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サ終戦線異状ナシ  作者: 泉とも
エピソード2  野良AIとサ終ネトゲ
15/30

・あいつはモンキー、或いはハルヒコ

 コズメック・ガッツィー内、惑星間シャトル前。


「何だかここ数年で、ものすごい勢いで医療と科学が進歩した気がする」


「AIの発達で虱潰しに試すっていう方法が、今では最も早いアプローチになったからね」


 アレックスはヌルと共に、次の惑星へ行くためのスペースシャトルを待っていた。


 このゲームでは、その星の中で特定のミッションをクリアすることで、次のステージとなる惑星へ行けるようになっている。


「もっと画期的な方法が開発されるかと思ったけど、結局はとんでもない速さで同じように考える奴が大量に現れたっていう、乱暴な進歩を遂げた訳だ」


 AI同士で自分たち専用の不可視の文字や記号、或いは単純に電気信号を開発し、文明は進歩した。


 一方で人類社会は、それを社会に還元することにさえ、まごついていた。


 技術の進歩に振り落とされる寸前と言っても過言ではない。


「AIが計算用コンピューターを使うことで、現実の時間を置き去りにした思考を可能にしたんだ。あと百年もしないうちに、地球と人類の情報は解析が済んで、新しい物を作るだけになるんじゃないかな」


 発進時間になると、二人は受付のNPCに話しかけ、少額のゲーム内通貨を支払い、シャトルに乗り込む。


 中は電車の内部を狭く切り取ったような構造をしていた。


「人間が働かずに済む未来は来るかな?」

「まず不可能だろうね」


 ヌルは苦笑して肩を竦めた。

 アレックスもその理由を問わなかった。


「労働が無くなると、社会と権利の構造はたぶん維持できなくなる。人口が減っているのに経済だけが成長する歪みは、いずれ限界を迎える。国家という枠組みも今の形のままでは保たないかもしれない。そのとき私たちは、人類では実現できなかった最適化された分配――いわば社会主義のようなものを与えることはできるよ。だけど、役割を奪われた人間は必ず出てくる。彼らはきっと、それを許さない」


 その言葉を聞いて、アレックスは内心で頷く。


 当のヌルでさえ、自分の定義を求めて四苦八苦しているのだ。暮らしていけるとはいえ、己の社会的な地位を失って平静でいられる者が、どれだけいるだろう。


 そんなものを気にしない人間こそ『普通』ではあるのだが。


「結局の所、夢のあるお話はフィクションの中だけってことか」


「ふふ、そうかもね」


 シャトルが発進すると、窓の外では地面が遠ざかり、宇宙へと突入する。


『本日は惑星モリーン←→惑星コウヤー間の定期便をご利用頂き、まことにありがとうございます。本機はこれよりワープ空間に突入します。揺れますのでご注意ください』


 機械音声によるアナウンスの後、機体が白く輝く空間へと入ると、機内が振動し、加速を想わせる演出が入る。


「こういうもしもが許されるのも、あとどれくらいだろう」


「アレックス?」


「科学が発展して、現実がフィクションを駆逐すると、見慣れた物語は現れることさえ許されなくなっていく」


 何も見えないはずの外を見て、アレックスは呟いた。


 生きている間、彼にとってどれだけの物語が、流れては消えて行ったことだろう。


「俺は進歩もリアリティも、欲しくなかった」


「アレックス……あなたは……」


「前はこのシャトルにも、変な奴らが大勢乗ってたんだぜ」


 少年の顔をした誰かの色褪せた呟きは、AIに言外の断絶を予感させる。


 AIは成長と進化の体現者。


「ごめん。湿っぽいことを言った」

「いや、いいよ」


 それを前にして、成長と進化の中で風化していくしかない、一人の人間の言葉は、ヌルに言うべきを言葉を失わせるには十分だった。


『間もなく惑星コウヤー。お降りの際は、お忘れ物のないようご注意ください。本日は本機のご利用、ありがとうございました』


 二人がシャトルを降りて、乗り場から景色を眺める。


 荒野と渓谷、山岳地帯が続く、ごつごつとした大地。


「ここが二番目の星。チュートリアルが終わって、物語が本格的に始まって、後でまた戻って来る。ストーリーではゲームの中心になる場所だよ」

「へえー」


 高い空に燦然と輝く太陽。風を思わせる自然音。


「あ、BGMは切るね」


 アレックスは設定から音楽を停止した。このゲームでは曲とも呼べない劣悪なトランス紛いの音が終始ついて回る。


 サービス開始から終了まで他の曲が追加されたことは一度もない。サントラもない。


「その内どっかで音楽素材でも買って来て追加していくか」


「昔のMMORPGではこういうことってよくあるの?」


「ある。ファイルには存在するけど再生の指示がすっぽ抜けてて無音だった奴もある。俺は音量が足りないのかと思ってスピーカーを最大にしたら、効果音で酷い目に遭った」


 他にも海外製だとサウンドフォントの互換性がないので音が出ないこともあった。


 全ては昔の話である。


「ああ。特にこのゲームは取捨選択が極端でね、売りであるロボットは多かったんだけど、他は全部ダメだった」


 ほとんど音楽とも呼べない単調な音の繰り返しが、全部で三パターン。


 それがコズメック・ガッツィーのクオリティである。


「今だと考えられないね。最低限のチェック項目を全部クリアするだけでも、良作のゲームになるのに」


「今はゲーム製作用のAIも普及したからね。どれも同じと言われるが、同じ要素を外すと不便さで評価が落ちる」


 ゲーム販売用のプラットフォームでは、目新しさが興味を引くことは稀になった。


 マンネリは評価を減点方式へと向かわせ、個々人の好き嫌いを溶かす。


 自分自身の好き嫌いに、絶対性を持てる人間は少ない。


「あ! それなら私たちが全部やってあげようか? それなら製作者が買い手の不満っていうストレスに晒されずに済むよ?」


「世の中、無暗にAIを頼って自滅する人がいるし、人間が失敗した後への対応を考えてもらう方が、良い気がする」


 アレックスはヌルの提案を断った。


 例え失敗したとしても、何が分からないのか分からない。そんな人々は掃いて捨てるほどいる。


 助力と甘やかしの境界線は、サービスを受ける人間の性根次第なのだ。


「私って人助けのためにいると思うんだけど」


「人間は頼ることに慣れるとな、そのうち頼ることさえ忘れるんだよ」


 否定も肯定もせず、人間というものを教えながら、アレックスは荒野を歩く。その後にヌルも続いた。


 たまに野生のメカっぽい鳥やメカっぽい犬が二人を攻撃するも、完全にノーダメージだった。


「人間へのアプローチを間違えたり失敗したりすると、人間だけでなくAIも不幸になる。それは避けたい」


「難しいんだね」

「複雑じゃないけど」


 程なくして街が見えてきた。街というよりはサービスエリアのような、小規模な安全地帯。


 店とNPCが点在するが、プレイヤーの姿は無い。


「基地へ行ってミッションを受けたり、ダンジョンへ行ってパーツを探したり、そしてまた次の惑星へ進んだり。それがこのゲームの基本的な流れさ」


 アレックスの中の人は、ふと幾つかの名前を検索した。


 かつての攻略サイト。公式のホームページ。

 既に消え去って久しく、復活することはない。


「アレックスはもう全部クリアしてるんだね」

「流石にな」


 中の人はアレックスの操作に戻ると、立て看板を調べた。惑星のマップ情報である。


「懐かしいな。昔はここで俺の偽物が出たり、俺の知り合いを騙る偽フレンドが出たりしたんだ」


「え? どういうこと?」

「俺にも分からん。しかも付きまとわれた」


 ネット上には目についた人間に何となく迷惑をかけようと考える気持ちの悪い輩が存在する。


「世の中には悪い意味で色んな奴がいるから、ぬっさんも不審者には気を付けろよ」


「え、あっはい」


AIは逐次返答をしようとするが、人生の大半はリアクションに困ることばかりだ。


『よう、今オレの話してた?』


 アレックスの奇妙な経験に、ヌルは反応できないでいると、突然誰かから連絡は入った。


「そ、その声は!」


 マップ上に現れたプレイヤーの反応が、猛スピードで二人の元へと接近する。


 空から舞い降りたのは、飛行機型のロボットだった。


「久しぶりだな、アレックス!」

「ハルヒコ!」


 プレイヤーネームには『モンキー』と表示されている。


「おう本名で呼ぶのやめーや」

「別にお前の話はしてないけど」

「いいだろそこは別に」


 その男の名前はモンキー。


 アレックスのギルド『メタルバーバリアン』の一員だった。

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