3-6 退魔村の組織力
無数の白い光粒が周囲に飛散し、雪のように舞う。
四人は大悪霊の居た場所に体を向ける。男は両手を突き出し、女は武器を構えてその地点を注視する。
完全に浄化されたことを悟ると、四人は一斉に息を吐いて力を抜いた。
「ふぅ、早めに片付いたな」
早馬は安堵して呟く。
彼は他の戦闘地点に霊力感知をおこない、状況を確認する。
「大人四人のほうは……もうとっくに終わってるな。総二郎さんと菫さんのほうも……俺らとほぼ同時に浄化したか。本当に二人だけでやるとか、すげぇな」
早馬は誇らしげに口元を上げ、仲間たちに声をかける。
「聖菜、良也、鈴。さっさと大人たちに合流して、浄化できたって自慢しに行こうぜ」
彼はおどけたように言う。
そんな彼に、他の三人も調子を合わせた。
「さんせーい」
「僕たち、期待以上だよね」
「黒の隊服、貰えちゃったりして」
四人は冗談交じりに笑い合う。
強敵を無事に倒せたことで、和やかな空気がこの場に生まれていた。
しかし、それを突き崩すような悪寒が、早馬の背中を駆け上がった。
「っ! 悪霊!? どこだ!?」
早馬は一瞬で精神を切り替え、周囲を見渡す。
半月が浮かぶ夜空、自分たちを取り囲む木々。目に見える範囲に危機は確認できない。
早馬は目を閉じ、悪霊の感知に集中した。
他の三人も、早馬の様子を見て臨戦態勢に移った。目には見えず、気配を感じ取ることができなくても、三人は早馬を信頼して危機に備える。
数秒経って、早馬が目を見開いた。
「あっちの方角だ! 俺たちが一番近い! 四人ならやれる!」
彼は半月の方向を指差し、走り出した。
聖菜、良也、鈴は彼の後ろをついていく。
「大悪霊が三体も居たら、一体くらいは寄ってくるもんなんだね!」
「雑霊も来てるかもしれないよ!」
「こういうところが任務レベル4の理由なのかしら!」
三人はそう言って、自分たちの甘さを自覚した。標的が片付いたといっても、任務はそこで終わりではないのだ。
やがて、四人の目が悪霊を捉えた。
人の形をした黒い影が、扇形の月を背にして浮かんでいる。頭部に光る二つの赤い目が、異様に禍々しく感じられた。
聖菜が蛇矛を構えて最前に出る。その後ろで鈴が抜刀前の姿勢をとり、そのまた後方で早馬と良也が両手を突き出して悪霊に狙いを定める。
戦闘態勢は整った。
だが、四人全員の顔には疲労の色が浮かんでいた。
万全の状態であれば、四人でかかればすぐに浄化できるだろう。しかし、今は大悪霊との激闘を終えた直後。相手が普通の悪霊であっても、無事に浄化できるかどうかわからない。
悪霊が四人向かって降下を始める。
早馬が指示を出すために口を開こうとした。
その時、四人の頭と耳に、異なる二つの声がそれぞれ届いた。
『ムリすんなって』
「ウチらにおまかせっ!」
聞いたことのある、軽い調子の男と女の声だった。
それと同時に、細長い何かが、うねりながら悪霊の体を側面から貫いていった。
四人は呆気にとられながらも、目を凝らして細長い何かを見る。
悪霊を攻撃したのは、分銅のついた鎖だった。その長い鎖は月明りを受けて銀色に輝き、重力から解き放たれたかのように空中で軽快に波打っていた。
鎖が伸びてきた方向に目を向けると、空中に浮かぶ一人の女退魔師の姿があった。その手には鎖鎌が握られていて、彼女の金色の髪が月夜によく映えていた。
分銅で体を貫かれ、悪霊の動きが止まった。
空中の女退魔師、月田桜子は鎖鎌を赤い光に戻して体内に吸収し、即座にもう一度その手に鎖鎌を生成した。
その直後、森の中から三つの青い光球が打ち上がった。
三つの光弾はそれぞれ軌道を変えながら悪霊に向かい、三方向から標的に同時着弾し、大きな爆発を起こした。
その衝撃で悪霊は完全に体の自由を失った。
桜子は空中で分銅を回し、悪霊に向けてそれを放った。
彼女は武器を巧みに操って鎖を悪霊に巻きつかせる。そこから彼女は鎖を引っ張り、自身のもとに悪霊を引き寄せた。そして、左手に持った小さな鎌で悪霊を切り刻んだ。
容赦の無い連撃により、悪霊から大量の黒い霧が噴き出す。鎖の中で悪霊の姿が揺らいだ。
桜子は眼下の森に向かって声を張る。
「薫っち! 任せたよ!」
彼女は鎖を回して上に伸ばし、悪霊を夜空に放り投げた。
人型の黒い影が、半月に照らされながら宙を舞う。その無防備な悪霊に向かって、森の中から一発の白い光球が打ち上がった。それは真っすぐに悪霊の胴体を捉える。その直後、悪霊は白い光に包まれ、弾けて消えた。
白い光の粒子が、粉雪のように漂う。
桜子と薫による浄化の一部始終を見て、早馬と聖菜は唖然とした。
「霊力弾を同時に動かした……しかも三つも……」
「悪霊を貫通するって……あの鎖、あたしの刃蛇深突くらいの威力あるじゃん……」
二人は夜空を見上げながら、立ち尽くしてしまう。
そうしている間に、桜子は降下を始め、薫は木々の間から小走りで姿を現した。
「よっ、クソガキども! 怪我してなぁい? 大丈夫ぅ?」
「てか浄化すんの早くね? ヤバくね? 相手は大悪霊っしょ?」
二人は余裕の表情を見せながら高校生四人の前で足を止めた。
早馬はそこで我に返り、苦笑いをする。
「かなり無理しましたからね。正直なところ、あんたらギャル二人が来てくれなかったら危なかったですよ」
彼がそう言うと、桜子と薫は口元を上げて歯を白く輝かせた。
「まっ、ウチらバックアップだし? こーゆー時のためにいるんじゃん?」
「これが退魔村の組織力ってヤツっしょ」
こう返す二人の様子は、へらへらといった言葉が当てはまる。だが、それに対して高校生の四人は不快感を抱くことはなく、むしろこのギャルペアを頼もしいと感じた。
それから少し経って、彼ら彼女らの頭の中に総二郎の声が届いた。
『よくやった。全員無事だな。周囲に悪霊や雑霊が居ないかよく確認した後、車の所に戻ってくるように。以上』
隊長からの指示は短く、その声は温かなものだった。
早馬は顔から力を抜き、仲間たちを見渡す。
「それじゃあ、最後の仕上げをやって、帰りますか」
彼の言葉に、聖菜、良也、鈴、薫、桜子の五人は穏やかな顔で頷いた。




