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加瀬院せつな見参っ!


「どういう事ですか」


「いや、あの、その……ね?」


 週末の金曜日、パジャマ姿の仁王立ちで俺を睨みつける安藤さん。ちなみにもう後はない、壁にべったりと背が付いている。


 先日より今週末に幼馴染が来ることはお伝えしていたのだが、幼馴染がこの家に泊まるということを伝え忘れていた為、軽いノリでお伝えしたところ、即座に追い込まれることになった。


「この家には三人も寝泊りするスペースはありません。駅前のビジネスホテルにでも泊まってもらって下さい」


 この子は自分がどういう状況でここに居るのか分かっているのだろうか……。絵に書いたような見事な棚上げですね。


「幼馴染は去年もこの家に来てるんで……。その、旅費節約も兼ねて確実にここに泊まるつもりで来るかと……」


「幼馴染とはいえ女子高生が男性の家に旅費を節約する為に泊まるだなんて……。一体何を考えていらっしゃるのですか、その幼馴染さんは!?」


 いや、あのマジで自分の事は棚上げしちゃうんですね。安藤さんは確か通学費を節約する為にここに住んでいるのでしたよね? 


 しかし幼馴染……せつなに安藤さんを会わせたくないのは事実だ。あいつは悪気無く心の壁に踏み込んできやがるからなぁ……。


「この際、白黒はっきりとつけるとしましょう。私が分からせて差し上げます。私と太陽先輩と関係を」

 

 うん、俺との関係って言っても宿主と下宿人の関係だよね? そんな気合入れなくてもサクッと説明はつくんじゃないかな?


「ところで……その幼馴染さんとやらはどんな性格、容姿をしていらっしゃるのですか? 写真……とかあったら即刻破り捨てたくなる衝動を抑える自信がありませんが、出してもらえますか?」

 

 俺の思い出がズタズタになる予感。初手で人様の思い出の写真を破り捨てられるのはもはやサイコパスの人間です。


 どうしました? クールビューティJK? ヤンデレ化が進んではいませんか?


「そ、そうですね、幼馴染はかなりざっくばらんな奴でして。写真は実家にはありますが、こっちには持って来ていないので……。あいつ『思い出は胸の中に秘めておくもの』なんて抜かす奴ですから。性格は……そうですねぇ、強いて言えば底抜けに明るい奴ってところですかね」


 その影響をもろに受けて今の俺があると言っても過言じゃない。幼少期にかなりの影響を受けた事は自他共に認めている。


「……どうやら私と対極に位置するお方のようですね。お名前はなんとおっしゃるのでですか?」


「せつな、加瀬院かせいんせつなです。名字が大層でしょ?」


「せつなさんですね……。ふふ、分かりました。明日、これでもかと言う程分からせて見せます!!」


 握りこぶしを作り胸を張る安藤さん。どうやら明日は穏やかに過ごせそうにないようだ……。

 

 で、何を分からせるの? 暴力はダメだからね?



≪≪≪



 夏休みも残り僅かとなった八月最後の週末。心なしか朝方の風が涼しく感じるようになった気がする。


 とは言っても日が昇れば一気に気温は上昇し、うだる暑さになるんだけどね。


 完全に日が昇り切り、じりじりと熱波を放出するお昼前。駅前で今日到着予定の幼馴染と待ち合わせをしているのだが……隣にはなぜか安藤さんまで居る。


 尚、幼馴染であるせつなは、俺が都会へ進学したその年から毎年夏休みに遊びに来るようになっている。

 名目は俺に会いに来る為などと田舎では触れまいているらしいが、実際は親に交通費出してもらって都会へ遊びに来たいだけである。


 現に昨年はあり得ない程の買い物をして帰っていったもんな……。お土産はもちろんだが、服とか雑貨とか買い倒していた。


 戦利品としてゆうパックで段ボール五箱はやり過ぎだと思う。きっとこの日の為にバイトしまくってるんだろうな。


 そしておそらく今年も昨年に続き、一泊二日の買い物に付き合わされる羽目になるだろう。そもそも同じ日本に住む者なのに、都会に出て来ての爆買いはやめて欲しい。

 ネットで何でも揃う時代なのにわざわざ現地に出向くなど、非常にロスの多い行動である。


 だが、田舎人が故か、本人曰く『自分の目で見て納得した物を買いたいの!』などと意外に堅実な事を言ってくるから困る。


「太陽先輩、あの人ですか? それとも奥の人ですか?」


 先程から夏の日差しに相反し、寒気を感じさせる程の冷たい眼差しを街行く人に当てている安藤さん。もはや地球温暖化の切り札と称しても良いかもしれない。


 ともかく街行く人にかなりビビられているので是非ともやめて欲しい。そんなに無関係に方々を威嚇してるとお巡りさんの職質待った無しである。しかも全員女性だし……。


「違いますよ、でも一発で分かると思いますよ。なんせ賑やかを通り越してもはや騒音発生器みたいな奴なので——」


「誰が騒音発生器なのかなぁ? 誰がぁ?」


「むほぉっ!? あいだだだだっっ!? アバラぁぁあ!? アバラがイカれるぅぅう!?」


 油断していた……こ、この痛みは……コブラツイストか!? 


「どうだ参ったか? この馬鹿幼馴染は」


「参りましたぁ!! ギブギブぅ!! ちょ、ほんとマジやめて!? 砕ける、アバラが砕けるぅぅう!!」


 八重歯がきらりと光る屈託のない笑顔で殺しにきてるのは俺の幼馴染……加瀬院せつな、その人である。


 懸命のギブアップコールでなんとか技を解かれ、地面に四つん這いになって息を荒げていると、斜め上からキンと冷たい視線が降り注いできた。


「……随分と楽しそうですね。女子高生に肌と肌を密着させられて楽しいのですか? 先程のは歓喜の咆哮ですか?」


「さっきの一連の動きが楽しそうに見えました!? せつなは完全に狩りにきてましたよね!? なんなら痛みで失神するところでしたよね!?」


「ん? 太陽、誰よその子? すんごい美人さんじゃない。ま、まさか……もしかして彼女ぉ!? ひゅ~やるじゃん! で、紹介してよ紹介!」


「んはっ!? か、彼女!? あ、いや、私はその!?」


 これは珍しい。あの沈着冷静な安藤さんが取り乱すとは。しかしせつなよ、残念ながら彼女ではない。連れの従妹だ。


「太陽も隅におけないなぁ~? こ~んな美人でナイスバディの女の子、一体どこで捕まえたの? おっぱいデカいし、ウエストくびれてるし、おしりおっきいし! やっぱ都会ってすごいわねぇ~! 同じ人種とは思えないわぁ~!」


 言い回しがおっさんか……。俺もまったく同じこと考えたけど。


「いいから一旦落ち着けって。相変わらず早とちりが過ぎるぞ? まずなにより安藤さんは彼女ではない」


「え? そなの? 確かに呼び名も他人行儀全開だもんね。じゃあ友達以上恋人未満ってやつ?」


「いやいやそんなんじゃなくてだな。諸事情があって一緒に暮らしているだけの関係で——」


「彼氏彼女以上の関係じゃないの!! だいたいどんな関係よ!? むしろ夫婦かっ!! なに!? 太陽、いつの間に結婚してたの!?」


 ああ……やかましい。相変わらず騒々しい奴だ。流石の安藤さんも呆れて声も出ないようだ。


「ふ、夫婦……け、結婚……」


 顔色を伺ったところ、なんか顔真っ赤にして目を回してた。ちょっと思ってた反応ではなかったんだけど……。


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