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28.ジーナの話(2)

そう、ジーナの話を聞いて、彼女が未来から来たことを、ウィルはすぐに悟ったのだった。



元々ウィルは、俺とアルクが四百年前の世界へと転移して、ハジメに協力したことに気付いていたからだ。

ジーナが未来から来たと言う話も、ウィルに取っては完全にありえることだった。



そんなウィルの様子を見て、ジーナは嬉しそうに笑った。


「君ならすぐに受け入れてくれると思ったよ。……そして、ここからが重要な話だ」



真剣な声色になり、ジーナは再び話し始める。



「私はさっき、転移魔法陣を作り上げた男は、自然の摂理によって命を落としたと言った。神の意志により、この世界の危険因子だと認定され、世界から排除されたんだ。


………だけどもしその転移魔法陣の存在がこの先の未来で、人間の世界を救うことに繋がるとしたら、話は別だ。男はもはや危険因子ではなく、むしろ世界にとって必要な存在となり、神は男の生存を容認するだろう。そうすれば男は危険な運命から解放され、もはや命を落とす危機に悩まされることはなくなる」



「世界を救うって、それは………」



何となく次の展開を察しながら、ウィルは小さな声で呟いた。



「ああ、そうだ。私は君が作った転移魔法陣を使って、この時代へと転移したんだよ」



ジーナはゆっくりと頷きながら、神妙な顔つきになる。



「なぜならもはや未来の神には、人間一人を過去へ転移させるだけの力が残されていなかったからだ。


魔王によって勇者は倒され、人間は魔族との戦いに敗れた。もはや人間の世界を救うことは、未来の世界では叶わない。だから神は残り少ない最後の力を振り絞り、別の人間、つまり私に一時的な勇者の資格を与え、過去へと転移するよう指示したんだ。歴史の分岐点であるこの時代へと」



「この時代が、歴史の分岐点……?……それは、ここ最近の魔物の騒動と関係があるんだな?」



ウィルの言葉に、ジーナは再び笑みを浮かべる。



「ああ。話が早くて助かるよ。


……ここ数日の騒動は、四百年後の未来から、魔王がこの時代へと転移したことにより引き起こされたものだ。未来の世界で、ある魔王の従魔が時間転移魔法を手に入れたんだよ。


突然未来から来た強大な魔力に晒されて、魔物達は刺激され、凶暴化する。本来魔物がほとんど生息しない地域でも、次々に魔物が生み出される。出現頻度に緩急はあるけれどね。もはやこの世界が丸ごと、ダンジョンになったような状態に等しい」



「そうか……。だからバルダン帝国でも、同じような事態に陥ってるのか。……それで、あなたはその魔王を倒すためにこの時代に来たのか?」



ウィルが尋ねると、ジーナはゆっくりと首を振る。



「いいや。魔王はしょこら君が倒してくれるだろう。私がここに来た目的は二つ。一つは君にこの話を聞かせて、転移魔法陣を完成させるためのヒントを与えるため。そしてもう一つは、魔王と共に転移した従魔を始末するため」



「転移魔法の、ヒント………」



その言葉を聞いて、ウィルはごくりと唾を飲み込む。



「ああ。だけどこれはとてもデリケート……つまり、微妙な問題なんだ。私がこの世界で何か間違えたことをしてしまうと、未来はもっと悲惨になる。

私は君に全てを教える事を許されていない。ただヒントを与えるだけだ。そこからは君が自分で研究を重ねて、完成させてほしい。


……我々は君に何としても、その魔法陣を完成させてもらわなければならない。それがなければ、私が過去へと来ることは叶わなかったのだから。



そしてもう一つの目的はもちろん、時間転移ができる従魔をここで始末し、その魂を永久に葬ることだ。そうすればもはや魔王は過去へと転移できないからね」





しばらくの間、再び部屋は静寂で満たされた。

ウィルもジーナも、それぞれが自らの考えに耽り、ただ沈黙してテーブルを見つめる。



それから最初に口を開いたのは、ウィルだった。



「なあ。あなたがこの時代へと転移し、二つの目的を果たしたとして、そのあと四百年後の未来へ帰ると、どうなるんだ?過去が変わる事により、あなたが今まで過ごした四百年後の世界は消えて、全く異なる世界に改編されるのか?」



するとジーナは、優しい目をしてウィルを改めて見つめた。



「君は本当に聡明だね。……だけど残念ながら、私が未来へ戻っても、私がいた世界は変わらない。人間の世界があと残り一か月足らずで終焉を迎える事実も、変わらないんだ」


「なっ……じゃあ、一体何のために………」



唖然とするウィルを見つめ返しながら、ジーナは突然話の方向を変える。



「ウィル君。この世界は基本的に、一つしかないんだ。太い大きな木の幹のようなもので、神が見守るその幹は、まっすぐに上へと伸びていく。

そこにはパラレルワールド………つまり、平行世界のようなものは存在しない」



“パラレルワールド”という言葉に馴染みのなさそうなウィルの様子を見て、ジーナは言い方を変えた。



「だけど唯一例外がある。何者かが過去に干渉しようとする時、その時だけ、世界は分岐する。一時的に幹が枝分かれして、二つ、あるいはそれ以上の世界が同時進行するんだ。


だけど人間の神の力が行き届くのは、一つの世界だけだ。その他の世界は必ずいつか、滅びる運命にある。

つまり他の幹は朽ち果てて、一つの幹だけが未来へと伸び続けることになる」



「一つの幹だけが……」



ウィルはぼそりと呟く。

正直、情報量が多すぎて、頭では理解できても気持ちが付いていかなかった。



「ああ。生き残れるのは一つの幹だけだ。


これまでにもこの世界は、何度か分岐したことがある。例えば今から四百年前、その時代の勇者ハジメ・シロヤマの元に未来からの助っ人が現れた。その時に世界は分岐した。助っ人が現れた幹と、現れなかった幹、そしてもう一つ、助っ人が現れたけれど失敗した幹だ。


その後未来へと伸び続けることができたのは、もちろん、助っ人達がうまく仕事をやり遂げた幹だけだ。


……この先の未来の話で言うと、君が転移魔法を完成させた世界と、完成させなかった世界が存在する。もちろん完成させなかった世界は滅びる。私がわざわざヒントを与えに来たのは、その分岐を防ぐためだよ」



「ちょっと待ってくれ……それじゃジーナさんの、というか人間の神の目的というのは……」



ジーナはまた笑った。しかしそれはどこか儚げな笑みだ。



「ああ。私は私が過去へと干渉することによって、この先の世界を分岐させる。そして自分が戻る四百年後の未来の代わりに、別の幹を未来へと伸び続けさせる。それが私の、そして神の目的だ。


だけど安心して。私が過去に干渉したからと言って、君達がいるこの世界がすぐに消えて無くなる訳ではない。


君達は今世で天寿を全うし、次に生まれ変わる時には、新たに誕生した別の幹の世界へと生み落とされるんだ。少なくとも四百年以上、もっと先へと伸びる続けられる可能性を秘めた世界に」



「けど、そんなのおかしいだろ!ジーナさんがここで力を尽くしても、あなた自身が救われる訳じゃない。あなたが生き残れない事実は変わらなくて、ただあなたに関係のない全く別の未来が救われるだけだ。一体なんだって、そこまでして世界を救おうとするんだよ?神に無理矢理命令されたのか?」



ウィルは思わずガタリと椅子から立ち上がる。

正直、完全なる自己犠牲と奉仕精神だけでそこまでできるとは、到底思えなかった。



ジーナはまだその顔に静かな微笑みを浮かべ、伏し目がちにテーブルに置かれた灯を見つめている。



「……そうだ。私はいつだって、神に良いように利用されている。四百年後の未来で勇者が破れた時、神は過去へ向かわせるための一時的な勇者として、私の魂に目を付けた。

私が前世の記憶を全て取り戻せば、きっと過去へ転移することを承諾するだろうということが、神には分かっていたんだよ。だから勇者の資格と同時に、私に前世の記憶を与えた」


「前世の記憶って……ってことは、まさか……」


「ああ。私にはこの時代で、もう一度会いたい人達がいた」



そう言ってジーナは伏せていた目をウィルの方へと向けた。

そしてどこかいたずらっぽくにっこりと微笑む。



「ねえ、知ってるかい?人の魂は転生しても、基本的に性別は変わらないんだ。私は前世ではずっと男性だった。今だってそうだ。ただ過去の世界で正体を悟られないために、神によって容姿を変えられただけだ。アルク君やしょこら君が過去へと転移した時と同じように。……二人が過去に転移したことがあることを、君ならもう知ってるんだろう?」


「え?ああ、それはそうだが……」



ウィルは目の前の人物をじっと見つめた。

その人は相変わらず微笑んで自分を見返している。




「ウィル君、アルク君のことをよろしくね。君のような親友がいると分かって、僕は安心したよ」



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