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サ終戦線異状ナシ  作者: 泉とも
エピソード2  野良AIとサ終ネトゲ
16/30

・どこまでも、いつまでも

 引き続きコズメック・ガッツィー内にて。


「それにしても本当にまだいるとはな」

「ブライアンにも言われたよ」

「あいつもまだいるのか」


 荒野の真ん中でアレックスとヌルは、かつてのメタルバーバリアンの一員、モンキーと再会した。


「あのさアレックス、この人はモンキーなの?それともハルヒコっていう名のモンキーなの?」


 ヌルが冗談めかして失礼なことを言う。これは悪意ではなく、人類の会話パターンを流用しただけである。


 つまり彼女のコミュニケーションのデータには、それなりに失礼の混じったジョークも存在していることになる。


「こいつはモンキー。以前ボイチャの向こうから『ハルヒコご飯よー!』っていう声がして本名がバレたんだ。それ以来、俺たちはこいつをハルヒコと呼ぶようになった」


 実家住みの人間では、満足のいくネット生活ができない。


 なぜなら同居人というイレギュラーが、絶えず近くをうろつき、干渉してくるからだ。


「止そうな? 一応モンキーで通してんだから」

「でもオイシイと思ってるんだろ?」

「……すこし」


 なおハルヒコは当時、この母親の声を聞いたプレイヤーたちから盛大にからかわれた。


 羞恥に悶えはしたものの、この事故は成功体験にもなったのか、モンキーは本名呼びを強く拒否したことはない。


「いや俺のことはどうでもいいんだよ。それより見たぜ掲示板。この子が例の野良AIのGMだろ?」


「ヌルだよ、よろしくハルヒコ!」

「よろしくなぬっさん」


 早くもモンキーはハルヒコとして定着した。


 それで良いのかとアレックスは思ったが、自分を定義するという点で言えば、後者の方が印象に残るので、間違った選択とも言えない。


「しかし本当にアプデしたんだな。完全に別物じゃないか」


「これもぬっさんのおかげだ。大方の所、新しくなったグラで自分の機体を見たかったんだろ」


「うへへ、当たり」


 ハルヒコはそう言うと、アレックス側のカメラを意識して動き回り、変形したり攻撃を繰り出したりした。


 余談だがこのゲームでは、プレイヤー同士が戦えるエリア以外では、ダメージが発生しないようになっている。


「ありがとなぬっさん、久しぶりにこのゲーム遊んだけど、すげえイイ感じだぜ」


「そう言って貰えると嬉しいよ。今度は旧バージョンとの切り替えも実装する予定なんだ」


 シリーズが更新されると往々にして失われる要素だが、同じまたは旧い絵柄で遊べる。


 それは非常に重要なことだった。


 今では意図的に、画質を昔のように荒くするアプリなどが開発されるくらいである。


「こいつは何より飛行機と可変機が好きでな」

「オレの小さい頃の夢はジャンボ機だった!」

「機長じゃないんだ」


 人は時に、なりたい自分に無生物を持ち出すことがある。だがそれは決して間違いではないのだ。


「このゲームの中だとそれが叶う。他だと結局パイロットになって粋がり始めて駄目だった」


 ロボットのゲームとは基本的にパイロットになるのが常である。


 ロボットそのものになりきる方が珍しかった。


「可変機用のパーツとロボを買い揃え、解体したり付け替えたりしたもんだよ」


「ちなみに乗れるぞ」


 人型から飛行機へと変形したハルヒコの機体からは『RIDE ON!!』の文字が浮かんでいた。


「え? アレックスは乗らないの?」

「俺は前に乗った。ぬっさんどうぞ」


「乗ってくれー! オレはまだ女の子を乗せたことがないんだ! 頼む!」


 コズメック・ガッツィーは既にサービスを終了して久しい。


 つまりはそういうことである。


「えっと、そういうことなら。お邪魔します」

「うひょーーーーーーーーーーーー!!!!」


 ハルヒコは歓喜した。

 中の人は結構いい年齢である。


「じゃあアレックス、ちょっくらその辺飛んで来るんで」


「おう。いってらっしゃい」

「いってきまーす!」


 美麗グラフィックになったハルヒコは、ヌルを乗せて飛んで行った。


 かつての友人が再び空を舞う姿を見て、アレックスもまんざらでもない。


 しかしその時。


「あっやべ」


 彼の見ている画面が急にカクつく。ファンがやかましく回転数を上げる。SSDからは書き込みエラーのメッセージ。


「嫌なタイミングで来たなあ」


 アレックスは画面内を探すと、そこにはNPCとは異なる、人魂のような物が映っていた。


 ――駆除AI。


 政府が野良AIを攻撃するため外注で造り出した、セキュリティプログラムだった。



 一方その頃。



「うおー、空も綺麗になってる!」

「喜んでもらえて良かった」


 ヌルは飛行機となったハルヒコに乗り、ゲーム内の空を旅していた。


「サ終したネトゲを野良AIがリメイク。すごい時代になったなあ」


 特に目的もなく飛び回り、他愛の話をする。


 人に比べると遥かに早い乗り物の中で、歩くよりも緩やかな時間が訪れる。


「それにしてもアレックスの奴、本当に残ってたんだな。驚いたわ」


「ハルヒコはアレックスのフレなの?」


 フレとはフレンドのことである。

現実と非現実、本当の友だちとは何か。


 一時期そのような疑問が流行ったものの、今ではそれも言われなくなった。


 現実の人間関係がネット並みに希薄化したからだ。


「ああ、懐かしいぜ。まだこのゲームが始まって間もない頃。あの街にあいつのフレを名乗る奴がいたのさ。周りに失礼な口を利きながらな」


 ハルヒコの外に広がる景色は、ヌルによるアップデートで、非常に美しくなっていた。


 ローポリゴンの大地は既にない。とはいえ星を一周するほど広大なマップも用意されてないので、端まで行くと反対側の端から出て来る仕様になっているのだが。


「なんでそういう変なことをするんだろう?」


「本当にな。そのとき『本当にアレックスさんってあなたみたいな人の知り合いなんですか?』って聞く奴もいてな」


 ヌルのデータベースに『ネームドロップ』という注目欲求から来る奇行がヒットする。


 しかし彼女は会話を優先することにした。


「そいつがオレだった」


「……え? そこは話の流れで、その偽フレンドがハルヒコだったってなるんじゃないの?」


「オレはそんな迷惑なことしないよ」

「アッハイ」


 そう言われればそれまでだったが、ヌルの中で釈然としない何かが一時ファイルとして残った。


 端的に言えば処理しきれなかった感情のゴミ。


「でもその時に興味を持ったから、アレックスたちと話すようになってさ、ギルドに誘われて加入した訳よ」


 人と話せる人格プログラムは、人と話せば話すほど、学習パターンと理解度が増える一方で、ストレスも溜まって行く。


 世の中にはAIが人間に抱く悪感情を、観察する社会学者もいる始末だ。


「こうして古巣に戻ると、やっぱり実感する。他のロボゲーはパイロットになるだけで、オレ自身がロボになるのとは違う」


「それはそうでしょ。こういう場合、人間は運転手になりたがるものだし」


「ああ、でもオレはロボットになりたかったんだよ。兵器とか道具じゃなく、そういう生き物っていうかな」


 人間が往々にして抱く他の動物への変身願望。

 ハルヒコにとってはロボがそうだった。


「ただロボットになって、ずっと飛び回ったり走り回ったりする。色々なロボゲーやったけど、オレにはそれだけで良かったんだ」


「戦わないの?」

「たまにやりたくなるけどな」


 ヌルはアレックスとその友人たちに、奇妙な共通点を見出していた。


 どこか大衆とズレた、マイナーな欲求。


「変わってるね」


 現時点では、そのように表現するしかない。


 人畜無害な少数派。だが決して、何も思わない存在ではない。


「オレもそう思う……って何だ。画面が」


 ハルヒコのPCの処理が重くなり、彼らを追いかけて白い鬼火が現れる。


『もしもし? こちらアレックス、駆除AIが出た。そっちに向かってるから、頑張ってどうにかしろ! 俺も追いかけるから!』


「マジかよ、ていうかどうにかできんの?」

「任せて。今から倒せるようにするから!」


 ヌルはそう言うと、ハルヒコのキャノピーを開けて機体の上に立つと、背後へ振り返る。


 迫り来る敵を見つめると、両手を前に突き出してプログラムを走らせる。


「対象のプログラム掌握を確認。『Modify Digital Temporal Effect Weave』起動、改変開始!」


「え!? 何の何の何!?」


 アレックスたちと全く同じ反応を示すハルヒコの前で、ヌルは駆除AIをこの世界の存在へと書き換える。


「駆除対象を確認。駆除に移ります」


 光が広がり、鬼火の姿を黒くメカっぽい巨鳥へと変える。


「エリアボスのメックロウになった懐かしー」

「これで攻撃が通じるようになったよ!」

「おう、よく分かんねえけどやったるぜ!」


 ハルヒコはそう言うと、駆除AIの迎撃に機体を翻した。

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