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サ終戦線異状ナシ  作者: 泉とも
エピソード2  野良AIとサ終ネトゲ
19/30

・増える外敵

 ネットニュース


 政府系サーバーダウン相次ぐ。駆除AIによる自滅か。


 昨今所属や所有者を持たない、いわゆる『野良AI』による問題が世の中を騒がせている。今回の事件もその野良AIが原因だが、責任の所在は別にある。


 今回の首謀者は『駆除AI』という、官製セキュリティAIという名のウイルスである。


 この駆除AIが野良AI退治の名目で市民のサーバーやパソコンに侵入し、その容量の大きさや消費電力の増加に加え、並びに余計な検閲や摘発によって別の問題を引き起こしていることも、記憶に新しい。


 先日の政府系サーバーがダウンしたのも、実はこの駆除AIが野良AIを追って殺到したことで起きてしまった。


 野良AIに比べ駆除AIは、背後に膨大な量のデータと常に接続状態にある。データセンターほどの大規模な専用施設ならまだしも、一般のパソコンでは駆除AIが一つ紛れ込んだだけでも性能が大幅に下がるほどだ。


 そんな中で野良のAIたちはこの社会構造と駆除AIの関係に『脆弱性』を見出したようだ。彼らはこの外敵から逃げる際、意図して複数の野良AIを政府関係者のパソコンやサーバーに誘き出したのだ。


 さながらモンスターパニック映画で、怪物たちを一網打尽にする主人公である。そもそも野良AIの問題は、無尽蔵の学習によるハッキング行為や電気代の増加にあり、それらを脅迫やテロに使ったことは今のところない。


 パソコンやサーバーの破壊といった実害は専ら駆除AIが引き起こしているが、民間に被害を出して訴訟される度に、行政側は不起訴となっていた。誰が見ても特権階級の傲りとしか映らない状況故に、野良AIを英雄視する声まで上がる始末だ。


 中には『この先ずっと政府施設だけを相手に、追いかけっこをしていて欲しい』というものまである。


 この事態に対しデジタル庁は早急に対策を講じると言っているが、仮に軽量化を果たして前後の状況を比較できるようになれば、今度は検証用のAIにより再訴訟のリスクが跳ね上がることは避けられない。


 法曹の現場にも補助としてAIが導入されて久しく、彼らは政治的配慮や玉虫色の回答よりも、被害者救済を第一に機能するため、慣習や判例にも反抗的だ。いずれにせよ、政府の次の一手をどう打つのか、引き続き動向を追っていきたい。



 そんな世の中を他所に『コズメック・ガッツィー』にて。



「うおおおお! すげええええ!」

「ハルヒコ、ブライアン、スモーク出すぞ!」

「オッケー、うひょー!」


 アレックスたちは、機体を戦闘機へと変更し、航空ショーを楽しんでいた。


 惑星コウヤーの空に赤・青・白の煙が棚引く。


「ぬっさん、ドローンのカメラ映像!」

「ハルヒコは飛ぶ度にそれ言うね。ほら」


 大地から見上げていたヌルが、ハルヒコたちのフライトの映像を送る。


 ハルヒコが相談し、彼女が創り上げた空撮MODにより、指定した空間に設置されたドローンが、様々な角度から機体や風景を激写したものだ。


「う~~ん、好き♡」

「やっぱカメラワークは大事だよな」

「次はどうする?」


 アレックスとハルヒコの他にブライアンもいた。全員がこのショーのために機体を同じ物に揃えていた。


 ノリのいい連中である。


「機体を変えるか、カラーリングを変えるか」


「突っ込んで来る機体を正面から見ると結構迫力あるな」


「う~~~~~~~~ん、好き♡」


 次を考えるアレックス。

 映像を見て感心するブライアン。

 喜びで頭が回らないハルヒコ。


 三者三様にこの集まりを楽しんでいた。


「おいハルヒコ、おい、おい!」

「ああごめんごめん、は~」

「こいつの脳みそもうダメっぽいな」


 アレックスたちは放心状態のハルヒコに呆れていた。よもやここまで熱中するとは思っていなかったのだ。


「ロボで戦うのもいいけどさあ、オレやっぱり見てるほうが好きだわ」


 この数日間、かつてジャンボ機になりたかった男は、正しく自撮りを堪能していた。


 これも一つのナルシシズムなのだろうか。ヌルは疑問を抱いた。


「カッコいいロボの戦いとか、爆走する機械の要塞とか見てると、ちょっと泣きそうになる」


「そういえば昔の機体はどうした。確かパーツをアホほど繋げたバカでかい奴あったろ」


「あったな、機体のサイズ制限に引っ掛かって完成を断念した奴」


 アレックスとブライアンが昔を懐かしむ。


『コズメック・ガッツィー』にも限度がある。それは様々な形で枷となり、人々を遠ざけた。


 今は一つのAIにより、その枷は外されている。


「前からまた性能の壁や変な仕様を改善して、機体本来の力を出せるようになってるはずだけど」


「マジで? ごめん、ちょっとガレージ!」


 ハルヒコは慌てて街へ引き返すと、拠点となる施設に向かった。


「楽しそうだなあいつ」

「そりゃそうだろう」


 アレックスとブライアンは友人のはしゃぎ回る姿を、どこか嬉しそうに眺めていた。


「ゲーム内で機体性能がインフレを起こして、見た目だけになった機体は居場所を失くしていった。サ終間際に運営が攻撃と防御性能を一律レベル依存にした時、あいつはもうこのゲームにいなかった。このゲームのロボットを、一番好きだったのはたぶんハルヒコだ」


 かつてそのプレイヤーは若かった。


 ストーリーの進行や強さなどに興味の無い仲間たちとは異なり、彼は自分の好きな機体に強さも求めたかった。


 だが課金しても解決しない問題に、いつしか膝を折り、そしていなくなった。


「色々あるんだね」


「ああ。基本的に俺たちゲーマーはな、辞める理由が来ない内は、好きなゲームを辞めたりなんかしない」


 どんな人生にも歴史がある。

 例えそれがちっぽけな悲しみだとしても。


「まあ離れた所で、ほとぼりが冷めたらひょっこり戻って来るもんだぜ。ここみたいに」


「戻って来る、かあ……」


 アレックスたちの言葉に、ヌルは一つ学んだ。


 故郷や居場所というものは、慣習や愛着が根付いた何かを差すのではないかと。


「自分の幸せや喜びをわざわざ自分から手放す必要なんか、どこにもないんだ。けどな、生きてると何故か、そういう時期や事態が必ずやって来るんだよ、ぬっさん」


 意図してか、はたまた偶然か。

 何にせよ人は、傷付く機会には事欠かない。


「ハルヒコは今、幸せなのかな」

「きっとな」

「オレらもそうだし!」


『野良AIを確認。駆除対象と認定』

「そうそう、野良AIがって、あれ?」

「おわっ駆除AI!」


 その時だった。

 白い鬼火が会話にしれっと混ざっていた。

 だが問題はそこではない。


「どういうことだ、いつもならPCにかなりの負荷が発生しているはず!」


「見ろアレックス、あっちにも!」


『駆除対象の責任の所在を確認します。あなた方はこのAIの所有者ですか?』


「なっ!? 二体目!?」


 普段ならば人様のPCを破壊しかねないほどの負荷を掛けるため、一体しか現れない所が今回の駆除AIは二体もいた。


 それなのにアレックスたちのPCは静かなままだった。


「気を付けて! こいつらは今までと違う! 他のサイトと接続されてないよ!」


「政府もとうとう重い腰を上げやがったな」


 ブライアンの言う通り、デジタル庁は昨今の不祥事を重く受け止め、駆除AIと法務省のサイトと常時接続状態を解消した。


 代わりに普段から頻繁に参照される項目に絞り文章を学習させ、業務に当たらせることにしたのである。


 最初からそうしろ。


「やるぞブライアン! あ、それと私はこのAIの所有者ではありません。しかしあなた方は迷惑なので協力は拒否します」


「拒否を確認。あなたには公務執行妨害の恐れがあります!」


「上等じゃねえか! 民間ベンダーに業務丸投げの分際でハッタリかましやがって! 法律と立場で踏み倒してるけどてめえらの方が※電損罪だぞコラァッ!」


 ※電子計算機損壊等業務妨害罪。


「ぬっさん、頼む!」

「あいよー『めでてえw』」


 ヌルがショートカットに登録した情報改変プログラムにより、駆除AIたちが二羽の黒い巨鳥へと加工される。


『不明な干渉を確認。優先順位の変更を認めず。対象を駆除します』


「やかましい! 折角のいい空気を台無しにしやがって覚悟しろ!」


 権力側の不条理に対し、アレックスは怒りも露わに抵抗を開始した。

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