太陽の母は……
田舎、と言われれば世間一般の方は何を想像するのだろうか。
いかんせん生まれも育ちもガチの田舎出身なので、客観的にピンと来ないところもあるのだが、広い土地に大きな家を例のひとつに上げる方も多いのではないだろうか。
もちろんウチも例に漏れずに無駄にデカい。お隣さんや近所の皆さんの家もデカい。まあそれでも土地が余っているのが田舎らしい。
しかしデカい家なのは確かだが、達也の家なんかとは違ってゴージャスさは一切無い。これといって飾りっ気のない建屋に、物置には農具なんかが乱雑に置いてたりする。
一応庭もあるにはあるのだが、ぱっと見ではどこまでが自分の所有地の庭なのかちょっと分からない。しかも今は雪で埋まってるからなおさら境界なんて見えやしない。
まあそんなざっくばらんなところも田舎の良さなのかも知れない。都会だったらほんの少しばかり境界をはみ出るだけで、クレームが入るらしいもんな。
「うう、寒ぅ……。さ、二人とも入って入って。お~い、母さん、息子が帰ってまいりましたよ~」
玄関に荷物を置き、呼びかけてみたところ、奥の方からおそるおそる顔を出している女性を発見出来た。
うん、俺の母さんだ。変わりなく元気そうでなによりだ。
「あ、あの……太陽先輩? あの生まれたばかりの小鹿のように小刻みに震えているのはお母様でしょうか? 寒い……のでしょうか?」
「というよりも俺には物凄く怯えているように見えるんだが? さっきとは違って、今の俺ってそんなに圧迫感出てないと思うんだが……」
二人が随分と心配してくれてはいるが、大丈夫。至って通常運行なので。
「いやあ、うちの母さん、極度のあがり症でさ。俺も幼少期はあんな感じだったんだよ」
せつなに性格改善されなければ、きっと俺も母さんと同じ性格のまま育っていただろう。三つ子の魂百までとは良く行ったものだ。三歳の時にねじり込まれたからなぁ……。
「……おか……さい。さ……ぞ」
「だってさ。ほら二人とも遠慮せずに」
「いや待て、太陽。俺にはお袋さんの言葉が聞き取れなかったんだが? 申し訳ないが何て言ったか教えてくれないか?」
「うん?『おかえりなさい、寒いから早く中にどうぞ』って言ってたけど?」
「ぜ、全然分かりませんでした……はっ! そうじゃない! あ、あの! 私、安藤みゆと申します! そ、その、太陽先輩とは清く正しいお付き合いを——」
母さんは迫力のあるみゆちゃんの声量に驚き、全力で奥の部屋に走って行ってしまった。これまたいつもの事であるが。
「はは、声に驚いて隠れちゃいましたね。まあ、奥のリビングに居ると思うので気にせず上がってやって下さい」
「太陽先輩のお母様は猫か何かですか!? てか第一印象がぁぁ……やらかしてしまいまいましたぁ……」
なにやら肩を落とすみゆちゃんなのだが、しばらくしたら慣れてくると思うから心配しなくても大丈夫だと思うよ?
にしてもやっぱ珍しいよな……うちの母さんって。親父は普通なんだけどなぁ……。
≪
俺の背に隠れ、小刻みに震える母さんに改めて達也とみゆちゃんを紹介した。もちろん、彼女であることも。超恥ずかしかったが。
「ん? なになに? ちょ、やめろよ!? 分かってるって、俺だってもう子供じゃないんだからさ!!」
絶対に俺にしか聞こえない声で囁く母さんに、二人は困惑しっぱなしだ。
「太陽先輩? お母様はなんと……?」
「んっ!? いや、その……ま、まあ、いいじゃない、それより楠田定食で持ち帰ってきたご飯が——」
咄嗟に腕を掴まれ、まばたきもせずに俺を見つめるみゆちゃん。改めてこうまじまじと見られると、初めて会った時に比べて随分と大人になった気がする。
ふつくしい……。あと、瞬きを一切せずに俺を睨んでおりますが、目、乾きませんか?
「なんとおっしゃられたのですか?」
まあ成長した分プレッシャーもパねえけどね。いやでも流石にこれを言ってしまうと問題になるんじゃないかな……。いや確実になる。
でもこのまま黙秘を続けると、俺の腕に青痣が出来てしまう可能性もある。ここはオブラートに包んでお伝えするしかないようだ。
「あ、あの……高校生同士だから、その深い関係になって困らないように気を付けなさい的な?」
一気にみゆちゃんが赤面してしまった。最近良く顔が赤くなる。昔は顔色一つ変えないクールビューティだったのに、随分と感情が豊かになったものだ。
「お、お、お、お、お母様!? わ、私は太陽先輩とはまだキスすらしてない関係で! 最近やっと手を繋ぐことができたぐらいなので!」
「でも随分と長い間一緒に住んでるじゃんか」
「っ!?」
あ……。達也、それ言っちゃう? うちのお母様、今、過去一ぐらい驚いてるんだけど?
「た……達兄ぃぃぃ!! 今はだめでしょうぉぉ!?」
結果、今の状態を説明をするのに小一時間を要した。まあ、そりゃ高校生の男女が一緒に寝泊まりしてら問題になるよね。
うん、知ってた。




