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お風呂


「ねえ、マスター……安藤さんさ、とても不機嫌そうなんだけど、なんかあった?」


 バイト中、不機嫌な安藤さんの様子を心配したお客様がマスターに声をかけていた。尚、俺は絶賛オムライスの調理中である。

 

 今日の安藤さんは先日にも増して恐ろしいまでに無表情。そしてオムライスに書く文字まで『無』とするなど、完全なる徹底ぶり。やはり昨日の夜に話した件をまだ引きずっているようだ。


 今週末に幼馴染みがうちに来ることに。


「和宮くぅん?」


 いや、マスター。そんな憎悪に満ちた目を向けられても困るんですけど? てか手を動かしてもらえますか? 安藤さんが不機嫌でもいつものように満員御礼で激務ですから。


「2番卓、オムライス3、コーラ、オレンジ2、3番卓オムライス2、ブレンド2」


 淡々とオーダを取る安藤さん。目が合う度にジト目を向られる……。やはり彼女は今週末も我が家に居座るつもりなのだろうか。


 出来る事なら幼馴染とは鉢合わせたくない。せつなとは……あいつ、ドが付くほど賑やかだからなぁ……。


 本日は安藤さんの表情が硬く、少々お客様達の期待には応えられなかった一日ではあったが、そもそもここは純喫茶。そういうのがお好みの方は然るべき喫茶店に行って頂きたい。


 そんな普段とは少し違った空気感のバイトを終えて帰宅した後、一日の疲れを癒すべくゆっくりと湯船に腰を据えた。それほど大きい湯舟ではないので足は延ばしきれないが、風呂は一日の疲れを癒してくれる貴重な場所だ。


 でも今度銭湯にでも行こうかな。久しぶりにゆっくりと足を延ばして風呂を満喫したい気分だ。


「失礼します、太陽先輩」


「は~い、ってぇぇぇえ!!? ちょ、ちょっと待って!?」


 慌てふためいた後、湯船の中で全速力で背を向けた。おかげでお湯が波立ってかなりこぼれてしまったではないですか……。


 いや、それよりも安藤さんが風呂場に入って……来た、だと? 何考えてるんだうちの高校の姫は!? 正気ですか!?


「ちょ、みゆちゃん!? 何してんの!! 今は俺が入ってるから! ちゃんと浴槽は洗ってまたお湯溜め直すから出て行って下さい!」


「私、ずっと考えていたのですが、一度のお風呂に二回のお湯張りは明らかに無駄と思っています」


 無駄なのは重々承知です。しかし残念ですがそれは必要経費というものなのです。だって俺の残り湯に入るのも、安藤さんの残り湯に入られるのも嫌でしょ?


「それに私は大丈夫です、水着を着てますから、ただ、中学の時のものなのでかなりきつくて……特に胸が」


 な……んだと? なにそれ、サイズが合わない水着を着てるの? ちょっと気になる……。


 いやいや、何を考えてるんだ!? 向こうはサイズが合わないながらも水着を着てるのに対し、こちらは真っ裸だぞ!?


 こんなのどうあがいても事案にしかならないじゃないか! 


「と、とりあえず俺もすぐ出ますので、まずは一度出て行ってもらえませんか!? こっちはタオルも何もないんですよ!?」


 銭湯や温泉ならまだしも、自分の家の風呂でタオルを巻く奴はそういないだろう。こっちは生まれたままの姿なんですよ? フルっす、フル!


「ですが太陽先輩は幼馴染さんとは、一緒にこうやってお風呂に入ったりしていたのですよね? おかしいですよね、お隣さん同士でそれが出来るのに、同居している人がそれを出来ないのは」


「いつの話だと思ってるの!? 子供! 子供の時の話! 今はいろいろ成長してるからそんなことはしませんっ!!」


 あの頃は象さん、ぱおーんだったが、今はマンモス、パウォーン!! なの! ちょっと盛ったけどそこは許して。


「大丈夫です、私も男性の裸は達兄ぃで見慣れています。ただ、五歳の頃を最後に見ていませんが」


「俺と大差ない奴! 尚更ショック受けると思うから絶対に見ちゃダメ!!」


 結果騒ぎに騒ぎ立てて、安藤さんには目を瞑ってもらい、なんとかうちのマンモスを見せることなく浴槽から出る事に成功した。安藤さんのぱっつぱつの水着はちょっと見えちゃったけど。


 やべえ絵面だった……。もはや漫画だった。


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