見知った天井
目を開くと見覚えのある天井が見えた。
先程までいた寒い屋外とは打って変わって、今は暖かい空気に包まれ、穏やかな感触に包まれている。その中でも特筆すべきは後頭部だろう。特段柔らかい感触が伝わってくる。
周囲を見渡すと見覚えのある家具が見えた。うん。ここ、俺の部屋だわ。
「気が付きましたか!? 大丈夫ですか、太陽先輩……」
頭上から降り注いできた声にも聞き覚えがある。いや、間違えよう筈も無い。男子校の姫であり二つ名を天地開闢の始神。
俺の彼女である、みゆちゃんである。
どうやら俺は暖房の効いた部屋でみゆちゃんの膝枕に甘んじているようだ。夢のようなシチュエーションである。
これはもう死んでも良い案件まである。あ、思い出した。さっきマジで死にかけたんだっけ?
「あ、うん、なんとか。ごめんね心配かけて」
先ほど荒ぶる二人の決闘の仲裁に入った際の出来事だった。達也とせつなが投げた雪玉が俺にクリーンヒットしたのだ。
もはや悪意を持って狙ったとしか思えない。見事にこめかみと顎を打ち抜かれた。
いやぁ~、脳みそ揺れたね。そのまま膝から崩れ落ちたところまで覚えているが、その先は記憶がない。おそらく意識を飛ばしたんだと思う。記憶は無いが大騒ぎになったのは想像に容易い。
一歩間違えれば大事故に繋がっていただろう。恐ろしい話だ……。
さて、気分もマシになったので名残り惜しいけども。そろそろみゆちゃんの膝から去らねばならない。名残惜しいけど……。
「まだ休んでて下さい!」
「ふぉぐ!?」
自分の体に鞭を打って起き上がろうとしたのだが、みゆちゃんにすぐさま強引に元の体勢に戻された。急激な動作だったのだ地味に首が痛ぇ……。二次災害勃発です……。一瞬もげたかと思いましたよ?
ですがまだ膝枕を味わえるのは……プライスレスですね。
「痛てて……わ、分かりました。それにしても折角のクリスマスに申し訳ないです。俺に構わず達也とせつな達と出かけてくれても良かったのにぃぃい!?」
再び味わう事の出来た膝枕で至福の居心地を感じていたのだが、目が覚めるようなおでこビンタが取んできた。地味に痛い……。
「どうやら頭部への衝撃だけではその唐変木は治らないようですね。私は太陽先輩の彼女ですよ? どうして弱った彼氏を放っておいて出かけるなどと言う選択肢を取るのですか」
うん、改めて彼氏、彼女と言われるとこっぱずかしいですね。未だに慣れません。
「はは、すみません。じゃあ……少しゆっくりさせてもらいますかね。やかましいあいつらもいない事ですし」
「そうして下さい。せ、折角の二人きりなので……」
普段から同居して常に二人っきりではあると思うのだが、雰囲気が違うせいか、妙に緊張してしまう。
まあ、違うといっても自分の部屋だけどね。
「しかしこんな綺麗な女性に膝枕までしてもらえるなんて……」
「き、綺麗っ……!? ほ、褒めても何も出ませんよっ!? で、ですが膝枕ぐらいでしたら言っていただければいつでもしてあげます。だって……私は太陽先輩の、か、彼女なんですから……」
おっと、これは恥ずかしい。言われた方も赤面してしまうレベルですね。みゆちゃんの乙女感が眩しい!
そっかぁ……これが付き合うってことなんだ。こんな甘酸っぱい会話を見せつけてしまえば、そりゃあリア充爆発しろって思われるわ。
「俺、めちゃめちゃ幸せですよ。今、世界で一番の幸せ者を名乗っても恥ずかしくない……って母さん!? いつからそこに居たの!?」
「えっ!? お、お母様!?」
周囲からバカップルと指差されてしまいそうな甘々トークを育んでいたところ、ふとドアの方に目をやれば、小刻みに震えながらこちらを伺う母さんが見えた。
すみません、超恥ずかしいのですけど……。親の前は精神的にくるものがあります。
どうやらお茶とお菓子を持ってきてくれたらしいのだが、俺達がイチャラブしていたおかげで部屋に入れず困っていたらしい。
ちなみに持ってきてくれたお茶は結構冷めてた。一部始終、がっつり見られていたようだ……。
≪
親に見られたくない状況ベスト3に入るであろう、彼女とイチャラブタイムを覗き見られてしまい、失意のどん底に居る今日この頃。
個人的にエロ本を発見され、机の上に添えられ、公開処刑されてるのと同じぐらいの精神的ダメージだわ、これ。
尚、先程のエロ本の件は過去に一回あった事例で実体験済みだ。うちの母さん、寡黙だから何にも言わなかったけど。それが逆に辛かったのは古き良き思い出さ……。
しかし達也達は何処に行ったのだろうか。まあ、なんだかんだでしっかり者のつばきがついているから大丈夫だとは思うけど。そんな他力本願で部屋でみゆちゃんとまったりしていたのだが……。
「やっほ、太陽~、具合良くなった~?」
「おう、つばき。おかげさまで……ってつばきぃぃ!? 達也とせつなはどうしたのぉぉぉ!?」
唯一の良心が俺の部屋に入ってきたぁぁ!? 俺亡き今、あの二人を止めれる唯一のストッパーなんだぞ!?
「ん? 気づいたら居なくなってたよ?」
つばきさぁぁぁん!? しっかり見張ってもらえますかねぇ!? 何度も言いますがあの二人にリードつけれるの貴女ぐらいしかいないんですからぁ!!
「みゆちゃん、これはちょっとまずいです! あの二人が自由気ままにやりあったら……。白銀の世界をイチゴシロップのかき氷地獄に変えてしまいかねません!」
「い、急いで探しに行きましょう! 間に合ってくれればいいのですが……」
「あ、私、そろそろお昼時だからお父さんのお手伝いしに戻るねぇ~。じゃあお大事に~♪」
……とても親孝行な子だねぇ。頑張ってお手伝いしてあげてね。




