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23.攻防

ジーナの言った通り、魔王領への道のりは、一筋縄ではいかなかった。



エド町の北門を出て黒霧の森の上空を通過するまでは、特に問題はなかった。

しかし黒霧の森を通り過ぎて眼下に荒野が広がると、そこは雑多な魔物の大群で溢れていた。


魔物達は一心不乱に、南に向かって突進している。



その光景はまさに、魔王復活前の魔物群の侵攻と同じだった。



「ジーナさん。あの魔物達、このままだと町を襲うよね……」

「ああ、そうだね。さすがに素通りはできないね」



コクヨウは高度を下げ、二人は魔物達の群れへと近づく。


アルクはごくりと唾を飲み込んだ。


「僕達だけで、あの数の魔物に対処できるかな……」



しかしアルクの心配を余所に、ジーナは余裕の笑みで言った。


「アルク君。わざわざ地上に降り立つ必要はないんだ。あそこにいるのは飛べない魔物ばかりだ。上空から一気に片を付けよう」



そう言うとジーナは地上に向かって手をかざし、思いっきり火炎魔法を放出した。




グウウウオオオオォォォォォォ!!!!!




地上はまさに火の海となり、辺りは魔物達の苦痛の咆哮で満たされる。

ジーナは容赦なく、続けて広範囲に魔法を打ち込み続けた。



凄まじい光景に目を奪われていたアルクは、その時ふと上空からの羽ばたきを耳にする。


ハッとして見上げると、そこには数体のドラゴンやワイバーンが、二人に敵意を向けながら旋回していた。



『そんな……ジーナさんは地上の魔物を食い止めるだけで手一杯だ。僕があいつらを何とかしないと……』



しかしアルクは魔法が使えないので、コクヨウの上からでは攻撃が届かない。

アルクがちらりと振り返ると、ジーナは額に汗を滲ませながら、魔物を逃さぬよう攻撃を続けている。



躊躇しているうちにも、ワイバーン達はみるみる距離を縮め、ついにアルク達のすぐ傍まで近づいていた。



ガキイイイイィィィィン!!!!!



まるで刃物と刃物が触れ合うかのような鋭い音が空中に響き渡る。


その音に、ジーナはハッとして振り返った。



ジーナの目に飛び込んで来たのは、降り下ろされたワイバーンの鉤爪を、アルクが剣で受け止めている光景だった。

渾身の力を振り絞り、震えながらもその巨体の前足を押し返している。



「アルク君!大丈夫かい!?すまない、上空の奴らに気がつかなくて……」

「ジーナさん、こいつらは僕に任せて、ジーナさんは地上の魔物を……!」



アルクは再び渾身の力を込めて、ガキイィンとワイバーンの鉤爪をはじく。

その一瞬、ワイバーンは僅かに押されてアルク達の元から離れた。



「どうせこいつらは、背中にしか攻撃が通らないんだ。僕が行ってくる!」



そう言い残すとアルクは突然、コクヨウの背から大きくジャンプする。


そして、ワイバーンの垂れ下がっていた尻尾に夢中でしがみ付いた。



「アルク君!!!」



ジーナは叫ぶが、その時また地上から咆哮が聞こえる。

魔法攻撃が止んだ一瞬の隙をついて、魔物達は再び一斉に南下を始めていた。



「まったく、君は大胆というか、無謀というか……。いや、勇敢と言うべきかな」


ジーナは僅かに冷や汗をかきながら独り言をつぶやく。


「けど、上空は任せたよ。アルク君」



そしてジーナは再び、地上への攻撃を再開した。



アルクはしがみついたワイバーンの尻尾をよじ登り、なんとかその背に回り込む。


他数体のワイバーンやドラゴンは、アルクの姿に狙いを定めてその周囲を取り囲んでいた。



「くそっ……早くしないと……って、うわっ!!!」



その時、周囲を旋回していたドラゴンが数体、アルクが乗っているワイバーンに向けてブレスを放つ。

四方から炎が放出され、アルクは急いで身を屈めた。




グウウオオオオオォォォォ!!!!!



幸い、炎の大半はワイバーンの強靭な皮膚によって跳ね返される。

同じ魔物からの攻撃を浴びたワイバーンは、怒り狂ったように咆哮を上げた。



アルクは再び姿勢を立て直し、剣をワイバーンの背に突き立てる。



『お願いだ、通ってくれ……!』



全身の力を込めて、アルクはその背にズブリと剣を突き刺した。


僅かに剣先が背中に沈むも、それだけでは致命傷とはならない。



「くそおっ、もう一回………!って、またか………!!」



今度は他のワイバーン達が、アルクめがけて飛び掛かってきていた。

その前足や翼を振り上げ、アルクに向かって叩きつけようとしている。



「だめだ、ここにいたら潰される……!」



アルクは咄嗟の判断で、自分が乗っていたワイバーンの背から飛び降りた。

そして近くにいた別のドラゴンの背中へとうまい具合にしがみつく。



すると次の瞬間、物凄い咆哮がアルクの耳をつんざいた。




ギャアアアアァァァァ!!!!!!




驚いて振り返ると、アルクがさっきまで乗っていたワイバーンが苦痛の叫びを上げている。

アルクに向けられていた別のワイバーン達の攻撃が、運よくその背に命中したのだ。



「よ、よく分からないけど、何とか一体は倒せたみたい……」



地上に向かって落下するワイバーンを見送りながらアルクはほっとする。

しかしそれも束の間、今後は自らが乗っているドラゴンが、アルクを振り落とそうと暴れ出した。



再び意識を集中し、アルクはドラゴンの背に剣を突き立てる。



ドラゴンの背は、ワイバーンのそれとは比べ物にならないほど、柔らかかった。



ギャアアアアァァァァァ!!!!



何度目かという咆哮がアルクの耳を貫く。

そしてドラゴンはそのまま、アルクもろとも地面に落下し始めた。



「アルク君!!!」



その時、ジーナがコクヨウと共に近づいて来る。


アルクは落下するドラゴンから手を離し、空中で差し出されたジーナの手を握りしめた。



ドサリとコクヨウの背に倒れ込むと、アルクは安堵のため息をつく。



「ああ、死ぬかと思った………」




残るワイバーンとドラゴンは、地上の敵を片付けたジーナが魔法攻撃で仕留めた。


やっと魔物の襲撃が落ち着き、二人はコクヨウの上で息をつく。



「ありがとう、ジーナさん。ごめんね、結局僕は、あまり役には……」



ジーナはしばらく答えない。

その時コクヨウの上で、アルクはジーナの後ろに跨っていた。いつもとは逆なので、アルクからジーナの表情は見えない。



「ジーナさん、どうし……もしかして、怪我でもした?」



不安げに尋ねるアルクに、ジーナは首を振る。

ただ静かに、後ろを振り返らずに言った。



「いや。怪我はないよ。だけどアルク君、もうあんな無茶はしないでね。……君に何かあったら、私がここに来た意味がなくなってしまう」




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