みゆの思い出話 其の六
みゆの思い出話 其の六
やりました。遂に大願を成し遂げました。当初、わざわざ達兄ぃに一芝居打ってもらって同居までこぎつけたにも関わらず、随分と時間がかかってしまいましたが。
しかし結果良ければ全て良しです。
遂に太陽先輩を……ゲットしました! せつなさんの思惑通りに動かされた感はありますが、やはり結果が大事です。大事な事なので二回言いましょう。結果良ければ全て良しです。
ただ、彼女になる気ではいましたが、それを目標にして全集中してしまったせいで、その後の事はあまり考えていませんでした。
ま、まあ、時間はたっぷりとありますから徐々に育んでいけば良いでしょう。
「みゆちゃん、今日の晩ご飯は何にしましょうかね? お、野菜が安い! そうだ! ポトフなんてどうかな? この前マスターに教えてもらったんですよ」
出会った時はコンビニでお弁当をヘビロテしておられた太陽先輩も、今ではすっかりスーパー通いが板に付いてきました。しかもバイトで調理技術も向上し、最近はいろんな料理に挑戦しています。もちろん、健康も考えて野菜の摂取を意識したメニューともなっています。
ただ、未だに料理は私にさせてくれませんが。
「はい、大丈夫ですよ。ポトフ大好きですから。まあ太陽先輩の好きさ加減には遠く及びませんが……」
「うぇ!? あ、いや、そんな不意打ち……あ、ありがとうございます……」
す、少し私も攻め過ぎてしまったようです。おかげで二人揃って小さくなってしまいました。
ついノロケてしまいました。でもとても幸せです。胸がポカポカ、そしてドキドキします。太陽先輩に出会う事が無ければこの感情は体験出来なかったと思います。
これも全てあの時の行動から始まったのですよね……。我ながら思い切った事をしたものです。
≪≪≪≪≪
「も、もう一回言ってくれねえか? 何かの聞き間違いかもしれねえし……」
木枯らしの吹く年の瀬近づく寒い日、趣のある暖炉の前で達兄ぃに胸の内にしまっていた事を打ち明けました。
本来であればもっと早くに伝えたかったのですが、色々と考え込んでしまったのと、いっつも和宮先輩と一緒に居るのでタイミングを逃がしてしまっていました。
九割は後者が原因です。まるで付き合っているんじゃないかと思う程仲がよろしいですからね。私には居ないので確証はないですが、親友とはそういうものなのかも知れませんが。
「何度も言わせないで下さい。その、和宮先輩が、ちょっと……気になるのです。あの方は私がどんなに冷たくあしらっても図々しく入り込んできます。普通の人ならとっくに愛想を尽かしてもおかしくないのに、それでも会う度にニコニコと。最近では、そのお顔がいつも頭にちらついて離れなくて……。少し変な気分になるのです」
「いや、もうめっちゃ好きになってんじゃん、それ」
「んっ!?」
一気に体温が上昇しました。
す、好き!? た、確かにその線も少なからずあるとは感じておりましたが、まさか達兄ぃに直球を放り込まれるとは思ってもみませんでした。
「そ、そ、そんな事、まだ分からないじゃないですか!? 和宮先輩の事を考え出すと胸の奥がきゅ~っとなるだけですから!」
「100%惚れてんじゃん、しかも末期のやつだし」
……そうだったのですね。これが好きという感情からくる症状だったのですね。他の人からの言葉なら無視も出来るのですが、達兄ぃにそこまで断言されると私も認めざるをえません。
いつからそんな状態になったのでしょうか……。最初の頃はあの賑やかな素振りに嫌悪感が満載であったと記憶しているのですが。
「いや~、でもみゆがそこまで太陽に惚れ込んでるとはなぁ。でも確かにあのこじらせみゆの言動にも一切動じなかったもんな。まあ、自分で言うのもなんだが、高校に入学して誰一人として俺に話しかける奴なんていなかったのに『よう、初めまして。なかなかヤンチャそうな奴だな。ま、席も隣同士だしこれもなんかの縁だ。友達にならないか?』ってへらへらと話しかけてくるぐらいのやつだからな」
随分と楽しそうに語っていますが、その頃から急に大人しくなりましたものね。しかし当時の狂犬と呼ばれた『俺に喋りかけんじゃねえ』オーラ全開だった達兄ぃに、平然と話しかける和宮先輩の肝っ玉に改めて驚愕です。
私達の毒をこうも見事に抜くとは……。一体どれだけの浄化作用を誇っているのですか? 和宮先輩は。超高性能ろ過機ですか?
「……どうしましょう。なんか急に恥ずかしくなってきました。私、恋をしてしまっていたのですね……」
「何を柄にも無く乙女チックになって……はいはい、その目、そんな目をしてると大好きな和宮先輩が怖がって近寄ってこなくなるかもよ?」
くっ……。それは困ります。和宮先輩は私の人生の中で初めて心を暖かくしてくれた方です。
別段何をしてくれた訳でもありません。会話だってそれほど多くした訳でもありませんし、友人の従妹というポジションで向こうは何とも思っていないかも知れません。
でも今まで知り合ったどんな人よりも身近に感じれる特別な人でした。和宮先輩なら……こんな私を受け止めてくれるかも知れません。
「決めました、私、進路変更して達兄ぃと同じ高校に通います!」
「いやいや、うちの高校は男子校だぞ? あ、でもそういえば来年は共学化するとは言っていたような気も……」
「どうやら天は私に見方してくれているようですね。特に興味も意識も無いエスカレーター式の高校に通うよりも、私は和宮先輩と同じ高校に通って人生の彩を艶やかにしたいです!」
どうせ当初の予定の高校に進学しても、おそらく今と環境は大きくは変わりません。いつものように裏でどうせ冷血なり、雪女なり、雪見大福と言われるのが目に見えてます。
ちなみに雪見大福の意味は最近分かりました。私の冷たさと胸のたわわさを揶揄したもののようです。
私だって好き好んで大きくなった訳ではありません、勝手に大きくなったのです。まあ、これも口に出したら嫌味として受け取られるので言う事はありませんが。
「ま、いいんじゃねえか? みゆが自分の意思を示すのなんて初めてに近いだろうし、おじさんとおばさんも涙を流して了承してくれるさ」
「そこまで迷惑かけたつもりはありません。達兄ぃと一緒にしないで下さい」
「はっはっは、言うねぇ、流石は俺の従妹!」
けらけらと笑う達兄ぃ。和宮先輩と知り合ってから本当に丸くなったと思います。あの人には人を変える力を持っているようですね。
ふふ、和宮先輩……待っていて下さい。春には私も一緒に同じ高校に通いますからね!
≪≪≪≪≪
「よし、買い物も完了! じゃあ家に帰って晩御飯の支度といきますかね」
少し昔の事を考えている間にすっかりお買い物も終わり、両方の手に買い物袋をぶら下げている太陽先輩がいました。
「私、ひとつ持ちます」
「あ、大丈夫大丈夫! 結構重いからさ。ここは男の俺に任せてよ」
優しい男性アピールをしながら意気揚々と私を置いて先に行ってしまいました。
……付き合えたとはいえ、相変わらず唐変木なのは変わりませんね。両方の手に荷物を持っていたら手を繋げないじゃないですか。しかも普通、彼女を置いて先に行きますか?
どうやら根本的に考え方を修正していかないとダメのようですね……。腕が鳴ります。
こうなった以上、頭に少し衝撃を与えるのもやぶさかではありませんね。こちんと行きましょうかね……。こちんと。




