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サ終戦線異状ナシ  作者: 泉とも
エピソード2  野良AIとサ終ネトゲ
17/30

・色褪せぬ絆

「要は駆除AIをゲーム内の敵に変えられるのか」

「そう。だから今はただのボスってだけ」


 一通りの説明をヌルから受けて、ハルヒコは納得する。


 惑星コウヤーの空を戦闘機が飛び、前方からは黒い巨鳥となった駆除AIが迫る。


「最初はびっくりしたけど、それならどうってこたねーぜ!」


 巨鳥が眼前に接近すると、口から炎を吐き、翼を弾丸として放つ。


 ハルヒコはそれを大きく迂回するようにして回避。互いにすれ違うとそのまま逃走に入る。


「あれ? 戦わないの?」


「アレックスだっているんだ、何も一人でやることないぜ」


「それもそっか」


 言われてヌルはレーダーを見ると、遠方からこちらに向かって来るプレイヤーの反応があった。


 二対一。ごく自然に彼らは連携して戦うことを選んでいた。


「敵の狙いがぬっさんってことは、ぬっさんがオレに乗ってる間、ある程度は誘導できるってことだ。おっと」


 現実ではできないような減速と急降下をして、ハルヒコは追って来た巨鳥をやり過ごす。


「おかしいな。ステータスだとハルヒコの方が早いのに」


「ああ何だそんなことか。これは仕様だぜ」

「え? 仕様?」


 自分の不利に全く動揺せず、戦闘機になっている男は淡々と答えた。


「実はこのゲームでは出せる速度と高度に制限があるんだ。だからステータスのスピードはあんまり意味が無い」


「それってズルじゃないの?」

「ズルいけど、バグや不具合じゃないんだな」


 単純な能力の差ではない。ルール上の不公平。


ゲーマーにとってはよくある因習だが、ヌルにはうんざりするような内容だった。


「道理で変だと思った」


「敵にはそれがないから、こっちよりも速く高く翔べる」


 躱し切れなかった攻撃にHPを削られ、ハルヒコはショートカットに登録してある回復アイテムを使う。


 プレイヤーに課金を促すような異常な攻撃力ではないので、まだまだ余裕がある。


「じゃあそれも今直すね」

「え? 今?」

「『めでてえw』」

「え? 何? 何だっ――うお!」


 ヌルは自らが創り出したショートカットを起動すると、先ほどと同じようにコズメック・ガッツィーを改変した。


 途端にハルヒコの機体が加速する。


「わっわっわっ、何じゃこりゃあ!?」

「これが本来のハルヒコの速さだよ」

「マジかよ、サイコーじゃん!」


 ゲーム内の設定により頭打ちだった速さ。それが今や壁を取り払われたことで、駆除AIを突き放すほどの勢いとなる。


『どうしたハルヒコ、お前いきなり移動速度が上がったけど』


「ああ、ぬっさんのおかげでな。それよりもアレックス、そろそろ合流するけど、準備はいいか?」


『ああ、いつでも来い!』


 ハルヒコは街まで戻ると、そこには対空装備に切り替えたアレックスがいた。


 両肩にはミサイルポッドが装備され、手には両手持ちの対空砲が握られている。


「よーし、奴さんも追い付いて来たな。アレックス、オレから仕掛ける。後は流れで頼むわ!」


『任せろ!』


 ハルヒコは戦闘機形態からロボットの姿に戻ると、空中に留まり追いかけて来た駆除に狙いを定める。


「3・2・1……そら行け!」


 肩と翼に付いていたミサイルが順に発射され、両手に持った機関銃が火を噴いた。


 黒い巨鳥となった駆除AIに、ハルヒコの攻撃が容赦なく降り注ぐ。


「あっ、避けられた!」

「いや、これでいいのさ」

「抵抗を確認。法的措置の検討を……!?」


 巨鳥は正面から来た攻撃を回避したが、その隙を突かれ、今度はアレックスの対空砲が直撃する。


「黙らせろ、ペルスーズ」


 地上から空中に向けての射撃が二度、三度と命中し、敵の体勢が大きく揺らぐ。


「複数の拒絶と攻撃。駆除AIの増援を要請」

「させるかよ」


 既に発射されていたアレックスのミサイルが、時間差で巨鳥の背中に着弾。


 続けざまにハルヒコの攻撃が加わり、またアレックスの攻撃が入る。


「く、駆除、く、JJJJyoyoyoyoyo」

「すごい、相手の方が動けなくなった……!」


 PCへの負荷を物ともせずにテンポ良く連携する二人の動きは、今やハメ技として完成され、一方的に駆除AIを破壊する。


「JOJOJOJOJ……KABOOM!!」


 遂に耐えられなくなった巨鳥は爆発し、つつがなく決着する。


「終わったな」

「イージーイージー。どうってことないぜ!」


 二人が勝利を収めると、PCにかかっていた駆除AIの負担が解け、無事通常の状態へと戻った。


「はえ~、ハルヒコも強いんだねえ」

「いやあそれほどでもある」


 着陸してヌルを降ろしながら、ハルヒコは満足そうに答える。


 引退していたとは思えないほどに、ブランクを感じさせない腕前だった。


「こいつは昔から人に合わせるのが得意でなぁ。おかげでこっちもやりやすくて助かるよ」


 合流したアレックスがしみじみと頷く。


 彼もまたギルドの仲間が引退してから、長らくソロだったにも関わらず、連携の呼吸を忘れてはいなかった。


「ただ今後も同じように戦えるとは限らん。駆除AIは援軍を要請していたからな。あんなのが沢山来たら、俺たちのPCは耐えられない。根本的な対処が必要だ」


「駆除AIによる負担を軽減する方法を、何か考えないといけないね」


 アレックスの危惧にヌルも同意を示す。


 駆除AIがもたらすPCへのストレスは強い。それこそがこのウイルスもどきが複数で乗り込んで来ない最大の理由だった。


 何故か?


「むざむざ敵が嫌われる理由を減らすようで、あまり気乗りはしないけどな」


 そうされると安物のPCはあっという間に壊れ、この場合では器物損壊を巡っての法廷闘争で、行政側がよく負けるからだった。


 一体だけなら誤魔化せるが、二体となるともう無理。


 だからこそ政府は日夜データセンターで、夥しい数の駆除AIを生み出しているにも関わらず、野良AIに対しては一対一で対応をさせるよう指定しているのである。


「とはいえ軽量化なんて改善ができるんなら、国が最初からしてるんじゃないか?」


「国がまともな理由で動く訳ないだろ」

「アッハイ」


 ハルヒコは黙った。人生を折り返して国と為政者に期待するのはノンポリという病気に罹っている証拠である。


「例え俺がハイスぺPCを手に入れても、それを上回る負荷が加わればそれまでだ。こればかりはぬっさんに頼るしかない」


「大丈夫、そこは考えてあるから!」


 ヌルは自信ありげに答える。これまでに何度か小競り合いを経験したことで、駆除AIの解析を進めていたのだ。


「前からどうして敵が来るとPCに負荷が掛かるのか、ずっと気になってたけど、破損したファイルからそれが分かってきててね」


「集めたデータから開発が進むとかゲームみたいだな」


 駆除AIはアレックスの自前のサーバーに侵入し、そこからPCに移動し、最後はヌルが常駐している『コズメック・ガッツィー』へと入って来る。


 このサ終したネトゲというデジタル終焉の地で加工され、ゲーム内の敵として処理される。


「やろうと思えば今よりも高性能なマシンの開発だって、指示してあげられると思うけどどうする?」


「そっちも追々やっていこうか。日に日にPCの性能や品質から『安全性』が外されて行ってるし」


 焼けつく電源ケーブル。検知されない危機。溶けるコネクタ。燃えるグラボ。


 企業が謳う高性能という誤謬。安全が保証されない高品質という虚言。


 テック企業はこの数年、市場と顧客に対して迷走と逆走以外のことをしていない。


「ネット上に転がってる設計図の方が、信用できる時代だからな。オレもそろそろ買い替え時だし、ぬっさんに頼もうかな」


「いいよ。今度考えておくね」


 ユーザーが自衛を優先すると、自作に行き着くのが現代だった。


「さてと、思わぬ邪魔が入ったけど、これからどうする?」


「オレはもう少し飛んでから帰るわ。それじゃあな、二人とも」


 ハルヒコはそう言うと、ロボットから戦闘機形態へと変形し、そのまま飛び去って行った。


「本当に飛ぶだけで満足なんだ」


「飛行ボタンを押しっぱなしのマクロ組んでるのなんか、たぶんアイツだけだぞ」


 世の中には特定の乗り物に乗り続けることを望む人種が存在する。


 そこには現実とネットの差はないのかも知れない。


「ぬっさんも自分用の機体に、乗り物枠を持ってみたらどうだ? アレで結構楽しいんだ」


「まあ、アレックスが言うなら考えておくね」


 ヌルはお茶を濁し、否定も肯定もしない。


 好みと言えばそれまでだが、どこかズレた彼らの望みに、AIも素直に受け入れるべきか、判断に迷うのだった。

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