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ムーン・ライト 双浄の退魔師  作者: 武池 柾斗
第4章 日常、そして満月の夜
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4-9 決戦

 満月に青く照らされながら、悪霊がのっそりと立ち上がる。


 悪霊は力を入れ、体を拘束していた霊力鞭を内側から破壊した。ちぎれた鞭は青い光の粒子になり、霧散してしまう。


「チッ、簡単に破りやがって」


 早馬は悪態をつきながらも、右手を開いて相手に狙いを定める。

 伸ばした右手で攻撃するか、垂らした左手で防御するか。それは悪霊の行動しだいで決まる。


 悪霊はその場で周囲を見渡し、四人は動かずに悪霊を注視する。


(さあ、誰を狙う? 俺たちか? それとも、他の人間か?)


 早馬が生唾を呑み込む。

 その直後、悪霊が動き出した。


 悪霊は鈴に向かって猛進する。これまでよりも遥かに速いスピードで迫り、彼女に向けて右手を振り下ろした。


 鈴は即座に反応した。


 彼女は上方に向けて鞘から刀身を引き抜き、敵の手首を狙う。豪速の刃と剛腕の拳が激突し、黒い霊力と赤い霊力が火花のように散る。


 鈴は刀を振り抜き、悪霊の右手を弾き上げた。

 しかし、敵の攻撃があまりにも重すぎた。彼女はバランスを大きく崩してしまう。


 その隙を突くかのように、悪霊は左手で鈴を薙ぎ払いにかかる。たった一撃、されど一撃。ただのフックでも、相手は満月時の悪霊だ。食らえばそこで戦闘不能になる。


「させない!」


 聖菜がすぐさま駆けつけ、悪霊の背後に接近した。


 彼女は悪霊の左わき腹を蛇矛の柄で殴りつける。そのまま振り切って相手の体を飛ばし、鈴から引き離した。


 悪霊は空中ですぐに体を止め、自身の制御権を取り戻す。


 直後、突如として現れた結界が、その黒い体を閉じ込めた。青く半透明な霊力防壁が六枚、立方体を成して悪霊をとり囲む。


 そして、悪霊の前方から巨大な霊力弾が撃ち込まれた。


 青い光球は結界の一面を打ち砕き、止まることなく悪霊に直撃する。それと同時に砕け散った霊壁が再生され、再び悪霊を周囲から隔絶した。


 密閉された空間で、大爆発が起こる。


 青い光が眩いほどに弾け、激しい衝撃が反響して何度も何度も悪霊に押し寄せる。それに合わせて結界が内部から膨張して割れそうになるが、砕ける寸前で耐えていた。


 爆発が収まり、結界の動きが止まる。

 四人は走り、悪霊を囲む。全員構えて、立方体形の結界を睨みつける。


 結界の中は削り取った霊力と穢れによって黒色に染まっていて、悪霊の姿が確認できない。早馬と良也の連携により、悪霊に大ダメージを与えられたようだ。


 だが、この程度で満月時の悪霊が倒れるわけがなかった。


 結界が膨らみ、破裂する。霊壁の破片とともに黒い霧が八方に噴き出しては消えていく。瘴気が薄くなり、悪霊の姿が露わになった。


 人型の黒い影は地に足をつけ、赤い二つの目で四人を見渡す。

 何も変わっていないその姿に、早馬は苦笑した。


「バッチリ決まったのになぁ。まるで効いてねぇ」


 彼はそう言って悔しがりながらも、不敵な笑みを浮かべた。


「悪霊、お前の狙いは俺たちなんだろう? 賢い選択だぜ? 俺たち四人を食えば、大量の霊力が手に入るし、邪魔者が居なくなるから人間も幽霊も食べ放題だ」


 早馬は手招きをし、悪霊を挑発する。


 相手に思考能力があるかどうかはわからない。意識など無く、強すぎる捕食欲求だけで動いているのかもしれない。それでも、アレの元は人間の魂だ。言葉を理解する可能性はゼロではない。


 挑発に乗ったのかどうかは定かではない。

 だが、悪霊の視線が早馬に向いた。


「ま、そうさせる気は無いけどな!」


 早馬はそう宣言して、白い光球を放った。


 発射直後、悪霊はそれを受けようとしていた。だが、次の瞬間には、悪霊は大きく横に飛んで浄化の光から逃げた。


 悪霊は浄化弾を何度も受け、そのたびに苦しんだ。それを覚えているのだろう。


 大袈裟な回避行動により、悪霊に隙が出来た。

 早馬が叫ぶ。


「今から霊力の核を見つける! みんな頼む!」

「了解!」


 彼の言葉が終わった直後、鈴が突撃した。


 彼女は悪霊に肉迫して抜刀し、その胴体に浅いながらも長い傷をつけた。斬りつけた後はすぐに後方に跳んで距離をとる。


 悪霊の注意が鈴に向く。


 この黒影が動き出す前に、良也が霊力弾を放った。その砲弾は悪霊の背中に直撃し、大爆発を起こす。


 悪霊が衝撃で怯む。


 そこに聖菜が突進し、悪霊の左わき腹に蛇矛を突き立てた。穂の半分程度まで刃が潜り込む。聖菜は深追いせず、即座に蛇矛を抜いて飛び退いた。


 この戦闘の間に、早馬は悪霊の体内を透視していた。

 彼の横に、退避直後の聖菜が降り立つ。


「どう? 霊力核の場所、わかった?」


 聖菜は意気揚々と問う。

 しかし、早馬から返ってきたのは乾いた笑い声だった。


「はは……んなもんねえよ……」


 その言葉と同時に、悪霊が早馬に向かって突撃してきた。


 聖菜は咄嗟に彼の前に立った。悪霊が両手を振り下ろし、聖菜はそれを蛇矛の柄で防ぐ。


 悪霊の腕は止まらず、武器をへし折ろうと圧をかける。

 聖菜は押されながらも踏ん張り、後ろの早馬に向けて声を絞り上げた。


「それ、どういうこと!?」


「全身に霊力と穢れが詰まりに詰まってるんだ! 言ってみれば、あいつの全部が霊力核だ! 一部を破壊したところで意味がない!」


 早馬は声を張り上げて応え、前方に浄化弾を放つ。


 その白い光の玉は聖菜の脇腹をかすめ、悪霊の胴体に直撃した。白い光が閃き、浄化の力が黒い体に張り付いていく。


 悪霊は聖菜から飛び退き、狂乱したかのように全身の白い火の粉を振り払う。浄化の霊力が薄くなってもなお、悪霊は自らの体をはたき続けた。


 聖菜はその場で蛇矛を構え直し、口元を大きく上げる。


「じゃあ、霊力を削りまくればいいってことだね!」


 彼女は大袈裟に声を弾ませた。


 そうすることで、彼女自身の闘志だけでなく、仲間三人の士気をも上げる。圧倒的な存在を前にしても怯まない、そんな聖菜の存在が退魔師たちを支えていた。


 浄化の光が消え去ると、悪霊は道路の中央で静かに佇んだ。

 四人は標的を取り囲み、次の戦闘に備える。


 そこから、絶え間ない攻撃に移ろうとした。


 しかし突然、悪霊の体から赤い光が放たれた。その光は満月に向かって伸び上がり、しだいに細くなって消える。それと同時に、悪霊の体が一回り大きく膨張した。





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