二学期の始まり
長いようで短かった激動の夏休みが終わり、清水の舞台から飛び降りる覚悟を持ってお付き合いを始めたみゆちゃんと並んで登校したのだが、俺が危惧したほどの混乱は無かった。
よくよく考えたらいつも一緒に登校してた訳だし、いつもと一緒と言えば一緒だもんな。手を繋ごうとはせがまれたが、俺の命を案じてくれるならばどうか制服を着ている時は許して欲しいとマジで懇願した。
とはいえ何もないかと言えばそうでもなく、厳密に言えば廊下の端っこで漆黒のオーラを背負い、俺を妬ましく眺めていたり、嗚咽を漏らす輩は一定数いる。
ただ、達也の影の圧力があるので直接は被害を被ってはいない。胃は痛いけど……。
「しっかし随分とかかったなぁ……。ここまで来るのに何カ月かかってんだよ。普通に三日あれば決着つくと思っていたんだがな。まさかこんな長丁場になるとは思いもしなかったわ」
教室に入って席に座るなり、達也が絡んできた。
「やはりグルだったか。恐ろしい奴らだぜ……」
達也には既に俺とみゆちゃんが付き合った情報は伝わっているようであり、やっと肩の荷が下りたという表情でこちらを見ている。
正直せつなが居なければ確実に俺はまだ気付いていなかったけどな。
「だが、ちゃんと付ける物は付けろよ? 仲が良いのは良い事だが、在学中にややこしい事にならないようにな?」
「お前、自分の従妹をもっとだなぁ……。はぁ、だが安心しろ。確かに彼女にはなったが、以前と変わらずしっかりとプライベートは分けてるからな」
「はい?」
達也がずっこけた。てかあまり派手に動くんじゃない。まだ周りにはみゆちゃんが彼女になったってバレてないんだから。聞き耳立てられて漏れたらどうするんだ。
無駄な延命措置かもしれないが、予防線は張れるだけは張らしてくれ……。
「な、何もしてないのか?」
相当驚いているが、何をするというのだ? 俺達はまだ高校生だぞ? そりゃあ好奇心でエロ本ぐらいは堪能するが、その行為を行うには責任が足りない。所詮はまだガキなのだ。
「強いて言えば……手は繋いだ、かな?」
「しょっぼっ!? なんだよ、それ、小学生かよ……。まあ太陽らしいっちゃらしいか。いやあ、俺もここまで安心してみゆを任せられるとは思ってなかったわ!」
なんだよそれ……言っておくが、別にひよってる訳じゃないからな!? これは社会のルールに乗っ取ってるだけだからな!? 敷かれたレールを走るのも立派な仕事だかんな!?
全員が全員好き勝手にレール乱立させたら立ち行かなくなるもんね!?
ちなみにさっきの達也の『安心してみゆを任せられる』の文言でみゆちゃんと付き合っているのがバレた。ホームルームの開始待たずして。
これからの俺の苦労と心労を少しは察してくれよ……。
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放課後、少し照れた様子でみゆちゃんが教室の前に現れた。相変わらず芸能界でもそうは居ない程の美貌の持ち主である。
恥ずかし気に手を振り振りしてアピってくれているのだが……。
『ガタッっっ!!』
クラスメイトが一斉にイスを引いて俺を睨んできた。なんと統一された動き……狂気の沙汰である。
朝一で俺とみゆちゃんがお付き合いし始めた事がバレてしまい、クラスメイトのリアクションが春の頃に戻ってしまった。
もう胃が持たんとしてる時が来ているのかもしれない。男子校の姫を得るのは寿命を縮めると同義なんですね。
「た、太陽先輩、今日も一緒に帰りましょう……」
白く細い手を出してきた。お手て繋ぎましょうのモーションである。照れた姿も相まって非常にアオハルを感じるのだが……。
無理です。朝もお伝えしましたが、学校内ではそんな事は出来ません。みゆちゃんはこの学校の姫なのですよ? そこをもう少し自覚して下さい。
「あ、あの、みゆちゃん? 学校内ではちょっと控えた方が……」
『ガララララっっ!!』
盛大にイスが引かれた。もはや合唱クラスの音量である。綺麗に揃ってるのがもはや芸術クラスだわ……。絶対俺のいないところで練習してるでしょ?
それでもって我がクラスメイト達よ、お願いだから泣きそうな顔しながら下唇噛んでこっち見て睨まないでくれるかな? そんなに強く噛むと血が出ちゃいますよ? そんな漫画みたいなことしないでくれないかな。
「……仕方ないですね。外でもみゆと呼んでくれるようになったので今は我慢するとします」
本人は我慢と言っているが、とてもそうは思えない程の笑顔を浮かべている。どうやら校内でのみゆちゃん呼びに満足してくれているようである。
もともとクールビューティーではあったのだが、反属性の可愛らしさも加わり、文字通り完全に神化してる。ほんと眩しいです……。なんか更に可愛くなりました?
「そ、それはどうも……」
とりあえずその場はいそいそと教室を後にすることにした。今後、胃薬の過剰摂取待った無しである。男子校の姫と付き合うのって超大変だわ……。主に精神面が。




