22.離別
俺は魔物の群れに向かいながら、猫耳忍者に変身した。
そして突進して来る魔物の群れに向かって、広範囲の火炎魔法を発射する。
グオオオオオオアアアァァァァ!!!!
先頭の集団は断末魔の叫びを上げ、一瞬で消し炭になる。
しかしそれでも次から次へと、雑多な魔物が押し寄せてくる。
ゴブリンやコボルト、オーク、トロール、ヘルハウンドにホーンラビット、グリズリー……統一感のない雑多な魔物達の群れだ。
それは俺が以前に体験した光景に酷似していた。
これでは本当にまるで、魔王復活前の魔物群の侵攻ではないか。
だが、魔物群の侵攻は本来、魔王復活に触発された魔物達が、本能的に人間の領地へ襲来するというものだ。
今回のように森のど真ん中で、それも俺とロッセルだけに向かって大量の魔物が侵攻してくるなど、何者かが操っているとしか思えない。
そう考えながらも俺は休みなく魔法を発動する。
火炎魔法を掻い潜ったいくつかの魔物は、すかさず猫パンチや猫キック(今は人間の手足だが)で仕留めた。
さすがに俺一人だけで、この侵攻を完全に食い止めるのは無理がありそうだ。
その時、ロッセルは兵士達に向かって剣を構えていた。
魔物がすぐ近くに迫っているというのに無情報を崩さない兵士達は、一心にロッセルに向かって襲い掛かって来る。
しかし、従魔契約がある上に俺との特訓で鍛えたロッセルの動きは凄まじかった。
剣で数人の攻撃を受け止め、すかさず身を屈めて別方向からの剣戟をかわし、そのまま兵士達の足元を切りつける。
「ぐああぁぁっ!!」
痛みに喘いだ兵士達はその場に崩れ落ちる。
続けてロッセルに襲い掛かった数人も、呆気なく一撃を浴びて地面に倒れ込んだ。
残った兵士達に立ち向かいながら、ロッセルは考えを巡らせる。
「どうして急に居場所が知られたのだ。魔族には、我々の居場所を探る術でもあるのだろうか。
……いや、そうでなくとも、こいつらはおそらく魔力探知の魔道具を使ったのだ。それで私達の居場所を探ったのか。……何てことだ、今まで忘れていたとは……」
『おい、あとどのくらいかかりそうだ!』
その時、俺がロッセルに念話を飛ばした。
あまりに魔物の数が多く、これ以上食い止めておくことが難しくなってきたからだ。
『ああ、すまん!待ってくれ、もう少しだ!』
ロッセルはすかさず残りの兵士達に斬りかかり、倒れた者達にまとめてバリアを施した。
しばらくは効果が持続することを祈りながら、ロッセルは急いで俺の方へと走り出す。
『すまないしょこら、待たせた!私も加勢する………………って、お、お前は…………』
『おい、どうした』
ロッセルはしかし、返事をしない。
その時ロッセルの目には、あの憎き従兄弟の一人、デルバートの顔が映り込んでいた。
茂みの奥から姿を現し、行く先を遮るように立ちはだかったそいつは、余裕の笑みで剣を抜きロッセルに向かって突き付けている。
「無駄な抵抗はやめるんだな。さあ、お前は我々と共に来るのだ」
相変わらずその顔には、嫌味な笑みがねっとりと貼り付いている。
「断る!私はしょこらと共に戦うのだ。お前達の命令などは聞かない!」
ロッセルの必死の叫びを聞いて、デルバートは意地悪い高笑いを響かせた。
「抵抗して何になるのだ。今やお前達は国中で指名手配されている。いずれ捕まる運命なのだ、大人しく従った方が刑が軽くなるかもしれないぞ。無論、あの猫は死刑は免れんがな」
「ふざけるな!罪を犯しているのは、お前達のほうだ!!魔族に洗脳されて、しょこらを陥れようと………」
その時、ロッセルの背後に、もう一人の人影が忍び寄る。
魔物に対峙する俺の耳に飛び込んで来たのは、ロッセルの苦痛の叫び声だった。
俺がさっと振り返ると、そこには胸糞の悪い光景が広がっていた。
ロッセルは後方から剣で斬りつけられ、血を流し地面に倒れている。その背後では、ギルバートが血の滴る剣を携えてほくそ笑んでいた。
正面からロッセルを見下ろすデルバートの顔にも、醜悪な笑みが広がっている。
ロッセルのところへ駆け出そうとした俺は、しかし、背後から魔物の咆哮を浴びる。
振り返ると、すぐ近くまで迫っていた複数のトロールが思いっきり棍棒を振り上げていた。
ダアアアアァァァァン!!!!!!
俺は猫キック一撃で、数体のトロールを一気に地面に叩きつける。
「くそっ、邪魔するんじゃねえ、この愚物が!!」
怒りに任せて悪態をつき、俺は再び走り出そうとする。
しかし魔物の侵攻は後を絶たず、次から次へと森の奥から湧き出していた。
やむなく火炎魔法で応酬を続けながら、俺はロッセルに念話を飛ばす。
『おい、治癒魔法で自分を回復させろ!練習したからできるだろ!』
しかしロッセルからは返事がない。
俺は魔物と戦いながら、ちらりと後方を振り返る。
そこにはロッセルの姿は既になく、デルバートとギルバートの姿も消えていた。




