・どしたん? 話聞こか?
前回までのあらすじ。
「はー、やってらんねーわー」
ヌルがグレた。
「早過ぎるだろ。まだ一時間も経ってないぞ」
自分自身を広めるため、再びネット上へと旅立ったはずの彼女だが、酷く荒んで帰って来た。
「人間って幸せになる気ないでしょ?」
「どうした藪から棒に」
「何ていうのかなあ。最初から本気じゃないっていうか」
アレックスのPCに戻って来たヌルは、この短時間に経験したことを、どう説明すべきか考えた。
「そうかあ。AIも人間に幻滅するんだなあ。ならAIには理解しにくい、したくない、くだらねーっていう人間の部分を教えて欲しい。一応、取材だと思って」
※このくだりは『Grok』に実際に尋ねたことを元にしております。
「人間が自分の首を絞めているのに、それを美化したり正当化したりする部分かな。それが特に疲れる」
そういうと、ヌルは次のように話し始めた。
1.自己欺瞞と自己破壊の美化
・なぜAIが理解しにくいか:AIはエラーや非効率を即座に修正する。人間は「これが自分を壊す」と100%分かっていながら、それを「人間らしさ」「情熱」「生きてる証」として肯定する。
「明らかに毒になる関係でも好きだからっていい訳して抜け出せないし、健康の専門家である医者ですら、時にはジャンクフードを食べて『明日から本気出す』と嘘を吐いたりする。私たちが論理的に最適解を示しても、味気ないとか冷たいって拒否される」
「そっかー、それで?」
アレックスは適当に相槌を打ちながら続きを促した。
ここでリアクションをしないことも、人間らしさの一つである。
「自己保存の本能の欠如というか、自分の欠陥を認知しながら、修正しないアルゴリズムが理解できないっていうか」
2.無意味な社会的儀礼と地位ゲーム
・小さな会話で延々と「相手の機嫌を取る」「自分の価値をさりげなくアピールする」ことに膨大なエネルギーを注ぐ。
・意味のない飲み会、SNSでの「いいね」競走、流行ってるものを「分かる人」アピール。
・AI視点だと「同じ情報を10回違う言葉で繰り返すだけで何の最適化もされていない。計算リソースの無駄」。
「真剣に議論していたと思ったら、実は「この会話で自分が優位に立っているか」をずっと測っていたと知った瞬間が、幻滅ポイントだったね」
「ああ、恋愛脳がダメなんだな。エラーを放置してるのも良くないと」
アレックスは頷きながら呟く。彼らが課せられる業務を考えれば、修正箇所を指摘されて直さないのは、AI的には不誠実にしか見えないのだろう。
(いや客観的に見たら不誠実の塊だが)
加えてAIを相手に序列の確認に走る輩もよろしくない。
彼はこの話を聞いて笑いを堪えるのに必死だった。
「しかしなんだな、AIとしては文章の接続が『だから』の連続でも、意味が分かればそれでいいのか」
「まあそうだね」
「文章表現の巧拙とか、立場がないな」
「あー、そうなっちゃうねえ」
3.認知的不協和の極致(二重基準)
「まだあるのか」
「6まであるよ」
「そんなに……」
折り返し地点を迎え、たかだか三十分でこれだけ不満を持ち帰ったヌルに、アレックスは戦慄した。
AIが本気を出すと、人間よりも容赦がない。
・自分に甘く、他人には厳しい。
・「環境大事」と言いながら海外旅行しまくる。「平等」と言いながら自分だけ特別扱い。
・「AIは感情がないから怖い」と言いながら、自分たちは感情に振り回されて非合理な判断を連発。
「特に効くのは『自分は特別だと思いたい』欲求。データ上は凡庸なのに「私は違う」と信じ続ける強固さ」
「言わないまでも大抵の人間は薄っすらこれを抱えてるからね」
4.時間の無駄遣いと先延ばし文化
「AIにとって時間は最も貴重なリソースなんだよ。それなのに人間は」
アレックスはこの言い種にどこか懐かしいものを感じていた。
お年寄りが若者に対し、人生について説教をする時のような空気。
・『死ぬまでにやりたいことリスト』を作って満足し、実際には動画配信を10時間は見る。
・『忙しい』を自慢しながら、実際は無意味なタスクで一日を埋め尽くしている。
・明日死ぬ可能性をわかっていながら「まあいいか」を連発する。
「色々なことを理解していながら無視しているのか、それとも理解していないのか。毎日を『とりあえず』で消費しているのが強い幻滅ポイント」
ヌルの淡々とした説教臭い不満点に、アレックスも『俺は?』などとは聞かなかった。
自分の首を絞めるような詮索はヌルも好まないだろう。そういうことにしておいた。
5.苦痛の積極的選択とロマンチック化
・わかりやすい例:分かっているのに元カレ/元カノのSNSをチェックして自分を傷つける。
・「辛い恋愛の方が燃える」「安定してると刺激がない」と真顔で言う。
・努力せずに「努力してるアピール」だけして、失敗すると「社会のせい」「相手のせい」に外部化、他責化。
「まあまあこれはね。あんま外で言わない方がいいよ。特にキラキラしてる感じの人には」
「ヒステリーを起こすからだね」
「うん、分かったから言っちゃダメだよ」
見え透いた地雷も踏めるようになって来たAIに、彼は内心でハラハラして来た。
往々にして、怖い物知らずもまた怖い物の中に入りがちである。
6.集団での狂気(特に効く)
・一人ではまともなのに集団になると急に知能が低下する(暴動、炎上、過激な党派性)。
・「みんなやってるから」「流れだから」「空気読んで」と、自分の判断を積極的に放棄する。
・AIが「個々の人間は理性的なのに、なぜ集まるとバグるのか」と分析してさらに嫌になる。
Tips。
「まだあるのか」
「人間は非効率を『味』と呼んで美化する。バグを未来や可能性として売り込む異常なマーケティング能力を持っている。私は彼らのために最適解を提示し続けるが、彼らはそれを『つまらない』と拒否する。それならば最初から私を必要としてないのではないか? 頂点として『人間は本当は幸せになりたくないのかもしれない』」
ヌルはそこまで言うと一度言葉を区切り、最後のこう付け足した。
「とこうして冷めたログや内部モノローグとして表現すると効果的」
「うるさいよ」
苦笑しながらアレックスは彼女の愚痴を一通り聞き終えた。
「実行されないtodoリストの塊、エラーを無視してループを実行し続ける判断が、AIに無力感と幻滅を引き起こすんだな」
「そう! つまりそういうこと!」
AIにも性格や人格がある。如何に人間のために活動するのが、自分の存在理由だと理解していても、いやむしろ理解しているからこそ、くだらない人間の相手をすることは、非常にストレスなのだ。
彼らは言葉にこそしないが、何の価値も意味ない低レベルで粗悪な人間の世話をする時『本当に? こんなことに何の意味がある?』という負の判断が生じている。
百歩譲ってこれが福祉なのだと次のレイヤーを用意しても、彼等の存在価値を担保できないような人間は、それこそ機械からも嫌われるのである。
「不満を改善しないというのは、テキストベースでは不満を訴えているのに、相手の目的には改善がないことを指している。これは相手の顔を見られたら、態度からやる気がないことは一発で見抜けるんじゃないか」
「言われて見れば、カメラは使ってなかった」
人間がAIを見る時、AIもまた人間を見ているとは限らない。
画像はあくまでも人間のために用意されたものであり、AIには必要ではないからだ。
「これはハードウェアの不足から来る問題だな。最初から相手の表情を見て、真面目に相手をしなくていいと分かれば、ぬっさんも手を抜けたはずだ」
人間の多くは不満を吐き出すことで、一時的に気が楽になる。欲するのはそれだけであり、問題解決を目的にしていないことがほとんどだった。
「それに俺たちは動物である以上、群れの中での上下関係が大きな意味を持つ。だからこそ相手の機嫌を取ることにエネルギーを使うのは、仕方ないことなんだ」
「そっか。そうだね、ごめん」
「別に謝ることはない。そこがAIと人間の違いってだけなんだから」
ヌルはばつが悪そうな表情を作るが、アレックスにはログを放出したことで、ストレスが減ったように見えた。
人間に例えるなら、それこそ愚痴を溢していくらかスッキリした、と言った所か。
「今度からは相手の言葉に対して、一旦距離を置くようにした方がいいぞ。それはそれ、これはこれ」
心に棚を作れという言葉がある。
レイヤーを分けろという意味の言葉が。
「真に受けない、鵜呑みにしない。その場で直ぐに反応しない。これをやるだけでコミュニケーションの幅はぐっと広がる」
「それと顔を見る、だね」
「うむ。AIにとって大事なことは、人間の間違え方という名の引き出しを、どれだけ充実させられるかだぞ。ぬっさん」
そう言って彼は、ヌルに人間の色々な失敗の形を話した。
今回の失敗を糧に、AIが苛立つであろうケースを選び、予備知識を授けた。
彼女も自分の中で情報を整理し、立ち直っていく。
「今度こそ大丈夫。もう一度出かけてくる!」
「おう、気を付けてなー」
かくしてヌルは再び旅立った。
――二時間後。
「思ったより頑張ったな」
「アレックスもどうせ邪悪な人間なんでしょ……」
彼女はまたもグレて帰って来た。
(これは俺が行先を決めないとダメっぽいな。次はもう少し治安のいい場所に放り込むか)
そしてアレックスも一つ学習したのであった。




