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五章 親切な骨董商



「失礼」


 そう断って俺とジョウン(どう見ても三十代をおじさん呼ばわりするのもなぁ)の間に片手を差し入れてきたのは、これまた二人と同年代の大柄な男。随分太い腕だ、肉体労働者か?若干陰気な雰囲気を漂わせているが、不思議と嫌悪感は湧かない。あれ、こいつも最近何処かで……?

 因みに弁解しておくけど、俺は記憶障害ではない。ただ他の六種が俺達の見分けを付け辛いように、俺も人型の顔の判別がし辛いだけだ。勿論未亡人達の御尊顔はバッチリ記憶しているが、野郎まではとてもとても。

「話の邪魔をして済まない」男は礼儀正しく謝った後、手を口元に当て、小声で続ける。「―――ひょっとして先程、アンドレ氏が暗殺されると話していなかったか?」

「ああ。あれ、もしや君が犯人?」

 笑えない冗談に、男は真顔で首を横に振った。

「まさか。ただ明日買取へ行くのに、肝心の品物を貰う前に死なれては困るだけだ」

「「!!?」」

 驚く俺達を尻目に、ジョウンは諸手を上げて子供のように喜んだ。身長に見合う大きな手を取り、強く握る。

「救世主登場だ、運がいいぞ二人共!君、良ければ俺達を一緒に屋敷へ入れてくれないか?代わりに力仕事でも何でもするからさ、頼むよこの通り!」

 凡そ肉体労働など出来そうもない細腕でブンブン振り回し、直球で拝み倒す。相手に疑う余地すら与えない交渉術だ。

 男は顎を撫でて思案の表情を浮かべ、言った。

「少し待ってくれ、連れと相談してくる」

「どうぞどうぞ」

 彼は一旦その場を離れ、四十代後半の白髪混じりな男(もうデジャヴが起こっても驚かないぞ)の待つ奥のテーブルへと向かった。同行者は体調が悪いのか、赤い顔でずっと咳を繰り返している。しばらく二人でひそひそした後、戻って来た彼は断ってからユアンの隣に座った。

「店主は特に構わないそうだ。きちんと事情さえ説明してくれるなら、臨時従業員と言う事で入れるよう手配しておく」

「ありがと、じゃあ早速そこ座って。あ、何でも好きな物注文していいよ。経費で全部落ちるからお気兼ねなく」

「分かった」

 だが謙虚にも男は烏龍茶を注文。出てきたグラスに口を付ける。それを飲んでいる間、ジョウンが簡単に自分の素性とここまでの経緯を話す。

「―――って訳。ドゥユーアンダースタン?」

「ああ、大体は。ところで、二人はどうして協力を?今の話だと彼の同僚ではないようだが」

 当然の質問に、相棒はお冷を置いて追い払うように手を振った。

「別に協力などしていない。この男に無理矢理連行されただけだ」

「二人は置時計を探してるんだよなー?折角だからえっと」

「フェ、いや、リーだ。向こうの彼と、“白の星”で骨董店を経営している」

「じゃあリィ君だ」やたらネイティブな発音で呼び掛け、手を叩く。「なら仕事柄、珍しい時計も良く見るんじゃないかい?」

「まぁ、骨董品と呼ぶ程古い物なら時々は……探している物は年代物なのか?」

 真摯に訊かれては答えない訳にもいかない。ユアンは如何にも仕方ないと言った風に、素材や形状を簡潔に説明した。すると、

「何だ。それなら早く言ってくれれば良かったのに」

「ああ」

 お互いの顔を見て頷き合う男達。

「勿体ぶらずに早く言え」舌打ち。「気色の悪い連中だ」

「まあまあユアン、教えてもらう相手にその態度は無いだろ」

 過去に来た原因は、十中八九あの空っぽのダイヤクロックだ。そう考えれば、その場にいなかった姉がいない事にも説明が付く。恐らく今頃、未来の遺跡内で俺達を捜し回っている筈だ。

「急ぐ理由でもあるのか、ユアン君?」

 リィが心配そうに尋ねる。熊みたいにデッカいけど、意外と良い人なんだな。誰かさんとはえらい違いだ。

「貴様等には関係無い」

「あー、リィ君。この子ツンツンだからさ、訊いてもあんま答えないよ。なあユアン?」

「フン」

「成程、話せない事情があるのか。了解した」

 あっさり諦め、骨董屋は茶を一口啜る。

「―――さっき買取に行くと説明したが、事前に同業者から先方についての情報収集をしている。その噂の中に、君等の探している純金剛石製の置時計があった」

「アンドレ氏が借金のかたに奪ったって言う曰く付きの代物だ。件のパティシエも、事ある毎に自慢していると酒場で話していたそうだよ」

 ほら、もう協力しない理由は無いだろ?核心的な笑みを浮かべ、若き頃の父親は息子へ告げた。




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