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サ終戦線異状ナシ  作者: 泉とも
エピソード2  野良AIとサ終ネトゲ
20/30

・大空を制する者

 コズメック・ガッツィー内。惑星コウヤーの空に二機の戦闘機と二羽の巨鳥が舞う。


「ぬっさんが仕様の壁を取っ払ってくれたし、俺たちも本来の力が発揮できる。やれるぜ!」


 アレックスの機体の推進器が、一際強く火を噴く。いとも容易く一羽の背後、上空に位置取り攻撃を開始する。


 降り注ぐ弾丸の雨が見る見るうちに敵の体力を減らしていく。


『駆除対象への幇助行動を確認。排除優先順位を変更』

「来るか、しっかり掴まってろよ、ぬっさん」

「うん!」


 戦闘前に収容していたヌルに対し、アレックスが忠告する。実際に重力の負荷などかからないが、気分の問題である。


「はいよそ見はいかんですよーっと!」


 彼を挟み撃ちにしようとした駆除AIに、今度はブライアンが襲い掛かる。


 付かず離れずの位置で適宜妨害を挟み、自分が狙われたら逃げの一手を打つ。


 相手からすればウザイことこの上なかった。


「このボスの強さは、仕様の壁に囚われない。これに尽きた。プレイヤー側が頭打ちになる速度と高度を無視し、一方的に追いつき逃げることができた」


「ステータス自体も大したことないね」


「そうだ。あくまでも設定によって付与された根拠のない強さ。その梯子が外された以上、あるべき場所に落ちて来てもらう!」


 そう言うとアレックスはブライアンと連携し、駆除AIたちを追い詰める。


 二対二などという話ではない。敵がどう動いたとしても、彼らは二対一の状況を組み立て、最善の攻防を成立させる。


『干渉の排除は困難、抵抗への実力行使による改善の見込みナシ』


「PCへの負担さえなければ、こいつらは多少ステータスの高いボスに過ぎねえ。オレたちが負ける理由はねーぜ!」


『能力値の不足を確認、データの統合を開始』

「え?」


 それは一瞬の出来事だった。


 ブライアンの言葉を打ち消すかのように、駆除AIたちは自らの姿をノイズへと崩壊させ、互いに混ぜ合わせた。


「おいおいおいおい」


「こいつら、ゲーム内の自分たちを学習して手を打ったのか……!」


『統合を確認。業務の遂行を再開』


 二羽の巨鳥が一羽になり、大きさを倍にする。否。倍になったのは大きさだけではない。


「ブライアン、逃げろ!」

「うお、やべ、おわわわわわ!」


 先ほどよりも遥かに速く、多く、強力になった攻撃がブライアンを襲う。


 あっという間に機体がボロボロになり、音を立ててHPが減っていく。


「まずいよアレックス、あいつのステータスが単純に二倍になってる。質で押し潰す気だ!」


「クソっ、航空ショー用に機体を変えて来たのが仇になったか」


 アレックスはブライアンのフォローをしながら歯噛みする。


 この機体もレベルを上げてはいたが、武装は機体に備え付けられた物しかない。


 手塩にかけて鍛え上げた装備は積まれていないのだ。


「こんな時に、あいつがいてくれれば……」


 強引な加速で巨鳥の前に出て、射線を遮ると標的が彼に移る。それを地形の山や谷間で凌ぐ。


 体勢を立て直しながらも徐々に追い詰められ、アレックスは静かに呟く。


「よう、今オレの話してた?」


 その時だった。


「してた!」

「遅えぞハルヒコ!」


 レーダーの遥か大外。これまでのどんな機体よりも大きく、そして速い男が、満を持して三者の視界に飛び込んで来た。


「へへ、メンゴ!」


 大型機、ハルヒコである。


「でかい!」

「でっかい!」

「でえっけええええーーーー!!」


 それまでのアレックスたちが、あくまでも人型ロボットの延長だったのに対し、ハルヒコの機体サイズは最早施設級。


 ジャンボにも程がある大きさだった。


「これが今日まで機体サイズの上限に引っ掛かって出撃できなかった俺の理想像、その名も『ジャンボファルコン』だッ!!」


 ハルヒコは誇らしげに宣言すると、そのまま機体の高度を上げ、高く高く大空へと舞い上がる。


 旅客機を思わせる外観の白い機体は、軍用輸送機の如く太くなり、左右に大きく伸びた翼に合計四発、尾翼に左右及び中央に三発と合計七発のエンジンを搭載。


 機体前方にはカナード翼が配置され、背部には電動プロペラが接続翼と共に配置されている。


「すげえ、オレマジでジャンボ機だ……」


 ロボットになるゲームで、ロボットどころか旅客機になった男は、感動に打ち震えていた。


「ハルヒコ、お前それ戦えんの?」

「ああ、不本意ながら武器は詰んであるぜ!」


 ハルヒコはそういうなり『ジャンボファルコン』の胴体を開いた。するとどうだろう。


 絵に描いたような爆弾がばらばらと滝のような勢いで、黒い巨鳥へと降り注ぐではないか。


『ダメージ増大。排除の必要有り』

「そうかい、ならやってみな!」


 攻撃対象をハルヒコへ切り替える駆除AIだったが、どうやってもハルヒコの下から脱することができない。


 天敵の影から逃れることができないのだ。


「アレックス、ブライアン、次の攻撃に合わせてくれ!」


「了解だ!」

「合体攻撃って奴だな!」


『ジャンボファルコン』は機体を急降下させると、黒い巨鳥へ胴体を押し付けて強引に減速させる。


 現実だったら大事故間違いなしなので、良い機長は絶対真似してはいけない。


『重量超過、強制減速、現状に対応可能の武装無し』


「本来のお前は自分の有利さを活かし、上から下に攻撃する奴だったからな。自分の上を取られることを想定してない」


 圧し掛かりなりながらハルヒコは語る。


 公平さにより明らかになった力の差。

 カラス対ハヤブサ

 形勢は再び逆転した。


「さあ行くぜ、5・4・3・2・1……スタート!」

「行くぞブライアン」

「まかせてちょーよ!」


 巨鳥を頂点にアレックスとブライアンの機体が左右に展開。後方からミサイルを撃ち尽くし、それから全速力で接近し、機銃をありったけ連射する。


『く、駆除、くじょ、を』


 逃げ場のない状態で次々と突き刺さる攻撃。次第に駆除AIにもダメージが蓄積していく。


「よしやれハルヒコ!」

「これでトドメだ!」


 二人の声にハルヒコは機体を離すと、巨鳥の後方へと下がる。


 機首の下半分が人間の下アゴのように開くと、太短い砲台が迫り出し、更にそれが全貌へと伸びる。


 青白いプラズマが火花を散らし、エネルギーが完全に充填されていることを示している。


「いっけえええええーーーーーーーー!!」


 白銀のエネルギーの槍が、駆除AIを貫く。


『くじょ、くっkkkkkkkkKABOOM!!』


 巨鳥の体が爆発四散!


「やったあ!」

「へへん、スマートだぜ!」


 黒い残滓が消え去り、サ終したゲーム世界に平和が取り戻される。


「やれやれ、一時はどうなることかと思ったが意外と何とかなったな」


「ハルヒコ、これがお前の言ってた奴なのか」


「ああ。オレの考えた最強のジャンボ機だぜ」


 夢叶い飛行機になった男が誇らしげに答える。


 ジャンボ機。

 かつてそう呼ばれた旅客機が存在した。


 だがその機種は役目を終え、ほとんどが退役していた。サ終していたのだ。


「最新型にするとか考えなかったの?」

「悪いけどさ、それはオレの夢じゃない訳よ」


 ヌルの問いに対し、ハルヒコの返事は簡潔で、しかし十分だった。


 求めているのは形であり、スペックではない。


 性能を追い求めれば、過程は振るい落とされていく。望みの形を夢と言い換えて、欲する物が何かを端的に示す。


「簡単に言やぁオレが好きなのはコレなのよ」

「そっか。分かった」


 ヌルは頷くと、アレックスのコクピットからハルヒコの姿を眺めた。


 あまりにも大きな機体は、放っておけばどこまでも飛んでいられそうだった。


「さあ、街に帰って航空ショーのやり直しだ」

「オレ疲れたしそろそろやめたいんだけど」


「バカお前、今度はこれの撮影するに決まってるじゃねーかよ。そうだ、お前らも同じ機体用意して並んでみないか? 三人で空港になろうぜ!」


「なるかアホ」

「何だ空港になるって」

「そんなこと言わずに頼むよ!」


 ロボットの姿から戦闘機、或いは飛行機へと姿を変えた三人は、そうしてしばらくの間、空の旅を続けた。


 惑星コウヤーの空に三本の飛行機雲が、どこまでも長く、伸び続けて行くのだった。

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