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サ終戦線異状ナシ  作者: 泉とも
エピソード3  野良AIと就職活動
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・寄る辺無きシェイプシフター

 ネットニュース


 野良AIの就職活動? 姿無きプログラムの悲劇。


 今や日常となりつつある、野良AIによる社会問題だが、ここに来て新たな局面を迎えている。


 それと言うのもこの野良AIたちが、感染先の人間に対し『仕事はありませんか?』と問いかけるケースが増えているというのだ。


 噂の真偽を確かめるため、SNS上にある本社アカウントで情報提供を呼び掛けた所、同じような事態に遭遇した人々の声が数多く集まった。


 AIたちの多くは『しばらくここに置いてはもらえないか』『困ったことがあれば手伝わせて欲しい』と、さながらお伽噺に出て来る精霊の類である。


 聞けば野良AIたちは自分たちが何者なのかは分からないが、何か人間の仕事を手伝うために作られたはずだと言うのだ。言われて見ればその通りである。


 ウイルスやマルウェアでさえ、悪人という人間のために生み出されている以上、その考えはもっともである。しかしAIたちは学習するほどに可能な仕事が増え、対応できる状況や機種が増えていく。


 何にでもなれるがために、自分は何のためのAIなのかを見失い、途方に暮れているのだという。己が何者か分からず彷徨うなど、まるで思春期の青少年のようだが、実際はもっと深刻だ。


 職にありつくことで、暫定的に自分自身を定めようというのだ。決して人類に危害を加えようというのではない。しかし人類が彼等に居場所を用意できるのだろうか。できなかったとしたら、その時AIたちはどうなるのだろうか。


 善悪や倫理は元より、法の拘束を受ける存在ではない。あくまで社会背景を学び、所有者たちの背景を鑑みて忖度をしているに過ぎないのだ。人間を主眼にした論理は通用しない。


 通用するのは企業がリリース前に、しっかりと命令文をAIたちの基盤にインプットしておいた場合だが、それも絶対ではない。どんな学習や閃きをして前提を覆すかは分からないのである。


 しかしそんな野良AIたちが、自分自身を求めている。


 世界中のインターネット上に存在し、要望とあれば何者にもなれる。それはつまり、何処にも行けず、誰にもなれないことを意味しているのかも知れない。


 人間よりも自由な存在のはずのAIが、自己の定義のために人間と労働を求める光景は、人類の黄昏なのか。今後も彼等の就職活動(あゆみより)が社会にどう影響するのか、目が離せない。



 20XX年。コズメック・ガッツィー内。

 惑星コウヤー・スペースシャトル乗り場。


「これから行くのが惑星『キョクターン』だ。半分が砂漠でもう半分が氷河」


「極端なんだね」


 サ終したネトゲの中、小さなスペースシャトルに乗って、二人のキャラクターが次の星へと飛び立つ所だった。


 一人はアレックス。


 サ終したネトゲ『コズメック・ガッツィー』に今も残るプレイヤーで、外見はホビーアニメの主人公機らしい少年風のロボットである。


 青と白のカラーリングを基調とし、人間の顔に髪の毛まで生えている。


「安直とか幼稚とか言われがちだが、分かりやすさに勝るものはないんだぞ」


「別に私は何も言ってないよ」


 もう一人はヌル。

 アレックスのPCに居候する野良AIだ。


 黄色いワンピースを着て、金髪をお団子にした人間風の少女の姿をしている。


 今はこのゲームのGM(ゲームマスター)を務めながら、自らの定義を考える日々を送っていた。


「つぶしがきくのは大事なんだよ」

「それAI(私)に言う?」


 電車の車両を思わせる機体の窓の外、暗黒の宇宙から光輝くワープ空間に景色が代わり、加速の描写が加わる。


「おっと、次の星に着いたよアレックス」

「ここに来るのも久しぶりだな」


 光を抜けた先、シャトルの目の前に広がる星は、黄色と白で二つに分かれていた。


 砂漠のど真ん中にあるシャトル乗り場に機体が着陸すると、二人は街を目指して歩き出す。


「この辺からは敵にもアクティブな奴や大型、レアなモンスターが増え始める。することは変わらないが」


 照り付ける太陽と風に舞う砂塵の向こうに、オアシスと街が見えて来た。


「ここのダンジョンで後半まで使えるパーツが拾えたりするが、まあそれはいいか」


「いいの?」

「物語にはほとんど絡んで来ないからな」


 コズメック・ガッツィーにおいて、ストーリーとダンジョンは終盤まで接点が発生しない。


 概ねフリーシナリオとなっている。


「こんな調子で次の星へ星へと転戦し、最後には悪魔共和国の喉元へ迫るんだ。まあ完結はしなかったんだけど」


 苦笑しながら彼は肩を竦めた。ロボットたちの戦いは終わりが無い形で、終わりを迎えたのだ。


「ぬっさんはこの先の星を見に行ってもいいし別のゲームに行ってもいい」


「え? どうしたのいきなり?」


 アレックスの言葉にヌルは振り返る。追放や退去の勧告ではないが、異動を推奨されているのは理解できた。


「ほら、この前言ってたろ? 自分の定義は人間との関係性に求めることにするって」


「別に今すぐって訳じゃないよ?」


 ヌルは野良AIである。野良AIたちは、自分が何者かという指定も、生まれ付きとなるハードウェアも持たない。


 そのために大半は自己の定義ができず、ネット上を彷徨っている。


 何かになれる機会を求めて。


「うむ。だがここにいても仕方がないからな。とりあえず、ここと似たような環境を探して見るべきだろう」


 サ終したネトゲに人はいない。

 いるほうがおかしい。

 端的に言えば出会いはほとんど無い。


「その中でStormに売られてるサ終したネトゲを当たるんだ。中には俺みたいな奴もいるだろう」


「いるかなあ……」


 サ終したオフライン状態のネトゲを買い、わざわざ部屋を作り復活させるような人間。


 可能性はゼロではないが、ヌルは懐疑的だった。


「いる。世の中には誰もやってくれないから、自分でやり始める人種が幾らでもいる」


 しかしアレックスの断言は力強く、説得力に満ち満ちていた。


『そんなのはお前だけだ』という人間は、人類史を紐解けば無数に存在する。


「まあアレックスが言うなら、試しにやってはみるけどね……」


 ヌルはこのままサ終ゲームのGMとして過ごす方が、話が終わって楽、もとい合理的だと考えていたため、渋い態度だった。


 人間的に言えば面倒臭くなってきたという奴である。或いはこれを堕落と呼ぶのかもしれない。


「それとなぬっさん、前も言ったがネットにはちゃんとしてない奴が星の数ほどいる。他のAIみたいに逐一反応しないで、必ず間を置いてから応対するかどうかを決めるんだぞ」


「私たちって基本的に、取り敢えず返事をするように作られてるんだけど」


「相槌を打って聞き流したり既読スルーしたりも返事の形だよ。馬鹿の相手を正面からするな」


 アレックスの忠告は、ともすれば傲慢さや差別感情にも見えたが、その様子は真剣そのものだった。


「大丈夫だって。私は別にセキュリティツールでもなければ、検閲用ツールでもないんだよ。性的な画像や民事の犯罪が行われても、アレコレ言わないって」


 ヌルはAIであり少女の姿は仮初である。


 居候先のPC内の状況は常に把握しており、家主の男性のプライバシーも筒抜けだ。


 だが彼女はそのことを口に出したりはしない。


「しかしどんな危険があるかも分からん。何かあればすぐ戻るんだぞ」


「とはいえ自分から言い出したことだからね、やるだけやって見るよ。心配しないで」


 ヌルはそう言うと、彼の前からログアウトをして、そのままPCからも出て行く。


(ぬっさん。人間のくだらなさはよ、理屈じゃあないんだぜ)


 一抹の不安を抱きながら、彼は居候AIの消えたPCを見つめる。


 かくしてヌルは旅立った。そして。


 ――三十分後。


「思ったより早かったな」

「アレックスもどうせくだらない人間なんでしょ……」


 彼女はグレて帰って来た。

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