氷のみゆ、見参
幼馴染の件後程詳しく説明することを条件に、まずは当初の予定通り三人揃って不動産屋に向かう事になった。ただ、相当安藤さんの機嫌は超絶悪いままだが。
尚、氷のように冷たく、静かに荒れ狂う安藤さんは達也が割って入って止めてくれた。あと数秒遅かったら頬顎を砕かれていたかも知れない。
無論、冗談であるが。しかし女の子のそれとは思えない程の握力を身を持って感じたのは事実だ。流石は達也の源流を分かち合った血筋。末恐ろしい子である。
しかし今更だけど高校生がつるんで不動産屋に行くだなんて、改めて考えたらただのひやかしと受け取られてしまわないだろうか。時期的にも入学シーズンからズレてるし……。自分で提案しておきながら少し心配になってきたな……。
そんな心配を胸中に抱えながらしばらく歩くと、繁華街の一角にお店を構える不動産屋に着いた。ちなみに俺の家はこの不動産屋では紹介してもらっていない。今回は達也が『不動産屋なら俺のおすすめがある』と紹介してくれたお店だ。
なんだかんだ言っても俺はここが地元ではないし、地元民が推薦するのなら間違いないだろうと足を運んだのだが……。なんかテナントの看板に小さく【河原不動産系列】って、文字が見えるんだが?
高校生が不動産のおすすめを進言してきた時点でおかしいとは思ったが……。
「いらっしゃいませぇ~」
少し緊張しながら不動産屋の入り口をくぐると、不動産屋に不釣り合いな非常にガタイの良い、敏腕っぽい店員さんが出迎えてくれた。ちょっと言葉使いがおねぇ口調に感じるが、俺達を一瞥して門前払いしないでくれたのはありがたい話である。
「あのぉ、俺達この近くの高校に通ってるんですけど、近くに学生向け一人暮らしの良い物件を紹介してもらえないかなと……。あ、もちろん未成年なので親の承諾も必要なのは重々承知なのですが、まずは物件があるかどうかを知りたくて……」
「はい、お任せ下さ~い、弊社、学生向けの賃貸には特に力を入れておりましてぇ~。近くの高校というとそこの男子校ですねぇ?」
な、なんか、この店員さん、ガタイによる威圧感より違った威圧感の方が強い。でも話が早くて助かります。
「あ~、そうです。でも今年からは共学になって今ここに居る女子生徒が入学しまして。それでもってこの子の新しい住まいを探して——」
「言っておきますが、私は条件については一切の妥協はしませんので」
ねえ、どうしてそこで威嚇しちゃうの? お店の方に失礼ですよ? さっきの幼馴染の件を完全に引きずっていますね?
「分かりましたぁ~! お任せ下さい、私もこう見えてプロです! 下手なお住まいを提供するようなことはいたしませんわぁ」
うん、完全におねぇだ。この人。ガタイの良いおねぇだ。
「へえ、この店、対応良いな。俺達みたいな高校生が戯言みたいなこと言っても紳士的に対応してくれるなんてな」
「もちろんですぅ。お客様に年齢は関係ありませんから。地方から出て来た高校生の一人暮らしもそれほど珍しい事ではありませんからねっ!」
最後ウインク飛ばされた……。なんだろう、この寒気は。早くこの場を去りたくなったんだが? しかし達也も一目置く存在。ここは我慢して対応すればきっと良い物件を紹介してくれるかも!
そのまま奥にあるテーブル席に通され、飲み物まで出してくれた。現時点でお客様満足度NO.1である。名刺も頂いたのだが。どうやら店長さんのようである。
「では早速ですが、こんな物件がいかがでしょうか?」
タブレットを華麗に操作し『学生さんにもおすすめ!』というタグのついた見取り図を見せていただいた。学校からも近いし、築年数も若い。間取りも一人暮らしをするにも十分。流石おすすめするだけはある。別段非の打ちどころがな――
「却下でお願いします。駅が遠いです」
えっ? 下手したら俺が住んでいるアパートより条件良さそうなんですけど?
「それではこちらでは?」
今度は『お待たせしました、空きが出ました!』とのタグ。安藤さんの言う通り。駅近でありながら賃料もお安い。なんなら俺がここに移りた――
「却下でお願いします。コンビニが遠いです」
ふぁ? コ、コンビニなんて初日に安藤さんが来た日以来行って無いんですけど……。やっぱそこ、重要視します? ま、まあ一人暮らしになるなら必須なのかも。料理スキルは壊滅している訳だし。
「ならこちらはいかがでしょうか?」
えっと、今度はどんな物件が――
「却下でお願いします。スーパーが遠いです」
いや、もはや俺が見る間もなく却下されたんですけど……。
その後もおねぇ店長さんが次から次へと物件を紹介してくれる中、安藤さんが無表情のままNOの一言で薙ぎ払っていた。よく店長さんキレないで相手してくれてるよな……。聞いてるこっちがハラハラするんですけど……。
「それならばこちらはどうでしょうか! まだ世に出していない物件ですよ! 条件は駅近、コンビニ近、スーパー近、駄菓子屋近、自販機近、ケーキ屋近のワンルームマンションです!」
そこ、もう俺が住みてえっす。今日び、駄菓子屋なんて中々存在しませんよ? 毎日通うわ。
「却下でお願いします。女子高生に必須のフィットネスクラブと美容院、雑貨屋が近くに無いので」
「……申し訳ございません、お客様、当店でお客様のご期待に応えれる物件は無いようです……」
終了のゴングが鳴った。
「残念ですが今日も良い物件とは巡り合えませんでした。ですがいつかきっと出会える日はくると思います。その日まではご厄介になりますので宜しくお願いいたします」
「「えぐいな」」
達也と声を揃えた。尚、その後、達也はどこかに電話して本日対応してくれた店長さんを労らってもらうようお願いしていた。
きっとご両親のどちらかだろう。俺も迷惑料としてオムライスを作ってあげたいぐらいだ。
「さて、日も暮れ出してきました。晩御飯の買い出しをして家に戻りましょう。ただ……今日はそう簡単に寝かせはしませんよ?」
JKが言って良いセリフじゃないよ? それって幼馴染の事を根ほり葉ほり聞かれるって言う事ですよね?




