みゆの思い出話 其の七
みゆの思い出話 其の七
楠田定食さんでご飯をご馳走になった上、なんとつばきさんのお父様のご厚意により、太陽先輩のご実家までお車で送っていただける事になりました。
太陽先輩曰く、歩きだとちょっと辛い距離だそうです。特に達兄ぃが瀕死なので大助かりです。
尚、ご実家は車でゆっくり走って十分少々で着くとのことです。ただ、私個人的には結構飛ばしているように見えます。
こちらの方のゆっくりとは、エンジン音を唸らせて雪を掻き分けるぐらいのスピードを差すのでしょうか。
雪道なので十分に安全には用心していただきたいです。とはいっても地元の方なので慣れっこなのかもしれませんが。
しかし先ほどは驚かされてしまいました。新幹線で拝見させていただいた、太陽先輩のもうひとりの幼馴染さんであるつばきさんが超絶スタイルを持つ方に変貌していました。
太陽先輩も知らなかったようですが、前知識として見せて頂いたお姿からの乖離に驚きです。
なにせぽっちゃりを超えた体躯に、お肉によって目も線状化しておりましたし、どこからどう見てもいくらお世辞を重ねても肥満体としか映らない容姿でしたから。
ですがいざ目の前に現れたのは、到底同じ人物とは思えない、大きな愛らしい瞳を持つ非常にスレンダーな女性でした。お尻なんて羨ましいぐらいの小尻でした。そのくせ、胸が異様に大きかったです。
正直、私は胸に関してはコンプレックス的なものを持っていますが、私以上の大きさの人を見る事が非常に稀なので少し驚いてしまいました。
助手席では太陽先輩がつばきさんのお父様、通称おやっさんと和やかに会話しており、私の横には窓の外の遠くを見つめる達兄ぃが苦しそうに座っています。
そういえばこんな虚無感を抱えた顔をした達兄ぃを見るのはあの時以来ですね。そう、あれは私が高校入学を控えた春先の事でしたね……。
≪≪≪≪≪
「……は? 何考えてんだ、みゆ。春の陽気でネジが飛んじまったか?」
入学式を前日に控えたその日の夜、私は達兄ぃの部屋にお邪魔していました。先ほど私の想いの丈を包み隠さずにお話したところ、全ての感情が抜けたような表情を向けてきました。暴言付きで。
「私は至って正常です」
「いや、どこの世界に入学早々に男と同棲を望むJKがいるんだよ!?」
「同棲ではありません、同居です。ルームシェアです。なにより、和宮先輩が一人暮らしをしている事をどうして今の今まで黙っていたのですか!? もっと事前に分かっていればいろいろと小細工が出来たものを……」
普通、高校生は親元に居るのが原則です。和宮先輩のような高校生で一人暮らしをしている方など、極めて異例でしょう。
そんな貴重な情報を今しがた聞いたのです。もう入学式は目前なのですよ? 私は達兄ぃの神経を疑います。
「確かに高校生での一人暮らしは珍しいが、だからと言って押しかけ女房みたいな真似までしなくても……」
「いえ、それぐらいしないとダメな気がします。達兄ぃの話を聞いている限りでは」
腕を組んで小首を傾げる達兄ぃですが、ものの数秒で頷きました。和宮先輩は、恐ろしいほどまでに女性に鈍感だと伺っており、達兄ぃ本人も納得したようです。
「確かに太陽って陽キャだし、人当たりも真綿のように柔らかい。本人に自覚はないようだが、他高の女の子にめちゃめちゃ人気があるのは事実だ。現に何度も告白されてたしな」
少し胸がもやもやしますが、事実、和宮先輩は正直モテます。なんせ細マッチョですから。その上、達兄ぃを丸めてしまう程の明るさの持ち主。
そんな人が女性からモテない訳がありません。ゴリマッチョ派の女性以外は。
「でもまったく上手くいかないというか、進展しないというか……。いやそれ以前の問題だな。そういう星の下に生まれてきたんだろうな……あいつ」
それだけのポテンシャルを持ちながら、なんと彼女居ない歴=年齢というハイスペックさを誇っています。和宮先輩は真っ白なのです。ピュアホワイトなのです。
なので私も相当な覚悟を持って当たるつもりでした。ストーカー行為ですら辞さない予定でした。
「だが、流石に同棲……じゃなかったルームシェアだっけか? どちらにせよやり過ぎじゃないか? 太陽も警戒して絶対『うん』とは言わないと思うぞ?」
「是が非でも了承を取って下さい。理由はなんでも構いません。そうです、私が継母にいじめられて灰を被っているとでも伝えて頂ければ結構です」
間髪入れずに達兄ぃに要求させていただきました。今までは奇跡的に言い寄る女性とは縁が無かったようですが、このまま放置するのは非常に危険です。かすめ取られてしまいます。
「どこの世界感だよ……。わ~ったよ、ちょっと作戦考えるわ……。だが上手くいく保証はねえからな? ダメだった場合は諦めろよ?」
「そうなった場合はストーカー行為に走るまでです。捕まるまで」
「熱が入り過ぎて別人になってるぞ? どうした、絶対零度の美少女」
「昔の話を持ち出さないで下さい」
今ではもう和宮先輩の事を考えるだけで、胸の鼓動が早くなる程なのです。ですが、達兄ぃにも警戒されている通り、行き過ぎた行為は逆にマイナス印象になりかねません。
この感情は出来る限り胸の内にしまっておく必要がありますね。面倒な女やヤンデレなどと認識されると、これから先の私の人生が真っ暗になってしまいます。
……はぁ、これが人を好きになる感覚なのですね。恋は盲目とは良く言ったものです。
≪≪≪≪≪
懐かしいですね。今にして思えば達兄ぃが考案した『通学に八時間半』などという嘘がよくもまあ通じた物です。半ば強引さはありましたが。
……どうやら目的地に着いた模様です。緊張します、太陽先輩のご両親とのご挨拶をしなければなりません。
第一印象は大切です! 安藤みゆ、一世一代のこの大舞台、しくじる訳にいきません!




