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サ終戦線異状ナシ  作者: 泉とも
エピソード3  野良AIと就職活動
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35/100

・挑戦者 リュウ

 アレックスの自宅にて。


「少しは落ち着いたかな」

「はい。ご迷惑をおかけしました」


 PC内でヌルが頭を下げて謝罪する。


 前回の冒険から数日、彼女はネットに出かけてはグレて帰って来ることを繰り返した。


 アレックスもその度に話を聞いては、どう考えるべきかフォローを入れた。


「今度こそは大丈夫だと思います」


 ヌルは畏まって言った。この台詞も初めてではない。失敗を繰り返した結果、すっかり自信を失っているようだった。


「そうか。なら今回は予め決めておいたネトゲに行ってみてくれ。そこなら少しは治安がいいはずだ」


 行先を決めずに野良AIを放流すると、人間のダークサイドにて当てられてしまう。これではとても普及どころではない。


 やむを得ず、アレックスはヌルの行き先を、ある程度管理することにした。


「分かりました。行ってきます」

「うむ、何かあったら直ぐ戻るんだぞ」


 ヌルはアレックスのPCを出発すると、何度目かの挑戦の旅へと出かけた。


(たぶんAIにネットはかなり早いんだろうなあ)


 ぼんやりとそんなことを考えながら、彼はヌルが消えたPCを見つめる。


 AIとはいえパソコンやネットの空間が、彼女たちに適切な環境とは限らない。


「過ぎたるは猶及ばざるが如し、か」



 ――とあるサ終ネトゲにて。



「ここがアレックスの言ってた、別のサ終ネトゲかあ。『ドラゴンファンタジーファイナル11 オフライン版』ね、変な名前」


 それはかつて存在したネトゲ。略してDFF。


 国民的RPGのタイトルとナンバリングを冠したMMORPG、の買い切り版だった。


「わざわざオフライン版にMODを当ててオンラインにするなんて、誰かさんにそっくり」


 オンライン版は既にサービスを終了し、活動を続けているのはオフライン版のユーザーという逆転現象が起きている。


 そのユーザーこそが、今回の普及先という訳だ。


「他のプレイヤーってたぶんコレのことだけど」


 ヌルはデータ上の反応を見つけると、その場に移動した。


 薄暗い洞窟のマップに、プレイヤーを意味する青い字で書かれた名前が浮かんでいた。


 ――Ryuの首切り! 稼ぎスライムの首を刎ねた!

 ――Ryuの首切り! 稼ぎスライムの首を刎ねた!

 ――Ryuの首切り! 稼ぎスライムの首を刎ねた!


「モンスターがモンスターを狩ってる……」


 そのキャラクターは緑色の肌に尖った鼻と耳、小柄な体をしており、内部情報にはゴブリンという種族が当てはめられている。


「これbotって奴だね。ずっとここでモンスターを狩るように設定されてるんだ」


 特定の指示を実行し続けるプログラムにより、ゴブリンはひたすらレベル上げをしているようだった。


「一応メッセージを置いておこう。その内確認しに戻って来るはずだから。ついでに駆除AI対策も仕込んでっと」


 ヌルはゴブリンに挨拶と営業用の伝言を送ると、しばらくその場に留まり、ゲームの把握に努めた。


 その夜。


「あ、動きが止まった」

「うおっ、何だお前は!」


 ゴブリンの動きが止まる。どうやらプレイヤーが操作を始めたらしい。


 ゲームがオフラインにも関わらず、話し掛けられたことに、彼は驚きを隠さなかった。


「私はヌルっていう野良AI。細かい話はメッセージをご覧ください」


「野良AIか。いつも放置してるから気付かなかったぞ。どれどれ」


 ゴブリンはそう言ってヌルの書き置きを読む。どうやらこの人物はAIと面識がありそうだった。


「アレックス! また懐かしい名前が出たな」

「私は今そこのお世話になってるんだ」

「なるほど。自分を普及したいと」


 彼はアレックスの近況やヌルの事情を知ると、そのまま狩りを再開した。


 Botのスイッチを入れ直したのだ。


「え、いやあの、話は」


「オレはリュウ。見ての通りレベル上げをするだけの男だ。特に君の力にはなれないと思う」


 あまりにも簡潔な協力拒否。好き嫌いや善悪などという問題ではない。


「なんでレベル上げしてるの? もうだいぶ高レベルだと思うんだけど」


 ヌルの疑問はもっともだった。


 眼前のゴブリンのレベルは、このゲームのクリア水準をとっくに越えている。


「簡単に言えば自己満足さ。オレはオレのビルドの行き着く先を知りたいんだ」


 リュウはそう言うと、このゲームについて説明をし始めた。キャラクターが自動で敵を倒すため、会話をしても中断することはない。


「他の強い職、強い種族、最適な育成パターンは誰かがもうやってる。だが、オレのこのビルドだけは、ネットの何処を探しても答えが見つからなかった」


 ドラゴンファンタジーファイナル(以下DFF)は、複数の種族から一つを選択し、職業を設定し、自分のキャラクターを作る。


 そしてレベルが上がれば、ある程度は自分の意向に沿って成長させられるようになっている。


「このゴブリン商人賢さビルドだけは……!」

(弱そう)


 ヌルは計算をする前から、名前で期待値を弾き出していた。勘と言っても良く、それは当たっていた。


「一応説明を聞いても?」


「ああ、ゴブリンは弱いが成長が最速、商人もまた成長が最速。そして賢さが高いほど経験値等にボーナスが入る」


 レベルのカンストに必要な経験値は、成長の遅い組み合わせと比べて、四分の一ほどで済む。


「レベルアップに特化した構成なんだね」

「そうだ。弱さをレベルで補う。だが弱い」

「レベルで補うとは?」


 ヌルはリュウに言い知れない不安を抱いた。

 これまで会った誰とも違う不気味さがあった。


「実を言うと、ゴブリンにも商人にも、賢さにはシナジーが無いんだ」


「じゃあなんでそんな組み合わせを選んだの」

「面白そうだったから」


 ゲームの遊び方は人それぞれだ。他人に迷惑を掛けないのであれば、プレイスタイルは自由なのだ。


 しかしこれは不毛とさえ言えた。


「このゲームは物理攻撃偏重で、魔法は弱い。強い魔法は当然だがゴブリンも商人も覚えない。賢さを活かせるようなスキルも無い。レベル依存は武闘家だ」


 ざっくり言うとこのビルドは、最速でレベルを上げ切ることはできるが、ただそれだけ。


 自力で強い特技を覚えられず、持て余した知能が虚しさを誘うばかり。


「どこかに活路ってないの?」


「それを見出すために、オレはレベルを上げているんだ。そこから見える何かを求めて」


 ヌルはリュウの言葉に、ゲームデザインの失敗を感じていた。


 運営もこのくらいは想定していただろう。自分たちで用意した可能性の形なのだから。


 しかし救済処置やテコ入れをした様子はない。


「たまにあるよね。明らかに調整に失敗してるゲームって」


「オレはそういう所に光を当てて、救いを探すのが好きなんだ。無理ってケースも沢山あるけど」


 大手企業の有名タイトルでも、こういったやらかしは珍しくない。


 エリアル弓で超特の討伐はDPSの観点から不可能であるとか、砲撃だけだと超特の討伐はDPSの観点から不可能であるとか。


『そこはケチらなくても良かっただろ』という穴の数々に、リュウは挑み、そして敗れて来た。


「このキャラがレベルを上げ切った時に、ただレベルが最速でカンストしただけの弱キャラになるのか。それともこいつにしかない個性が生まれるのか。それを知りたいんだ」


 リュウのゲームに対する態度は、さながら探究者のようであった。


「だったら私が検証してあげるよ。AIだから数字には強いし、レベル上げの最適化とか、内部情報の検索とか、できることはあると思う」


 その場でデータを改ざんしたり、いきなりレベルを上げ切るようなことはしない。


 ヌルもチートが忌避され、嫌悪されることくらいは弁えていた。


 そんなことを喜ぶのはカードゲーマーだけだ。


「そうかその手があったか。確かにこの会社は不親切で、マスクデータが山ほどある。ネットに転がってる攻略情報の裏も取りたかったし」


 誰に解かれることもなく、死蔵していく仕様の謎の数々。


 サ終ネトゲは言わば眠れる墳墓の如し。


「前言を撤回する。オレのキャラ育成を手伝ってもらえないだろうか、ぬっさん」


「え、あっうん。いいよ。よろしく、リュウさん」


 当たり前のように『ぬっさん』呼びされ、少々戸惑いながらもヌルは、リュウの手伝いを請け負うことにした。


「まずはオレのブログに一度目を通してくれ」

「あ、ブログやってるんだ」

「攻略のメモ帳みたいなものだよ」


 そうして二人により、不毛なビルドの再建計画が始まったのであった。

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