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ムーン・ライト 双浄の退魔師  作者: 武池 柾斗
第3章 退魔村
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3-5 クソガキたちの成長

 先に聖菜と鈴が廃村の中心部を抜ける。


 そこから先の開けた場所で、大悪霊が動かなくなっていた。だが、退魔師の接近を感じるや否や、その黒い大球は触手を生やして体勢を整え始めた。


 聖菜と鈴は高速で走りながら霊力で武器を生成する。

 そして、二人は止まることなく大悪霊に攻撃を仕掛けた。


 敵の赤い目がこちらに向くのと同時に、聖菜が球体の中心部に蛇矛を突き刺す。その横で、鈴が抜刀しながら大悪霊の側面を斬り裂いていった。


 斬り口から少量の黒い霧が噴き出す。

 どちらも刃の侵入は浅かったようだ。


 聖菜は蛇矛の穂先を大悪霊から引き抜き、鈴は刀を鞘に納め、二人同時に後ろに跳んで相手と距離をとった。


 そこに、走ってきた早馬が到着する。


「攻撃は!? 通ったか!?」


 早馬は息を切らすことなく二人の背中に問いを投げかけた。


 聖菜と鈴は彼に背を向けたまま、標的を注視しながら答える。


「あんまり。さっきの蹴りでそこそこ弱ってるみたいだけど」


「表面は斬れるかな。奥のほうはちょっと硬いかも」


 二人はそう言って武器を構え直す。


 大悪霊が触手を持ち上げ、今まさに攻撃をしようとしていた。


 そこに、三人の後ろから大きな光球が飛来した。その青い砲弾は少女たちの頭上を通り過ぎ、大悪霊に直撃して大きな爆発を起こす。


 球状霊の体が後ろに傾き、触手が支えを失ったかのように垂れ下がる。


「はぁ、はぁ。怯ませるくらいなら、できるみたい、だねっ」


 良也が走ってくる。彼は三人に遅れて合流すると、膝に両手をつけて荒い息を上げた。


 早馬は良也を一瞥し、口元を上げる。


「霊力の核を狙うのは難しいか……だったら、浅いところの霊点を狙うぞ!」


「おっけー。でも時間かかりそうだね」


 聖菜は息を大きく吐いて、自身の緊張を軽減させる。

 早馬は大悪霊を見ながら、考えを巡らせた。


「霊点……霊力が集中してる部分は、俺がなんとかして光らせる。成功したら、聖菜はそこを突いて破壊。鈴は触手を斬って聖菜を守る。良也は遠距離から俺たちを援護してくれ。……失敗したら、大人の助けが来るまで持ち堪えよう」


 彼は落ち着いた様子で指示を出す。

 三人は快く頷いた。


「了解!」

「うん、わかった!」

「やってみましょう!」


 聖菜はその場で蛇矛を両手に構え、彼女の隣で鈴が刀の柄に右手を添える。良也は走り出し、大悪霊から離れていく。


 早馬は大きく息を吐き、両手を突き出した。


「さあ、やってやろうぜ!」


 彼は腹から声を出し、全身に霊力を巡らせた。


 霊力が宿った眼で、早馬は大悪霊を凝視する。球形の大きな黒い塊の、その体表から数センチ沈んだところに、漆黒の点が見えた。穢れと霊力の集まった部分が全部で十か所ある。


 早馬はその塊に向けて微弱な霊力を飛ばす。


 彼の手から薄っすらとした青い光が放たれ、相手の体に浸透していく。早馬の霊力はそのまま霊点に向かい、その一か所に集まる。


 標的の体内に侵入した彼の霊力は、外からは見えない。早馬以外の三人は、緊張した面持ちで戦闘に備えることしかできなかった。


 それでも早馬は歯を食いしばり、自らの霊力が光るイメージを思い浮かべた。


 数秒間は何も起こらなかった。

 だが、突如として小さな青い光が灯った。


 黒い塊でしかなかった大悪霊の体に、一か所だけ清らかな光を放つ部分が生まれる。体表の黒い霊力で多少ぼやけてしまうものの、早馬以外の三人も霊点をはっきりと見ることができた。


 この状態を自分で作り出しておきながら、早馬は驚いた。


「で、できた……? はっ!? いけ! 聖菜!」


 彼はすぐに頭を切り替えて指示を飛ばす。

 聖菜は腰を低くし、口元を上げる。


「やるじゃん早馬!」


 彼女はパートナーを褒め、大悪霊に向けて突撃した。

 それに一拍遅れて、鈴も駆け出した。


 大悪霊は危険を察知し、二人に向けて触手を二本伸ばす。


 一本ずつ触手を差し向ければ、この二人は防御をするだろう。防御をすれば、その分、突撃速度が緩まる。その隙に新たな触手で猛攻撃に出れば、退魔師は標的に近づくことすらできなくなるはずだ。


 しかし、聖菜は危険を顧みず、蛇矛の切っ先を突き出したまま走った。


 その横で、鈴が前に出た。自らに向かってくる触手を、彼女は鞘から刀を抜きながら斬り捨てる。そこから間髪入れずに右足で地面を蹴り、聖菜に向かう黒い伸手を抜き身の刀で叩き斬った。


 悪霊の攻撃が止まり、切り離された先端が宙に溶けていく。


 聖菜は止まることなく大悪霊に接近し、青く光る点に蛇矛を突き刺した。


 波打つ刃が霊力の結集点を貫き、破壊する。それとともに青い光が弾け、刺し口から膨大な量の黒い霧が噴き出した。


 聖菜はすぐに蛇矛を引き抜き、大悪霊の体を両足で蹴って後ろに跳ぶ。鈴も刀を納め、敵に体を向けたまま後ろに退いた。


 二人は横に並び、大悪霊を注視する。


 相手の姿はわずかに揺らぎ、いまだに黒い霧を噴き出し続けている。斬られた触手は空中で灰のように崩れながら消えていく。だが、浄化対象の霊力は八割以上残っている。


 大悪霊は赤い目で聖菜と鈴の姿を捉え、二人に向けて新たな触手を伸ばした。


 その刹那、悪霊の側面から霊力弾が飛来し、大爆発を起こした。黒い巨体は傾き、生え始めていた触手はあっけなく霧散していく。


 良也の狙撃が成功したようだ。

 四人は大悪霊に意識を向けながらも、笑みを浮かべる。


「うまくいったぜ」

「この前の虎より楽だね」


「当てやすくて助かるよ」

「図体が大きいだけのノロマよね」


 退魔師たちはそう言ったものの、決して油断はしなかった。


 早馬はすぐに霊力を放ち、大悪霊の別の霊点を光らせた。


「このまま一つずつ潰していくぞ!」


 早馬の号令を皮切りに、四人は再び攻撃を仕掛けた。


 鈴が聖菜を守り、聖菜が霊点を貫いて破壊し、怯んだところに良也が霊力弾を浴びせ、大悪霊の穢れと霊力を着実に削っていく。


 早馬に触手が伸びてくることもあったが、彼は自分で結界を張って防いだ。


 そうして戦闘を続け、九個の霊点を破壊した。大悪霊の体からは常に黒い霧が噴き出し、その姿が微かに揺らいでいる。


 早馬が大悪霊に霊力を送る。二つの赤い目の間が青く光る。次の霊点はそこだ。


「十個目! 浅いところはこれで最後だ!」

「おっけーい! 確実に潰す、よ!」


 聖菜は蛇矛を突き出し、駆ける。


 大悪霊は最後の抵抗と言わんばかりに数多の触手を繰り出してきた。


「させるか!」

「させない!」


 早馬は聖菜の両側面に霊力防壁を張り、鈴は聖菜の前に出る。聖菜は二人を信じて防御を捨てる。


 触手がバリアに激突する。結界は砕け散るが、触手も弾かれて崩れていく。鈴は抜刀して触手を次々と斬り止める。


 目の前に脅威が無くなった瞬間、聖菜は速度を上げて突き進んだ。


「もらったあああああああああ!」


 聖菜は跳び上がり、蛇矛を突き出した。


 大悪霊の赤い目の間。そこに波打つ切っ先が侵入し、急所にかみつく。その直後、青い光が弾けた。


 霊点を破壊して間もなく、聖菜は蛇矛を引き抜いて後ろに大きく跳ぶ。


 彼女の体が宙を舞うのと同時に、赤目の間から黒い霧が大量に噴出した。輪郭の揺らぎも大きくなる。しかし、まだ浄化できるほどには弱っていない。


 聖菜は着地すると、すぐに構えた。両手に蛇矛を握り、腰を低く保ち、霊力を溜め始める。彼女の体が赤く光った。


 鈴も聖菜の隣で納刀し、攻撃の時を待つ。

 怯んだ大悪霊を見ながら、早馬が叫んだ。


「良也! 真ん中をぶっ飛ばせ!」

「了解!」


 良也は木々の間から姿を現し、聖菜たちの前に駆けつける。彼は大悪霊の正面に立ち、両手を標的に向けて突き出した。


「はっ!!」


 良也は巨大な霊力弾を放つ。


 直径一メートルにも及ぶその光弾は狙いを逸れることなく進み、大悪霊に直撃した。


 青い光が激烈に爆ぜる。周囲に衝撃波がばらまかれ、木々が激しく揺れる。悪霊の霊力が大幅に削られ、剥がれた瘴気は砂嵐のように飛び散り消えていく。


 早馬が大悪霊に目を向けると、球体部の黒色が透けるほどに薄くなっていた。


「鈴! 追撃だ!」

「そうこうないと、ね!」


 鈴は柄と鞘を握り締め、駆け出した。


 鯉口を切り、大悪霊に突撃する。彼女は最高速で標的に接近し、球体部に向けて刀を引き抜いた。


「せい! はぁっ!」


 彼女の刃は目にも留まらぬ速さで繰り出され、大悪霊の中心部を斜め下から深く斬り裂く。


 鈴はそこで両足で踏ん張って自らの突進を急停止させ、斬撃の勢いのまま体を右に回転。そして振り向きざまに、斜め上から刀を振り切った。


 バツ字の斬り口が悪霊の球体部に刻まれ、そこから大量の霊力と穢れが噴き出す。


 その直後、鈴が横に跳び、早馬が叫んだ。


「聖菜!」


 彼の呼びかけに応えるかのように、聖菜は足を踏み締め、蛇矛を強く握る。


「刃蛇深突!」


 聖菜は体内に溜めた霊力を爆発させ、豪速で突進した。


 蛇矛の穂先が斬り傷の交差点に突き刺さる。大悪霊と接触しても、聖菜の勢いは止まらない。刃は易々と霊体内に潜り込み、柄の半分ほどまで突き通る。


 悪霊の姿がそこで揺らいだ。


「まだまだあああああああああああ!」


 聖菜は地面を蹴りつけ、さらに突撃を強める。


 大悪霊の力が弱まり、その体がもろくなる。聖菜の突進は留まるところを知らず、ついに彼女は標的の球体部を突き破った。


 大悪霊の中心部に大穴が空く。聖菜はその空洞部を突き抜けていった。


 力の大部分を失い、悪霊の姿が大きく揺らいだ。

 早馬は両手を前に突き出し、狙いを定める。


「死してなおこの世をさまよう霊魂よ、あるべきところに還れ……浄化!」


 早馬は渾身の力を込めて、浄化の霊力を放った。


 彼の手から放たれた大きな白光弾は、迷うことなく直進し、標的に直撃。大悪霊は白い光に包まれ、弾けるようにして消えていった。





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