思い出の場所
ニットに手袋、マフラー装着としっかりと冬装備を整え、外に出た。幸い風は穏やかである。
しかしこの重装備でも寒く感じてしまう……。こんなに地元って寒かったけかな? どうやらせつなの言葉ではないが、都会にいる間に本当に鈍ってしまったのかも知れない。
「太陽先輩、あの二人が行きそうな場所に心当たりはないのですか?」
白い息を上げながら、心配そうなお顔を向けられているのだが、あの野生児の活動範囲はかなり広い為、俺も把握出来ていないのが現状だ。
神出鬼没の代名詞みたいなやつだからなぁ。どこからでも沸いてきやがるイメージがある。そんな奴の足取りを掴むなんて雲を掴むような話だが……いや、待てよ? もしかしたら。
「せつなの実家って神社なんですが、その敷地の端に昔、俺達が秘密基地にしている場所があるんですよ。ただのプレハブなんですけども、もしかしたらそこに行ったのかも……」
「秘密基地ですか……。ノスタルジックさをくすぐる場所ですね。ですが、犬猿の仲とも言える二人がわざわざそのような場所に行くでしょうか?」
「……秘密基地、結構広いんですよ。俺もよく一方的なプロレスごっこの刑に処されていましたから対決するにはうってつけの場所かと……」
「リングでもあるのですか? おかしな秘密基地ですね。完全に隠れ家概念が壊れていますね」
「流石にリングはないですけどね。でも中学生三人がはっちゃけれる程の広さはあるんですよ」
しかし他に探すアテが無い以上、そこから探してみるしかない。頼むから仲良くしててくれよぉ……。嫌だぞ? 思い出の場所が血みどろになってるなんて……。笑えないからな?
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みゆちゃんが転倒しないよう手を取りながら雪をかき分け進み、懐かしの神社に着いた。社務所に明かりは灯っているが、人影は無い。
ただ……足跡があった。二人分の。大きい物と小さい物。
居る! あいつらここに居るぞ!?
その足跡は社務所を抜け、神社の隅にあるプレハブへと延びていた。どうやら一発ビンゴのようだ。
「みゆちゃん、裏手に回って様子を伺いましょう。そこに窓がありますので中の様子が伺えます」
声を潜め、二人でゆっくりと秘密基地に近づいた。
にしてもおかしい。静か過ぎる。奇声のひとつも聞こえてこない。俺はいつも泣きながら咆哮してたんだがな……。
しかしあれ程仲の悪い二人が静かに一緒の空間に居るなんて……うん?
「どうしました? 太陽先輩?」
「……もしかして、俺はとんでもない勘違いをしていたのかも知れません。せつなの性格を読み違えていたかも……」
俺の的を射ない言葉に首を傾げるみゆちゃん。その動作だけでご飯三杯はいけそう。流石は開闢の始神。美しい顔で可愛い動作は反則です。
少し脱線してしまったが、せつなが俺達と出会ってから……、いや達也と出会ってからの態度を思い返すと何点か腑に落ちない点がある。
まず、達也に対しての過剰とも言える敵対意識。出会って数秒で喧嘩上等になっていたのだが、いくら野生児とはいえ、過去において初見の人間でいきなりあそこまでヒートアップした事は無い。
むしろせつなは基本的に話す人間全て友達にするタイプの人種なのだ。それをいきなり敵対意識剥き出しにするのは少々おかしい。
今までに見た事の無いせつなの行動……これってもしかして、好きな人には嫌がらせをしてしまうというあの行動理論では!?
「みゆちゃん、せつなですが……達也に惚れてる可能性が高いです。今までのぶっ飛んだ挙動は恥ずかしさの裏返しですよきっと。そもそも騒音マシンのあいつがこんな静かになる事なんてありませんし。これは間違いなく……ど、どうしました?」
声を潜めて細々と俺の某名探偵ばりの推理をみゆちゃんに伝えたのだが、その当の本人がまるで雪女よろしくの冷たい表情で俺を凝視していた。
懐かしいお顔ですね。昔を思い出します。
「……太陽先輩は人の事はそんなに心理についてまで考えられるのに、私の事になるとあり得ない程に鈍いのですか? その発想力をどうしてもっと活かしてもらえないのですか?」
思いっきり詰め寄られた……。俺ってそんなに鈍いですかね? 結構考えるタイプだと自負していたのですが。
「何度もアプローチしても綺麗にスルーされますし、正直、諦めようかともよぎった事すらあったのですよ? それなのに人の事になるとこうもスラスラと……」
あ、あれ? 今、俺、お説教されてる? えっと、どうしてこうなった? と、とりあえず謝っておこう! なんか客観的に聞いてみても俺が悪い気がするし……。
悪いのかな……?
「す、すみません、これからはちゃんとみゆちゃんの事をしっかり見ていきますから」
「じゃあ、今、私がして欲しいこと分かりますか?」
むっず……。俺、超能力者じゃないからそういうのは……。いや、諦めるな! 考えるんだ! 今俺の彼女は何を求めている!?
脳内をフル回転させ、様々な行動を考えていたのだが、みゆちゃんはひとつため息を落とし、目を閉じてこちらに顔を向けてきた。
美少女が目を瞑って何かを待つこのシチュ……も、もしかしてこれはキス待ちじゃないのか!?
だよね!? 十中八九そうだよね!? 彼氏彼女の関係になって結構経つし、キスぐらいそろそろしてもいい……よね?
でも待てよ、万が一だ。万が一、ただ目を瞑っているだけで俺の考えが違っていたらどうする!?
一応彼氏彼女の間柄だから『はっ? ●ね』とか暴言をぶちまけられるような事にはならないと思うが、勘違い野郎の烙印程度は押されるかもしれない。
本当にこれはGOサイン……だよな? GOサインとして受け取っても問題は——
「はよキスしたれやっ!!」
突如秘密基地の窓が開かれるや、後頭部をはたかれた。
頭を押さえて振り向くと、超絶イライラしているせつなと薄ら笑いを浮かべている達也が窓から覗いていた。




