みゆ、嫉妬する
駅前でいきなりコブラツイストかけてくるわ、人の込み入った事情を大声で話すわと、大層賑やかにしたせいで周囲の視線が集まってしまったので、逃げるようにして場所を変えさせてもらった。
最近夏休みボケして忘れがちだが、安藤さんは姫であり、開闢の始神でもあるのだ。もし高校の奴らに聞かれでもしたら嫌がらせの一つや二つされてもおかしくない。
普通なら考えられないが、それが男子校というものなのだ。男の妬みも案外怖い物がある。
「へぇ~、そう言う事。そんな理由で同居してるんだ。俗に言うルームシェアってやつ? 流石は都会だね。男女でもそんな関係が成り立つんだぁ~。にしてもこのタピオカ美味っ! 本場はやっぱり違うなぁ~!」
こちらではすっかりブームは下火になってしまっているタピオカミルクティーだが、田舎の方では俄然人気のあるコンテンツと思われているのか、本人は一年振りの味に大満足の模様だ。
ちなみに場所を変える道中にタピオカミルクティー屋があり、何故かおごらされた。幼馴染を敬うのは当然だとかなんとか。なら俺も敬えってんだ。
「ふぃ~、美味かった。んじゃあ改めて自己紹介するね、私の名前は加瀬院せつな。太陽の幼馴染、以上ッッ!」
駅前から近くの公園に移動し、日陰のあるベンチに腰を据えながら単純明快な自己紹介を終え、ふんぞり返るせつな。
昨年と比べて少々胸が大きくなったり、女性らしいフォルムになっているような気しなくはもないが、基本的にはやんちゃなガキ大将のノリからは脱却していないようだ。
女っ気が全く足りん。いつまで子供のままなんだ……もう少しお淑やかになって欲しいものである。
「私は安藤みゆと申します。太陽先輩とはひとつ屋根の下で一緒に暮らしてる仲になります。当然、幼馴染よりも深い関係ですッッ!」
「安藤さん? どうしました? 変に対抗意識燃やしてますね? 無理にせつなみたいに語尾は強めなくていいんですよぉ~?」
安藤さんにしては鼻息荒く、せつなのマウントを取ろうとしているようだが、当の本人はそんな必死の美少女を無視し、スマホをポチリ出している。どうやら次の行く予定のお店を検索しているようだ。
そんな仕草にますます興奮する安藤さんをなだめている時であった。
「ねえねえ、太陽! お昼ご飯に私、ここ行きたいんだけど!?」
急に背中におぶさるような格好になって後ろからスマホを覗かせてきた。二つのそれなりの感触を感じる……。やはり成長していたか。
しかしこいつ、いつまでたっても子供染みた真似するよな。いい加減歳を考えて行動してもらいたい。
「ん……ああ、ここか。俺も行った事は無いが結構有名な場所で——」
せつなに返事を返そうとしたところ、冷たい何かが心臓に響いた。理由は明確、安藤さんが今までにない程に俺を睨みつけていたからだ。
その瞳の奥は永久凍土を思わす程に冷たく、いつもの無表情とは違い、まるでダイオウゾクムシの裏側を見たかのような表情を俺に向けていた。あの海に居るダンゴムシの親玉みたいなやつだ。
つまり美少女が作っていい顔じゃないって事だ。
「随分と仲がよろしいのですね……随分と」
「あ、いや、まあ、仲が良いというか、こいつ、いつもこんな感じでベタベタまとわりついてくる感じで……おい、こら! いい加減離れろ!」
「ん、なになに? 折角美少女がサービスしてやってるのにその態度は。あ、そっかそっか。ルームシェアの彼女が居たんだったわね!」
冷気のようなオーラを染み出させる安藤さんを見てか、せつなは離れ、なんとか距離を取ったのだが……出会うだけでこの疲労感は辛過ぎる。
今日からのせつなとの一泊二日、持つかな、俺……。




