決戦、達也vsせつな
冬休みを利用し、年末年始を俺の実家で過ごすことになった達也とみゆちゃん。
そして世間一般では本日はクリスマスと呼ばれる日である。が、ド田舎の雪国に都会のようなイルミネーションや集客イベントは無い。
せいぜい、各々の家で友人知人とケーキを食らってはしゃぐぐらいが関の山だ。
なんなら大人達はお正月に向けた準備の方で忙しそうである。田舎ではクリスマスより正月にこだわりを持っている雰囲気がある。
お店も三が日は少なくとも休むし、ちゃんと食材を用意しておかないと食べる物の困る事になる。最後の手段としてコンビニの利用という方法もあるが、いかんせん大人は三が日は酒浸りになるので車が使えない。田舎の最寄りのコンビニは車でないと行けない。詰みである。
そんな田舎の風習を幼少期から経験していた為、都会に出てきた一年目には随分と驚かされたものだ。元旦からフル営業の店ばっかだもん。365日、年中無休って凄いよね。
尚、父さんは既に出勤済みだ。昨晩、俺の彼女として紹介したのだが、みゆちゃんのあまりの美貌にテンション上がっていたのがちょっとキモかった。そして息子として恥ずかしかった。
そんないくつもの難関を乗り越え、平和な朝を迎えている和宮本家なのだが、いつまでもこの平和が続かない事は誰よりも知ってる。
「太陽! 出てきなさ~いっ!! ついでにヤンキーも!!」
「せっちゃん、こんな朝早くから大声で近所迷惑だよぉ……」
昨日の晩御飯に引き続き、楠田定食の残りを母さんが朝食にもアレンジして調理してくれ、美味しくいただいていたところ、窓の外からどでかい声がぶっこまれた。
おかげで母さんはビクついては柱の陰に隠れてしまった。なんてことしてくれるんだ。折角達也とみゆちゃんにも徐々に慣れてきたというのに……。
渋々食事を中断し、窓を全開にして外を眺めた。冷たい澄んだ空気と共に、腕を組んで偉そうにしているせつなと、それをなだめるつばきがいた。
相変わらず迷惑極まりない奴である。あんな奴にずっと付き合ってるつばきが不憫で仕方がない。とりあえず文句のひとつでも言ってやろうか。
「うるせぇぇ!! 朝っぱらからカチコミにくるんじゃねえ!! 迷惑だろうが!!」
「何言ってるの! 中学の時は私達二人が毎日起こしに行ってあげた恩を忘れたの!?」
おい、待てって……。外でそんな大声で昔の事を……。いや、事実だよ? 確かに小学校並び中学時代に二人は毎朝我が家に勝手に侵入するや、俺を叩き起こしてくれてたけどさ?
叩くのはせつなだけだったけどな。
でも今はそんな昔の話を語るのはどうかと思う。だって、俺の横には彼女が——
「初耳ですネ? ナンですカ? ソノ話?」
大きな声や気の入った声は母さんが驚くので、俺の耳元で非常に丁寧に言葉を並べらてご意思が伝えられた。
怒ってるよね? 声のトーンは低めだけど明らかに憎悪の感情が渦巻いてるよね? 若干カタコトだよ?
「怖気づかずに出て来たのは褒めてあげるわ! 昨日の決着、今日こそつけるわよ!」
「望むところだ。俺も昨日は不完全燃焼だったからな」
外がまた騒がしくなったので窓を覗くと、いつの間にか達也が外に出てた……。
お互い見つめ合って指ポキしてる。何? どんだけ相性悪いの? 君達? 連れてきたの間違いだった?
「お前らぁぁ!! ちょっと待ってってぇ! みゆちゃん、ちょっとだけ待って……は、はい、ちゃんと後でお話しますから……」
生まれ育った懐かしの実家に帰って来たというのに、一切の安心感が無い。これなら自分の家でまったりと年越ししていた方が幸せだったのか知れない……。
≪
聖なるクリスマスの日、憎しみの連鎖を断ち切る為、と言うか何かしらで決着をつけないと収まらなさそうなので、正々堂々スポーツで勝負をつけることになった。
せつなから提案された競技内容は雪合戦。まだ健全な勝負にほっと胸を撫で下ろした。
一触即発の達也とせつなの対決は、思っていたよりかは平和的な勝負に落ち着くに至った。と、騙されていけない。よくよく考えてもらいたい。これは非常に不公平な勝負である。
なにせ、せつなは雪国育ちのチンパンジーであり、対する達也は雪玉すら作った事のないシティーボーイ。
まともな勝負にならないのは目に見えおり、勝ち確の勝負を堂々と振る鬼畜っぷりに開いた口が塞がらない。
「ふふ、この勝負に負けた方はなんでもひとつ言う事を聞く事! いいね、都会ヤンキー!」
「ああ、それで問題無い。田舎のサル」
お互い煽るのはやめましょう。どうして仲良く出来ないの?
がっくりと肩を落としていると、つばきが俺の横にやってきた。みゆちゃんからは不穏なオーラが出てる事も確認出来たが。
「あ、あのね、太陽? 私、凄く久しぶりにあんなイキイキとしたせっちゃんを見たよ。しかも太陽以外の男の人であんなに嬉々としている姿、初めてかも……。太陽がいなくなってから随分と物静かになってたんだよ?」
そうなの? 俺と会う時はいつもとなんら変わりない態度だったけど、こっちでは大人しくなってたのか……。
なんだかんだで寂しかった……とか? そんなセンチメンタルな心、持ってたの? 人の心なんて微塵も持っていないと思っていたんだけど。
「どうりゃあっ!! 死に晒せぇぇ!!」
「その言葉、熨斗を付けて返してやんよぉ!?」
うん、なんか始まった。流れ球に被弾して痛い思いも冷たい思いもするのは嫌なので、雪玉が無数に宙を舞う現場から少し離れ、傍観者に徹する事にした。
しかし流石は達也。あのせつな相手に大きなディスアドバンテージを背負いながらも互角の戦いを繰り広げている。
無論多少は被弾しているようだが、それでもせつなを追い込み、いい勝負に持ち込んでいる。
化物同士の戦いだな……。そして俺は一体何を見せられいるのだろうか。
「達兄ぃが真剣になれる相手が太陽先輩以外に居るとは……驚きです」
「いやいや、せつなと互角なだけで俺を遥かに超えてると思うよ? 俺だったらとっくに雪だるまにされていると思います」
その後も両者、息をつく暇もない雪玉バトルを繰り広げていたのだが、どうやらお互いに辛うじて人間だった模様であり、スタミナが切れだした。
荒く肩で息をし始め、動きが鈍くなっていくにつれ、徐々に被弾率が上がってきた。もはやお互いが肉を斬らせて骨を絶つ作戦に切り替えたようだ。
馬鹿ですね。何を考えているんでしょうか。
「ぐはっ……!? ちいいっ!!」
「きゃっ!? こ、このぉぉっ……!」
雪玉が達也の顔面にクリーンヒットし、体を大きくのけぞらせた。雪玉は爆散して弾け飛び、周囲に雪の結晶の花火を打ち上げていた。
あれは痛い。ビジュアル的にも文句なしの決定打だ。
と思ったその次の瞬間、のけぞった体をすぐさま起こし、先程のダメージがまるで無かったかのように達也が雪玉を投球。
その雪玉は見事にせつなの肩にクリーンヒットし、達也と同じく雪の結晶花火を周囲に散らしていた。
体重差もあるのだろうが、やはり一撃の威力は達也に軍配が上がるようだ。だってインパクトの瞬間、軽く体を持って行かれていたのを確認出来たもん。とんでもない威力である。
ねえ? 二人ともガチで殺しにきてない? 雪合戦で死人が出るとかやめてよ?
「た、太陽? そろそろ止めた方がよくない? お友達も大分疲れて足にきてるみたいだし……」
「せつなさんもさっきから体が揺れて朦朧としてます。これ以上は事故に繋がります」
あのね、お二人さん……。簡単に言ってくれますが、それって猛獣が二匹入っている檻にウサギが仲介しに行くようなものだよ?
秒で食われちゃうよ? 知ってる? それってね、世間一般広義で餌って言うんだよ?
手負いの獣は恐ろしいって言葉知ってる? これね、絶対に俺が巻き込まれるパターンだと思うんだ。
しかしながら美少女の幼馴染が心配する顔と、自分の彼女の懇願する顔をダブルで見せられたら俺も動かざるを得ない。
二人ともナイスバディだから非常に眼福だ。もう思い残す事はない。
よし、死んでくるかっ!! 南無三っ!!




