ようこそ地元へ
新幹線の旅も終わり、続いてローカル線へ乗り換えて更に北へと進み、やっとのことのことで実家の最寄りの駅に着いた。辺りは一面白銀の世界となっており、周囲には人っ子一人いない。
ザ・田舎だ。ましてや冬季だからますます外に出ている人は少ないようだ。
寒風が吹く中、辺りを見回すと車のライトをハイビームにしながら雪をかき分けて進んでくる一台のバンがあった。
見覚えのあるバンだ。サイドのドアの部分に『楠田定食』と書かれてる。
時間ぴったりである。俺が実家に帰ってくる旨をつばきがおやっさんに知らせてくれたらしく、迎えに来てくれるとの連絡を受けていたのだ。
まあ、出発前にくれたつばきから電話はその件だったんだけどね。一緒にご飯食べる約束もしたし。あの時『また、私と一緒にご飯食べれるね! 残さずに食べれるかなぁ? どうかな?』と言われたんですよ?
ともあれ、誤解も解けた訳だし、雪の道をだらだらと歩くのは少々辛いと思っていたので大助かりだ。感謝、感謝。
「おおっ、太陽っ! てめえ、久しぶりだな! 元気してたか!?」
バンから威勢の良い男性が降りてきた。おやっさんである。そちらこそ相変わらず元気そうでなによりである。
「はは、元気ですよ。すみませんね、今日は迎えに来てもらって」
「おう、いいって事よ! つばきも首を長くして待ってるからよ!」
う~ん、首が伸びているだけならいいのだが、どんな体型になっているのやら。女性に対して失礼極まりないが、あのまま体重増加の一途を辿れば通常の人よりもいろんなリスクを背負う事になりかねんぞ?
「始めまして、私、安藤みゆと申します」
「俺は河原達也、太陽の連れっす」
「おおっ!? 随分と可愛らしいお姉ちゃんとヤンチャそうな兄ちゃんじゃねえか! 言ってた太陽のツレだな? ガハハ、宜しくな!」
二人はおやっさんの勢いに少しばかり圧倒されながらも、バンへと乗り込み、定食屋に向けて出発した。それにしても豪快な人である。若い時は絶対に堅気の人間ではなかったと思う。
雪の積もった道も慣れた運転でスムーズに走り抜け、しばらく雪道を走ると、ひと際大きな建物が見えてきた。
豪雪地帯ならではの造りであり、屋根が急角度となっている。相当な年数が経っている昔からの家屋であり、歴史の重みがある。
車を駐車場に止めてもらい、雪に慣れてない二人をフォローしながら店に近づくと、スレンダーな女性が出迎えてくれた。
てっきりおやっさんの奥さんだと思い込んでいた。だが、その姿はあまりにも若々し過ぎた。正直俺と年齢的にはそう変わらないと思う。
「た、太陽、久しぶり……」
少し消極的な挨拶を頂いた。見た事の無い容姿の女性ではあったが、聞き覚えのあるその声に脳内に電撃が走り抜けた。
「えっ……? もしかして、つばき……か?」
少し恥ずかし気な様子を見せて小さく頷いた。所作が非常に可愛らしく、完全に乙女である。
どこからツッコめばいいのか皆目見当もつかないが、なによりもこの女性、驚くほどに細い。下手したらみゆちゃんより細い。
のにも関わらず、デカい。何がってあの男の大半が好きなあの部分がだ。そのサイズ感たるや、もうデカいとしか言い様が無い。
みゆちゃんも規格外のサイズをお持ちだが、こっちはワールドクラスだ。てかもはや漫画だよ漫画。一体何キロあるんだろうか……。
おっかしいなぁ……あのふくよかなつばきちゃんは何処に行っちゃったのかなぁ?
「太陽先輩? お話が大きく異なっておられるのですが?」
殺意すら感じる目線と共に言葉が投げかけられた。それは十分に私も感じております。俺の知る幼馴染とは別人ですよ? 目の前に居る人は。
「さ、お父さんがお料理作ってくれるから……あ、あの、太陽のお友達さんですよね、私、楠田つばきと言います。食べるのが大好きで——きゃっ!」
「おおっ!! 太陽っ! 戻って来たかぁ!!」
頑張って喋ってるつばきを押しのけ、やかましい原始人が割り込んできた。せつなである。
「せっちゃん……酷いよ、私が今喋ってるのに——」
「おお~、太陽の彼女ちゃんもお久し! どお!? あれから進展したぁ? チューぐらいしたぁ!?」
こいつ……。どれだけ場を踏みにじれば気が済むんだ? 見て見ろ! 割り込まれたつばきが半泣きになってるぞ!
「でもって、あんたが太陽のおすすめの男だね? 少なくとも太陽と同じぐらいにはしっかりしてそうだね!」
いきなりあいさつ代わりに達也の腹筋に腹パン入れるせつな。初見の人間になんたる無礼を……。どこまで暴虐武人なんだこいつは。
「そっちも女の割にはそこそこは鍛えられてるようだな? 女の割には?」
腹パンを受けても微動だにしない達也。凄いと思う。俺なら雪の上でもがいていると思う。
「へぇ~、都会のヤンキーは活きだけはいいんだねぇ~?」
「ふん、田舎のサルは喋るんだな」
出会って五秒で修羅場を作り上げる二人。間に居るつばきがあまりにも不憫である。超絶困ってるぞ? てかめちゃめちゃ痩せたなぁ……。
おっと、スリムつばきに見惚れている場合じゃない、この物騒な二人を引き離さなければ。
「おい、せつな! いい加減にしろ!」
「達兄ぃ、相手は女性ですよ!」
俺とみゆちゃんが二人に割って入った。ちなみに俺は邪魔だと言わんばかりに無言でせつなからアイアンクローを見舞われた。
酷くない……?
「あの……あの……そ、そうだ! みなさんで一緒にお食事にしましょう! お腹がいっぱいになれば喧嘩する気力も無くなります! 私、お父さんにせっちゃんの分も追加で作ってもらうように言ってくるね!」
そういうと見た目通り足取り軽く店の中に入って行くつばきが確認出来た。揺れ方が半端ない事も確認出来た。
「んっ!? ちょ、ちょっと待て! つばきっち!! 私は要らないぞ!? 正直あの量は無理だ!!」
「なんだ、口だけの勢い女だったか? 飯もロクに食えないのかぁ~?」
おい、煽るんじゃない達也。さっきから随分と悪い顔になっているぞ? どうした? お前ら自己紹介すらまだまともにしてないのに仲良過ぎじゃねえか?
「へぇぇ……その喧嘩、買わせてもらおうじゃないか……。後悔しないでよね?」
「ああ、上等だ。そっちこそ泣き面かくなよ?」
いきなり険悪なムードになってしまった……どうしてこうなった……。
俺へのアイアンクローを投げるように解除し、火花を散らせながら二人は店に入って行った。ちなみに俺はリアルに雪に埋もれた。焦りながらみゆちゃんが掘り起こしてくれなかったら泣いてたと思う。
「ありがとう、みゆちゃん……。痛てて、しかし何なんだ、あの二人は……」
「そうですね、一体何を考えているのでしょうか。幼馴染さんの胸を凝視する私の彼氏は」
雪が積もる地面であったが、俺は迷いなく足を地につけ、頭を雪に埋めた。パウダースノーであったことが唯一の救いだった。




