2-10 新たな一日
翌日、朝。
早馬と聖菜は昨日と同じような時間を送り、同じ時刻にアパートを出て、待ち合わせ場所の赤い大橋へと歩いていく。
川沿いに出ると、目的地の緩いアーチ状の橋が見えた。そのまま河川敷を歩くと、橋の入口の欄干付近に良也と鈴の姿が確認できた。
二人の姿を見るや否や、聖菜は大きく右手を振る。
「リン! リョウ! おはよー!」
聖菜は爽やかな大声を上げる。
その横で、早馬は右手を軽く挙げて挨拶の代わりをする。良也と鈴も、早馬と同じように小さく手を挙げて応えた。
聖菜は早足で歩き、短い坂道を上って二人のもとに寄る。そんな彼女に少し遅れて、早馬は鈍足のまま合流した。
四人は道路を横断し、坂を下って銅鏡川の横を歩く。
昨日と同じく、川に近いほうから良也、鈴、聖菜、早馬の順で並んでいる。四人が歩く道路は車通りが少なく、こうして並んでいても迷惑にはならない。
ただ、朝の通勤通学の時間帯であるため、街中からは様々な音が聞こえてくる。四人は都会の騒がしさにまだ慣れていないのか、少し居心地が悪そうに耳をヒクヒクさせている。
そんななか、鈴が微笑みながら口を開いた。
「昨日は大変だったのに、セーナは元気ね」
彼女の言葉で、早馬と良也は聖菜に目を向ける。
鈴の言う通り、他の三人に比べると彼女の足取りは軽やかだ。
聖菜は自分の腰に両手を当て、ふんぞり返る。
「たくさん食べてたくさん寝たから全回復っ!」
「まっ、わたしも似たようなものだけどね」
聖菜に張り合うかのように、鈴は両腕に力こぶを作ってみせる。
昨夜の激闘が嘘だったかのように、彼女たちは明るく振舞う。二人には疲労の色が一切見えない。鈴の頬にあった切り傷も、今は跡形もなく完治している。
そんな二人の様子を見て、早馬と良也は苦笑いをする。
「女子どもは元気だな」
「あの回復力が羨ましいよ……」
男子二人はそう言って、疲れたように揃ってため息をついた。
そこから数歩進んだところで、早馬は何かを思い出したかのように顔を上げる。そして。彼は何気ない顔で聖菜に目を向けた。
「聖菜、課題やったか?」
彼の声は平坦だった。
だが、その問いかけで聖菜は目を見開いた。
「ヤッバ! やってない!」
「はは、だから元気なんだな」
聖菜は両手で頭を抱え、早馬は彼女を小馬鹿にするように笑う。
慌てる聖菜は鈴の左腕にすがった。
「リ、リンもやってないよね!? 課題!」
「え? わたしはちゃんとやっているけど?」
鈴はきょとんとした顔で聖菜の目を見る。
聖菜は顎が落ちそうな勢いで驚愕した。
「はぁ!? りょ、リョウは!? 早馬は!?」
「僕もやっているよ」
「やってるに決まってんだろ」
二人は含みのある笑みで聖菜に告げる。
皆の言葉を受け、聖菜は思わず背中を反らして天を仰ぎ見てしまう。
「あだじだげやっでない~!」
聖菜は声を濁らせて嘆く。
その叫びが天に届いた直後、彼女は頭から両手を離して背筋をまっすぐに伸ばした。
「早馬、ノート見せて」
聖菜はとてつもなく真面目な顔で早馬を見据える。
早馬は猛烈な勢いで顔を逸らした。
「いやだ。おとなしく先公に怒られろ」
「それはヤダ! これ以上、目をつけられたくない! うう~こうなったら……っ!」
聖菜は背中のリュックサックを自らの前面に回し、その中から数学の問題集を取り出した。
「ぐぬぬ……今解いて、学校に着いたらすぐノートに書く。それで全教科間に合わせる!」
聖菜はそう言って問題集を開き、顔を歪めながら本を睨む。
そんな彼女を見て、他の三人は笑った。
「おうおう、勉強熱心なことで」
「せっちゃん、足元、気をつけてね」
「セーナが車道に出ないように、犬用のハーネスでも買おうかしら」
早馬、良也、鈴の言葉に、聖菜は憤怒する。
「ああ! もう! 黙ってて!」
聖菜は声を荒げ、他の三人はまた笑った。
そうやって、四人の退魔師たちは賑やかに学校へと向かっていく。こうして、彼ら彼女らの高校生としての一日がまた新たに始まるのだった。
第2章はこれで終わりです。




