新幹線の中で
荒ぶるみゆちゃんをなんとかなだめながら環状線に乗り、準急を経由して新幹線に乗り、俺の実家がある日本の北を目指した。俗に言う豪雪地帯が俺の生まれ故郷である。
どこかで聞いた事のある行程ですが、俺はトライアスロンはしません。
新幹線に乗り、しばらくすると緑が映える景色から、徐々に白い景色へと変わって行った。山手の方ではもうそれなりに雪が積もっているようである。
「おお、雪っ! 外めっちゃ寒そうじゃん! いやあ、雪って見るとテンション上がるわ~!」
「むすっ……」
非現実的な景色を見て達也のテンションは上がれど、相変わらずみゆちゃんの機嫌が直るには至っていない。超絶拗ねていらっしゃる……参ったなぁ……。
しかし当のお騒がせ人のつばきに関しては、中学を卒業して以来、約二年弱程会ってない。一年振りにあったせつなですらそれなりの成長を感じたから、きっとつばきも大きく成長を遂げている事だろう。
……どえらい事になっていない事を、ただただ祈るのみだ。
「ところでそのせつなっていう子の話はみゆからも聞かせてもらっているが、つばきって子はどんな子なんだ? その子も太陽の幼馴染なんだろ?」
みゆちゃんのこめかみがぴくぴくしてるのが見える……。今しがたそっとしておこうと考えていたのに、どうして急にそんな話題を振ってきちゃうかな?
新幹線でテロ起こす気なの? そんなのは某子供になっちゃった探偵アニメの世界だけにしてもらえるかな? しかし達也に悪意は無い。遅かれ早かれこの話はしないといけないのだ。このタイミングを利用して事情をお話させてもらおう。
「あ~、つばきは——」
「へえ、つばき? そういえばせつなさんも呼び捨てでしたね? 私の呼び名ってなんでしたっけ? 確か安藤さん……。最近やっとみゆちゃんになった感じでしたよね? 私は幼馴染を超越した彼女であるにも関わらず、未だに一度も親近感を持って呼び捨てにされたことないですけどね?」
いかん……つばきの事情の説明どころじゃなくなってきてる。目がヤバいもん。
ますます猛ってしまったようだ。確かに幼馴染達は名前呼びしてますけど、それは幼少期から長年付き合ってるからであって、男子校の姫に流石に呼び捨ては無理です。正直みゆちゃんですらギリっす。それに年下だし、ちゃん付けでよくないっすか?
「おい、太陽、もう仕方なしでもいいから一度みゆって呼んでやれよ。それできっと気が済むだろうからさ。一向に話が前に進まん」
「達兄ぃ? そんな風に出来レースを仕込まれて私の心が収まるとでも——」
「えっと、みゆ? 一緒に話を聞いてもらえれば助かるんだけど……」
「なっ!? あ、ふぃしゅぅぅ……ひゃい……」
顔面からどっと湯気が出たような気がした。とりあえず大人しくはなってくれた。言いたくないですがチョロ過ぎやしませんか? とはいってもどこでも出来る事じゃないけどね。学校で彼氏面して呼び捨てにしようものなら、流石に囲まれると思うもん。
「じゃあ話を本題に戻すけども……その前にまず確認なんだけど、みんな腹は減ってるよな?」
朝に出発して今の時刻は昼を少しばかり過ぎている。おそらく流れ的には新幹線の到着駅で少し遅めのお昼ご飯を食べ、引き続きローカル線を乗り継ぎ、実家に向かうとなるであろう。
そうなるのが至極自然だが、生憎とそのプランは却下させてもらう。
「ああ、確かに腹は減ってきたが……それがどうしたんだ?」
「つばきの家ってさ、実は定食屋なんだよ。でもこれがただの定食屋じゃないんだ……。まあ、これを見てくれれば一発かな?」
スマホを取り出して画面をスクロールさせ、達也に手渡した。横からみゆちゃんものぞき込んでいるのだが、二人とも眉間にしわを寄せ、何と言葉にしたらいいものか悩んでいるお顔になってる。
困惑。二人の心の中はその感情一辺だろう。
別に間違ってえっちい画像やゲテモノ画像が映っている訳ではない。俺のスマホに写したのはみんな大好き『かつ丼』の画像だ。もちろん、ただのかつ丼の画像ではないけどね。
「……これデカくないか? 脇に並ぶ沢庵から比較するとトチ狂ったスケールの料理に見えるんだが?」
「到底一人で食べれる量ではありませんね。パーティ用のお食事……にしても取り分けが困難なメニューですし」
二人がごもっともな事を口走ってくれた。そう、つばきの家は知る人ぞ知る、マニア御用達のデカ盛りの聖地とも言われている定食屋さんなのだ。
その証拠に画像には、すり鉢に漫画盛りされた白米の上に、トロトロ卵に分厚いとんかつがキャンプファイヤーの骨組みのように天高く積まれている。
尚、これは数あるチャレンジメニューのごくごく一部である。つばきの実家『楠田定食』は和・洋・中なんでも出てくる定食屋さんなのだ。
しかもどれもめちゃ美味い。味に関しては文句の付け所のないお店であり、評判はかなり高い。現にドが付くほど田舎にあるお店だが、わざわざ都会からも足を運ぶ方も多いとか。
大食いを専門にしている動画関係の人なんかは頻繁に訪ねてくるらしい。なんか聖地化してるとの噂すらある。
「この感じの料理を今日は俺達用に三人前用意してくれてます」
「「えっ?」」
綺麗にハモった。まあそうなりますよね。三人がかりで食べても完食出来るか怪しいレベルの量を一人前づつ用意されているのだから。
はっきり言って普通の人が食べれる量ではない。なので残った分はお持ち帰りして夜ご飯に。ワンチャン引き続き朝食として食べるしかない。
お残しはダメ。フードロス絶対ダメ。
「あ~。そういう店なんだな……確かにあるよな、そんな店」
「美味しそうではあるのですが……。流石にこの量は……」
スマホを見て各々感想を漏らしているが、実は問題はそこじゃないのだ。
「ちなみに先程から話題に挙がっている俺のもう一人の幼馴染、つばきは普通にそれをソロで完食します」
「「……え?」」
これまた二回目も綺麗にハモった。流石は従妹。絶妙に息が合いますね。
楠田定食は最初こそは普通の定食屋さんだったのだが、日々成長を続ける愛する娘のとどまる事の無い食欲を満たす為、メニューにも影響が出てしまい、徐々にデカ盛り化してしまったと話していた。
俺が小学校高学年の頃には、もうすでにデカ盛り定食屋の基盤が出来ていたというのだから恐ろしい話である。
そんなクレイジーなメニューがあるお店なのだが、今日は俺の地元帰還祝いで特別に普段のデカ盛りを越えた愛情盛りで迎えてくれるらしい。
本当はそんなに気を使ってもらわないで、ごくごく普通のサイズで食べたいのだが……。
「なので出来れば何も食べないでお腹を極限まで空かせた方がいい。まあ、どれだけお腹空かせても完食なんか出来ないけどな。ただ味は保証する。めっちゃ美味いから」
俺が中学を卒業した時には、つばきは既に並みのフードファイター以上の貫禄を持っていた。あれから二年……、変わらずに日々デカ盛り料理を食べ続けているだろうからなぁ。
どんな容姿になったのだろうか……。考えるのもおぞましい。
「しっかし……これを食い切れるって……。力士とかじゃないと無理なんじゃねえか? もしかしてつばきって子、相当デブなのか?」
「達兄ぃ、女性に対して失礼ですよ? 大食いの方は痩せていらっしゃる方も多いとお聞きします」
さっきまでまだ見ぬつばきに嫉妬していたみゆちゃんも、少し冷静になってくれたようだ。
確かに一流所のフードファイターの方は非常にスリムだ。胃が異常に大きく広がり、かつ消化スピードも尋常ではないらしい。
それ故にあれだけ食べても太る事がないという。だが、つばきは違うんだよ……。
「あ、二年前の写真で良かったらありますよ。えっと……あったあった」
スマホを再び操作して達也に渡すと、二人は固まってしまった。
そこに映っていたのは、十八番のコブラツイストをかけられ、苦悶の表情を浮かべる俺とドSな笑みを浮かべるせつな。
そして画面の端に立っているにも関わらず、中央に立つ俺とせつな以上の存在感を醸し出している、巨大な肉塊……。こほん、成長著しい大変ふくよかな女性が苦しむ俺を見て焦った様子で映っている。
尚、この写真はつばきの親父さん、通称おやっさんに撮ってもらったものであり、若かりし仲良し三人組として思い出の画像となっている。
「……太陽先輩、私が間違っていました。話を聞かずに闇雲に嫉妬してしまい申し訳ありませんでした。深く反省いたします」
急にみゆちゃんが綺麗に頭を下げて謝ってきた。どうやら何かを悟ってくれたようだ。
達也もつばきの体型に驚いていたが、今は俺にコブラツイストをかけているせつなをじっと見ているようだ。
「この技の極まり具合、それをなせる身のこなし……こいつはただ者じゃねえな」
あまり聞く事のない、物凄く深い声で言葉を漏らしたのが印象的だった。ちなみにあいつがただ者ではないのは、俺も身をもってして分かっているがな?




