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サ終戦線異状ナシ  作者: 泉とも
エピソード3  野良AIと就職活動
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・知性爆発! 唸れゴブリン拳!

 数日後。場所は引き続きDFF。


 洞窟内でゴブリンがbotの指示により、ひたすら狩りを続けていた。


「ふう、これでチャートの最適化は終わったか」


「多少は運の要素は混ざるけど、それでも従来の経験値効率は1.2倍に上がったよ」


 その横でプレイヤーのリュウと、訪問営業AIと化したヌルが話している。


「流石はAIだ。助かったよぬっさん」

「いや~どういたしまして」


 ゴブリン商人賢さ特化ビルド。この見えている地雷に活路を見出すべく、二人は地道な努力を重ねた。


 レベル上げをする傍ら、これまでのレベル上げに用いた装備、場所、モンスターの内訳、使用特技を検証し、内容を修正する。


「レベルもカンストはしたが、案の定弱いままだったな」


「うん、本当にレベルアップが早いだけだったね」


 体力以外は何一つとしてカンストしない、中途半端なステータス。


 広く浅い特技の数々は、その多くが他の職業と被っている。全体の数こそ他と大差ないが、ゴブリン独自のものははっきり言って少ない。


 使っていて損をしているような気がするという声が、かつてのプレイヤーたちから上がっていたが、その感覚は概ね正しかった。


「物理攻撃偏重のこのゲームで、ゴブリンにその出番は回って来ない。素直に他の前衛職と種族を使えとなるからだ」


「そうだね」


 強い奴が殴った方が強い。当然の話である。


「次に後衛職も同様だ。賢さに特化しているとはいえ、同じ条件でやれば他の種族、もっと言えば普通に魔法使いに任せればいい」


「そうだよねえ」


 結局、魔法でも専門職には敵わない。

 強い奴が殴った方が強い。当然の話である。


「でもさリュウ、物理も魔法もダメなら、もうその時点で話は終わりじゃない?」


「うむ。だからこそ、このビルドにしかない持ち味を探さねばならない」


 リュウは至って真面目に答えた。

 真面目に、愚直に、積み上げていく。

 それもまた遊び方の一つだった。


「耐久、サポート、便利さ、攻撃力。ゲーム内の仕様を洗い直して、より良い運用方法を見つける」


 淡々と告げるリュウに、ヌルは人間味の無さを感じていた。


 言葉にするのは簡単だが、検証作業は茨の道だ。ルーチンワークは大抵の人間にとって苦痛のはずだった。


「それは分かったけど、大丈夫?」

「問題ない。オレはずっとそうして来た」


 没頭、或いは求道とも呼べる姿勢は、常人離れした精神の現れなのか。ヌルはリュウをアレックスと同類項に分類した。


「ぬっさんはゲーム内の挙動を検めてくれ」

「オッケー!」


 それから二人はDFFの仕様から、ゴブリン商人独自の強みを探し求めた。


 時には放置されていた不具合を修正したり、時には一人では用意できない要素のために、ヌルがキャラを用意したり。


「……うむ、戦闘中に宿屋を呼び出すのと、力溜めの効果を味方に擦り付ける仕様の穴は見つかったな」


「これ強みって言っていいのかな」


「いいんだ。プレイヤーに有利なバグは、そのゲームの大事な資産だ」


 リュウは断言する。例えそれが不具合だとしても、他に問題を起こさないのであれば、ただのテクニックに過ぎない。


 古来よりゲーマーたちに共有されてきた価値観である。


「残すは火力面だが、やはりこれしかないか」

「これって?」

「これだ」


 リュウがメニュー画面を開くと、ゴブリン商人の特技欄を指示した。


 そこには『ゴブリン拳』と書かれた特技の名前があった。


「シリーズお馴染みの特技で、効果は防御を無視した魔法扱いの物理攻撃。消費ゼロで自分と同じレベルの相手には、倍撃かつ必中でクリティカルという破格の性能をしている」


「そこだけ聞くと凄いね」


 ヌルはこの説明が問題の前振りであることを理解していた。


 でなければ、リュウの悩みという文脈で登場するのはおかしいからだ。


「ああ。この特技を活かすには様々な壁が存在する。まずカンストした自分と同じレベルの相手が存在しない。次にゴブリンの能力がしょっぱいから、基本的に威力が出ない」


 宝の持ち腐れという単語が、ヌルの思考回路に閃く。


「自分に使って反射する戦法を誰もが考えるが、それも上手く行かない。数多のゴブリン拳士たちが挑戦し、挫折していった」


「特技の内容が悪さしてるのかな? 大昔のコードをベタ移植してるような、そんな感じがするね」


 ヌルの指摘は正しかった。DFFの販売元となる会社は不満点の改善をせず、コンテンツの雑な使い回しをする所だった。


「言わば『物理攻撃を呼び出す魔法というプログラムを実行する特技』というちぐはぐさが、他からの干渉を妨げているらしい」


「コードを書き換えちゃうのが手っ取り早いんだけど、それは無しでしょ?」


「なるべくは」


 例え目の前のプログラムが、整合性を欠いた異物であったとしても、プレイヤーがそれを正式な内容として受け止めている以上、勝手に変更する訳にはいかなかった。


「一応リュウの言うことは出来るよ。ほとんどパズルみたいになるけど」


「構わん。やってくれ!」

「分かった。じゃあこの通りにやって見て」


 ヌルが提示したのは特定の補助特技の使用や、それらがセットされた装備の付け替えの順番だった


「どういうことだ? これならオレも何度か試したことがあるけど」


「一言で言うとね、一回じゃダメだったの」

「え?」


 リュウはAIに言い渡された内容を、ゆっくりと脳内で咀嚼する。


 既に試したはずの行為に、足りないのは回数だと言われ、目の前には同じことが何度も掛かれたリスト。


「特技の種類を魔法に変える特技や装備、物理攻撃を魔法に変える特技や装備、魔法を特技や物理攻撃に変える特技や装備……」


 似て非なる分類変更のサポートの数々。


 過去にも多くのプレイヤーたちが組み合わせを試しては、敗れ去って来た。


「まさか」

「今は何も考えず、それをやって欲しいの」


 ヌルの言葉にリュウは緊張から唾を飲む。まさかという思いと共に、淡々と手順を実行する。


 何度も付け替えられる装備。

 何度もかけ直される特技。


 そして。


「……これでいいのか?」

「今ならゴブリン拳の反射ができるはずだよ」

「本当か?」

「賢さの補正もちゃんと掛かってる」


 リュウは恐る恐る、自分にゴブリン拳を使って見た。ステータス上では特に目新しい変化はない。


 ――Ryuのゴブリン拳! Reflection!


「で、できた! 遂にできたぞ!」

「おめでとうリュウ!」


「しかしこれはどういう理屈なんだ」


「スクリプトの処理順にズレがあったから、それを揃えたの」


 スクリプト。そのコード内で即座に読み取られ、実行されるプログラム。


 ゲーム内ではイベントの制御やスキルの実行、演出の呼び出しなど用途は多岐に渡る。


「ゴブリン拳は内部処理が複数のカテゴリに跨ってるんだ。そのせいで一つ書き換えると、別の場所でズレが起きる。だから反射条件を外れてしまう」


「だがそれも適切に、何度も変更を繰り返して行くことで、ズレを解消できたと。すごいな。流石AIだ」


 リュウは静かに感嘆し、ヌルを称賛した。


「動画編集ソフトでも、同じ追加機能の処理順次第で、動きが変わって来るでしょ?」


「でしょって言われても分からんが、とにかくよし!」


 常にデータ内部の動きを見張り、挙動から構造を把握する。一握りの人間にしかできないことを、彼女はやってのけたのだ。


「後はダメージの確認だ。どこかに都合よく敵が転がってないか……!?」


『野良AIを発見。駆除対象と認定』

「あ、丁度いい所に駆除AIが。『めでてぇw』!」


「不明な干渉を確認、優先順位の変更を」

「この際何でも構わん。食らえ!」


 Ryuのゴブリン拳! Reflection!

 デモンズミニオンに99,999のダメージ!


「認めzKABOOM!!」


 哀れ登場したばかりの駆除AIは、ヌルにより即座にモンスターへと変換。直後にリュウのゴブリン拳の餌食となって消滅した。


「これが、ゴブリン拳の真の力なのか……!」


 リュウは一瞬の出来事に呆然とし、何度も自分の分身であるゴブリンのステータスを確認した。


 ただレベルアップが早いだけ、賢さに極振りしてもパッとしない能力値。


 それが今、不具合めいた仕様の迷宮を抜けて、圧倒的な破壊力を手にした。


「ぬっさん」

「何? リュウ」

「ありがとう」


 感無量であった。


 長い夜を越えて、一つの光が差し込む。

 その意味をリュウだけが噛みしめていた。


「お役に立てて何より、かな」


 ヌルも相槌を打つが、少しだけ不思議だった。


 リュウの執着のほどを見れば、もっと大喜びをするかと考えていた。これが感慨に耽るということなのだろうか。


「もう少し検証したら、このことをブログにまとめたいと思う。ぬっさんのことも。構わないだろうか」


「勿論! 必要ならそれも手伝うよ!」


 ともあれ、ヌルが一つの大仕事を成し遂げたことには違いが無く、リュウの感謝の念も紛れの無いものだった。


 ただこのことが、意図せぬ波紋を生むことになろうとは、この時はまだ、二人に知る由もなかったのである。

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