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愛情盛り


「おっぷ……」


「うぷ……」


 達也とせつなは一触即発の雰囲気で店に入るや、おやっさんの作ってくれたデカ盛り料理を一心不乱に食べ進め、どちらが早く食べ終わるかを競い合っていた。のだが、今は仲良しこよしで全く同じ挙動を取っている。


 具体的に言うと箸を持ったまま微動だにせず、ずっと一点を見つめている。その先にあるのはただの壁なのだが、まるでそこに霊か何かでも存在しているのかと錯覚する程に視線を送っている。


 どうやら体が限界を訴えているみたいだな……。もうあの二人は言い合いする体力も気力も胃の隙間もないのだろう。


 しかし二年ぶりに味わった楠田愛情盛り定食は想像を超えたパワーアップを果たしていた。


 まずは嫌でも目に付くバカでかい丼茶碗に盛られた白米。安定安心の漫画盛りにされた白米が何故か二杯も添えられ、山脈と化してた。

 ちなみに二つ合わせて一升らしい。つまり、白米だけで1.5キロもあることになる。


 そしてメインのおかず達は見事なまでの茶色。唐揚げ、フライドポテト、コロッケなどの揚げ物をはじめ、ハンバーグやステーキなども爆盛されていた。

 その他には蒸し物である肉まんやシュウマイがテーブルを埋め、脇には新鮮なサラダが器から溢れ返っている。

 味噌汁も具沢山でご飯と同じ丼茶碗で用意されており、しっかりと栄養バランスも考えられた他の追随を許さない定食。


 これぞ楠田食堂の看板チャレンジ定食【お殿様ランチVX】だ。俺の知ってるお殿様ランチが二年の間に進化して【VX】という言葉が付けられた。てかお殿様が食べる量じゃない。


 そんな俺は全体の三割を食べた所で早々にギブアップした。みゆちゃんは二割だ。だが、味は本物。胃の容量が無限であるならばもっと食べたいぐらいだ。


「太陽先輩、お持ち帰りのパックをいただけましたので詰めて行きましょう♪」


 程よく満腹になったみゆちゃんはご機嫌な様子で残った料理をパックに詰め込み始めた。どれも美味しいお料理なのでしっかりお持ち帰りさせていただこうと思う。


 しかし全員の分を合わせると中々の物量である。一体何食分あるのだろうか……。こうなったら家族にも食べてもらうしかないな。


 尚、序盤までお互いを煽りながら食事をしていたせつなと達也は、驚く事に五割ぐらいを平らげていた。実際の残ったお惣菜の重さは分からないが、見た感じ同じぐらい食べ進めている。


 せつなもかなり頑張ったと思う。ただ、目に光はもう宿っていないけど。


「ご馳走様♪」


 そんな混沌な空気が入り交じる店内でご満悦な様子で綺麗に手を合わせているのはつばき。うん……一粒の米も残さずに完食してた。二年会わない間に最強のフードファイターになってた。


「つ、つばき? お前、どんな胃をしてんだよ……。しかもそんだけ食べて太ってないってどういう理屈だよ」


「も、もう! 女の子にそんな事聞かないでよ! 太陽のエッチ!」


 顔を真っ赤にして俯いてしまったのだが、万人が思う疑問かと思われるのですが? 痩せの大食いに進化してしまったのか……。

 まあ、胸にだけは栄養が偏って残ってしまっているようだが。


 どうやらおやっさんのデカ盛りながらもしっかりとした栄養管理が功を制し、つばきのスリム化に成功したようだ。

 それと消化能力も成長したのだろう。食べた物は超速で胃で消化され……おっと、これ以上はご飯屋さんで考える事ではないな、自重しよう。


「完食は到底無理ですが、とても美味しかったです。ところで、問題のあの二人ですが……」


 無事にお持ち帰りのパックに食事を詰め込み終えた俺とみゆちゃんなのだが、動きが止まってから結構な時間が経っているにも関わらず、箸は握ったまま一ミリも動いていなかった。


 恐ろしい事に満身創痍の状態にも関わらず、まだご馳走様なり、ギブなりを宣言していない。どこまで負けず嫌いなんだ。この二人は。


「おい、達也、一点集中してるところ悪いが、そろそろ実家に行くぞ?」


「……あ、ああ」


「それにせつな、お前も家に帰ってちょっとゆっくりしてろ」


「……う、うん」


 結局、おやっさんの愛情盛りフードファイトは引き分けに終わった。にしてもよく食ったなぁ、二人とも……。ご飯山脈がひとつなくなってるじゃないか。


 ナマケモノかのようにゆるゆると動く二人を見ていると、つばきが俺の横に小走りで寄って来た。あの量を食べたのになんて身の軽い……。


「ねえ、また今度、太陽の家に行ってもいい? しばらくはこっちに居るんだよね?」


「おう、年内と三が日は家に居るからいつでも遊びに来て——あだだだっ!?」


 冷たい目で俺を睨みながら、渾身のつねりをいれてくるみゆちゃん。完全にジェラシーモードになってる。


「可愛らしい幼馴染さんに囲まれて幸せそうですね! いい御身分ですね!!」


 やべえ、達也が静かになったと思ったら今度はこっちが慌ただしくなってきた。


「あ、あの……太陽ちゃんの彼女さん……ですよね? ずっと綺麗な方だなぁて思ってまして……。また一緒にお話とか聞かせてくれませんか?」


「ええ、それは構いませんが、一言だけ言わせて下さい。太陽先輩は私の物ですから! 誰にも譲りませんからね!」


 どえらい啖呵を切るみゆちゃん。隣で聞いてる俺ですら恥ずかしいレベルなんですけど? 付き合い出してからというもの、感情を爆発させる事が多くなっていませんか?


「はい♪ お似合いのカップルさんだと思います。アツアツですね♪」


「……太陽先輩を狙ってるとかじゃないんですか?」


「太陽ちゃんは私の大事なお友達です♪」


「……幼馴染なのに? ワンチャンあるかもしれませんよ?」


「あ、そっち系への関心は全く無いです♪ ゼロです、ゼロ♪ 私、食べる事こそが最大の幸せなので♪ 彼氏とか要らないんです♪」


 なんだろう……二年前に比べて驚くべき進化を遂げたつばきにそこまで興味を持たれていないのは少しばかり傷つくような……。


「何をがっかりしてるんですか?」


「い、いえっ!? がっかりだなんて、そんな! 俺はみゆちゃんが彼女でいてくれて超幸せなので。ほ、本当ですよ!? 何ですかその疑いの目は!? し、信じて? ね? ね?」


 あ、ダメだ……。目が笑ってない。


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