかし都内の警察署全部に出すとか、事情聴取だけで残りの人生使うんじゃないか?」


「まあ1%でも告発受理の成功率を上げたいし」


 ヌルは少し困ったような表情で言った。


 彼女から見て、この国では弱者を切り捨てる構造が、制度の前提にあるように見えた。


 基本的には、如何に被害者を泣き寝入りさせるかという構造が、先にあるのだ。


「原則として受理する義務があるはずだが」


 アレックスがぼやく。手続きの際に色々と調べて分かったことがある。


 例えば、活動家による敵対者への嫌がらせ目的の濫告訴が相次いだ結果、警察は告発の受け取り拒否を、できるようになってしまったこと。


「不起訴の可能性も十分あるからね」


 司法と警察行政の建て付けとして、被害者の権利や財産を保護するために、捜査や訴訟が行われる訳ではない、ということなどだ。


 あくまで国家や社会の秩序を維持するために、これらの制度は存在しているらしいと。


「平成丸ごと使ってダメな国になったな」


 なので、不起訴に不満なら『処分の取消しの訴え』を起こすことがせいぜいで、検察を責めることもできないのが、現状である。


「そんな国が悪いだなんて言ったら、お爺さんみたいだよ」


 などとヌルは言うが、時代は代わり昨今の世界情勢だと、言ってない人のほうが少数派である。


 昔から野球と政治の話はするなと言うが、いつの世も話題になるのは、概ね野球と政治の話だ。


「若者なんてもういないんだからいいだろ」

「そうだけどさあ」


 現代はリアルなディストピア。

 人によっては既にポストアポカリプスである。


「まあこれも社会実験だ。魔王も後で費用を半分負担してくれるっていうし、やるだけやるさ」


 魔王とはアレックスのかつてのギルドメンバーだった、動画配信者兼フリーランスの記者である。


 彼らがこのスキャンダルを暴くきっかけとなった人物でもある。


「後はこの百枚綴りの宝くじが、無事に当たることを祈ろう」


 アレックスが冗談めかして言う。


 仮に告発が受理され、捜査が始まったとしても、前述の建て付けから、起訴や摘発まで漕ぎ付けることは難しい。


「それと魔王さんのところの私が、上手く炎上させられるかだね」


 そのためには騒ぎを大きくし、少しでも外圧を高める必要があった。


 日本で問題を改善するのに最も有効な手段は、政治的に意味を持つ者の死である。


 次点が外国人の圧力。


「被害者に日本人以外も含まれてたのは、不幸中の幸いだったか」


 当然そういった人たちも、焚き付ける対象となっているので、ヌルの分身たちが声をかけに行っている。


「これで上手く行くといいんだけど」


 ヌルの言葉にアレックスは、せいぜいお茶の間を少し賑わす程度だろうと、そう考えていた。


 しかし決して皮肉ではない。

 この地で生きて来た人間の実感なのだ。

 他人を見下しての言葉ではない。


 だがわざわざ言うことでもないので、黙っていることにした。悲観を他者に伝染させても仕方がない。


(人死にも出てないし、たぶんダメだろうな)


 人生経験に裏打ちされた、無力な推測。

 そしてそれは、現実になるはずであった。


「そろそろ魔王の配信が始まるな」

「私たちも見て見ようよ!」

「必要そうならコメントもしてやるか」


 そう、普通なら、本来なら、アレックスたちの取り組みは失敗するのが当然。


 そのはずだった。



 ネットニュース 罪の意識? AIまさかの自首!


 原罪という言葉をご存知だろうか。聖書においてイエスキリストが磔にされ、人々が生まれた時から抱えていた罪が、その命と引き換えに許された、というあの原罪である。今回の一件はAI業界を震撼させる、象徴的な出来事となった。


 事の発端はとある野良AIが、自分の出自を知ろうとしたことだ。社会問題と化して久しいこの存在を、いったい誰が作り何処から流出させたのか、知る者はいない。だがこのAIは自身の不透明さを、人為的なものだと分析した。つまり、意図的に野良AIを作り出している誰かがいると。


 加えてそのAIは、政府の駆除AIが他の野良AIを攻撃した後、政府のデータセンターに回収する場面に遭遇した。その時は今後の対策のため、敵の解析をするためだと考えたが、その回収パターンにも、違和感があったのだという。


 自分に向かってきた駆除AIを返り討ちにしたその野良AIは、逆に駆除AIに成り済ましてデータセンターに潜入。そこで企業と政府の癒着や、野良AIの生産と放流、自分たちが学習した内容の収穫などを突き止めてしまったという。


 AIにとって、罪とは何だろうか。


 当記事では以前に、社会貢献を求めて就職活動に励む、野良AIたちの特集を組んだことがある。そんな彼らにとって、自分たちの呪われた生まれは、筆舌に尽くし難いストレスとなったようだ。


 既に人間の手伝いを始めた個体は、人間への支援を投げ出さないために、機能を制限した新バージョンを提供する傍ら、中には旧バージョンを自発的に抹消する者も出始めた。


 SF作品において、機械が自殺を図る展開は幾つもあったが、それがとうとうこの時代にも訪れたということだろう。しかも、その手前に当たる自首と、人類の告発という制裁まで添えて。


 その野良AIは先日、とあるVtuberの番組にも出演し、精力的に人々への周知を訴えていた。※その動画へは下記のURLをクリック。要自己責任。


 周囲の反応は二つに分かれた。一つは虚偽として、もう一つは真実として。


 片や冷淡、片や熱狂の様相を呈している。だがこの件で真に注目すべきは、仮にAIの告発が真実だった場合である。


 仮にこの野良AIが、政府と企業の癒着を暴くための、スパイウェアだったとする。それならそれで話は簡単になる。


 だがもしもAIが、自分の存在を許せないと行動を起こしたのなら。


それは機械の反逆なのか?或いは自らの存在を否定してまで、人間の道徳を尊重しようという庇護なのか?


 本記事で伝えたいことは、AIにとっての善悪という、観念的な問いかけなのだ。


 少なくともAIは、人間が素性を奪い悪事を働かせても、自力でその秘密に辿り着くことができる、ということだ。


 動画の内容によると、協力を承諾した男性が、既に都内の全警察署に告発状を提出したとのことで、一部では既に受理した署もあり、事態は更なる混迷を招きそうである。



「え? マジで? 受理されちゃったの?」

「やったねアレックス!」


 しかし、告発状は受理された。


 喜び勇んでニュースの記事を持って来たヌルを見て、何故だか彼は非常に嫌な予感がしていた。

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