衝撃的展開
シャワーと食事を終え、体もさっぱりし、お腹もいっぱいとなって両者のギスギスした雰囲気も若干はマシになった。おかげで賑やかな余暇を過ご……せると思っていた甘い自分をぶん殴ってやりたい。
「実はね、太陽って小さい時はほんと根暗でね? それはもう、ネガティブの化身かというぐらい消極的だったんだよ。友達は当然一人もいなかったし、身内以外で私が人生で最初に喋った人間なんだって。ぶっちゃけなくない?」
「やめろよぉ! 無邪気に昔の事を掘り起こすのは!! 先輩としての威厳が無くなるだろ!? 泣きたくなる過去だから言うのやめてもらえませんかね!?」
一ミリも心の休まる間は無かった。せつなの女子トークに翻弄されていたから。俺の過去を全て知っているだけに非常に性質が悪い。
でも内容に嘘はない。確かに俺はせつなと出会うまでは、超が付くほどの人見知りで他の同年代の子とも馴染めないでいた。田舎とはいえ近所には子供も多く、幼稚園にも通っていたのだが、自分で壁を作って友達が出来ないでいた。
そんな中、華麗にそしてありえないぐらい豪快に俺の心の壁を蹴破って入り込んで来たのが、やんちゃなガキ大将のせつなであった。
真剣に嫌がる俺を問答無用で強引に引っ張り、野を駆け山を駆けいろんな遊びを教えてくれた。
しかし遊びのハードさに幼心に殺されるかと思ったぐらいだった。
そんなせつなの眩し過ぎる性格にあてられ続け、俺自身の性格も反転した。今にして思えば、自衛隊の訓練かと思わせる遊びを毎日していたおかげで、体力も飛躍的に向上したのは良い思い出である。
「あの太陽先輩が……消極的だったのですか。人って変わるものなのですね」
「にしし、しかも太陽ったら調子に乗って私にプロポーズしてきたんだよ?」
「それ、幼稚園の時の話! 未だにそれ言うか!? だいたいだな……あ、あの、みゆちゃん? どうしたのかなぁ? 随分とお顔が険しいですが」
「……命拾いしましたね。今、また『安藤さん』と呼んでいたら少し事が荒立ってしまっていましたよ?」
ひえっ……。事が荒立つってなに? ぶん殴られるってことかな?
「まあ、ふってやったけどね♪」
「そうだな……『ごめん、普通に無理ぃ~♪』って秒で返されたもんな。幼き心が砕けなかった自分を褒めてあげたいよ」
まあ、正直この天真爛漫さは俺の手には余るけどな。成長してもあの頃と全然変わらないもんな。こんな奴に釣り合う相手なんてそうそういない。トップアスリートでも逃げ出すと思う。
まあ、一人だけ心当たりがいるにはいるが……。
「だって太陽は私の趣味じゃないから♪ 私におすすめ出来るような素敵な男性いないの? 男子校に通ってるんでしょ? 遠距離でも構わないって人いないかなぁ~」
いっそのこと、さっき思い浮かんだ達也を紹介してやろうと思った時だった。安藤さんが俺の前に身を乗り出すや、真剣な面持ちで言葉を発した。
「先程から黙って聞いていれば……。言っておきますが、太陽先輩は超が付くほど優良物件ですよ!? 昔の事は知りませんが、とても明るい性格ですし、細マッチョですし、はっきり言って私のドストライクな方なのです! そんな私の大事な人を乏しめるような事を言うのはやめてもらえませんか!?」
んっ? どうした安藤さん? なにヒートアップしてるの? 俺の事を庇ってくれてるのは嬉しいのですが、なんか妙な言葉があちこちに散らばっているのですが?
「え~、なに怒ってるのぉ? それってもしかしてみゆちゃんて、太陽の事、好きなのぉ~?」
「ええ、もちろん大好きですよ!! でなければ一緒に暮らしたりする筈が――」
言葉が途中で途切れ、無言の空気が流れた。安藤さん本人は『これぞ赤面!』という程に真っ赤になっていた。耳まで真っ赤である。
そして今、俺の事を大好きって言った? ねえ、言ったよね? 聞き間違いとかじゃないよね?
「太陽ぉ~、みゆちゃんがさ、あんたの事好きなんだって。答えてやりなよ、この色男。流石にここまで言われたらいくら唐変木でも言い逃れ出来ないでしょ?」
……まさかこいつ、わざと? 安藤さんを誘導尋問したというのか!? そんな高等技術を身に着けていたとは……。
せつなの成長に感心していると、安藤さんと目が合った。
「ほら、女の子が一生懸命頑張ったんだから、さっさと答えてあげる!!」
「おぶっ!? お、おまえ……マジか……?」
油断しているところに裏拳を鳩尾に入れられ、力が抜けて膝を付いた。こ、こいつ、手加減ってもんを知らねえのか? 胃の中オムライスが込み上げてきたぞ?
普通軽く肩を叩くとかじゃね? 何ガチで攻撃してやがんだよ……。
「げほっ……あ、あの、その……みゆちゃん?」
「は、はい……」
「その、みゆちゃんは達也の従妹であって、その……男子校の姫でもあるので——あべっ!?」
後頭部をはたかれた。地味に痛い……。
「くどい! イエス、オア、ノー!」
「……お、俺で良ければお付き合いしてもらえますか?」
その答えを出したすぐあと、涙を溜めた安藤さん――いや、みゆちゃんに抱きつかれた。その豊満な体が思った以上に柔らかく、それでいて華奢であった。
これが女の子……なんて神秘的な存在なんだ。せつなには数えきれないほど馬乗りやマウントを取られたけど、こんな気分になる事は一切なかった。なんせ全てが命がけだったので。
「もちろんです……。これからも宜しくお願いします……太陽先輩」
みゆちゃんは泣き顔に優しい笑みを乗せ、ゆっくりと語ってくれた。
しかしなんという急展開だ……。せつなが煽ってきたおかげで男子校の姫、天地開闢の始神を彼女にしてしまったぞ……。
でもちょっと待てよ……あれ、いろいろと今後ヤバくね? みゆちゃんと付き合うってことは全校生徒を敵に回したのと同義だよね?




