三章 時を駆けるトレジャーハンター
気付くと全身がほんのり温かかった。これは……あぁ、お日様の光だ。身体の下の草の感触も凄く気持ちいい……住処で待ってる姉ちゃん達には悪いけど、もうちょっとここで日向ぼっこしていようっと……ん?でも実家は確か、四年前に洪水で………じゃあここ、何処?
「っ!?」ガバッ!
跳ね起きた先は、どうやら公園のようだ。隣には相棒。珍しく二人して芝生の上で眠りこけていたらしい。
「お、起きたな」「!!?」
予期しない第三の人物の声に肩がビクッ!となった。
ユアンの更に向こうにいたのは、奴と同い年ぐらいの黒髪の男だ。片手をポケットに入れたまま、もう片手で伸ばした前髪を払う。あれ?こいつ、誰かに似ているような……?
「おはよう狐君。気分はどうだ?」
耳に心地いいハスキーボイスに、人懐っこい笑顔。第一印象はまあまあ良好だ。
「あ、うん。平気そう」
「そうか。ところでこいつは君の連れ?仲良く倒れてたけど」
「ああ。こいつはユアン・ヴィー。トレジャーハントのパートナーなんだ」
「ユアン?」
何故か一瞬訝しげな表情を浮かべた後、再び笑みを浮かべる。
「へえ、コンビで遺跡発掘か。面白そうだな」
「ん……ぅ……?」
色素の薄い目が開き、ぼんやりしたまま上体を起こした。
「ネイシェ……ここは、何処だ?時計はどうした?」
そう問われ、瞬時に気絶前の行動を思い出す。慌てて公園を見回すが、目立つ筈のダイヤクロックは何処にも見当たらなかった。
「何か探し物?―――ダイヤモンドで出来た置時計?ほー、そいつは興味深いな」
「貴様があれを持って行ったのか?」財布やデイバッグの中を検めながら、用心深く尋ねる。「ならとっとと返せ。あのオーパーツは私が三ヶ月掛けて発掘した物だ」
そう。実際遺跡に赴くのは数日だが、事前の資料調査にはいつもかなりな長期戦を強いられる。長い奴だと半年や一年はざらに必要。第七対策委員とやらで情報収集と分析能力を鍛えた元政府員でさえ、それぐらいは掛かるのだ。他の奴ならもっと、或いは一生使っても手掛かりすら見つけられないだろう。
「発掘……あぁ、成程。そう言う事か」
「「?」」
「まあ説明はおいおいでいいとして、ユアンだっけ?何も盗られてないなら、取り敢えず俺に付いて来いよ。幾ら日差しが暖かくても、もう十月だ。後一時間もしたら寒くて寝ていられなくなるぞ」
「初対面の、それも名乗りもしない男に、か?ハッ!冗談を。おい、行くぞネイシェ」
「え、でも」
親切男を振り返ると、何故か奴はニタニタ。さっきから何かおかしいぞ、こいつ。初対面のくせに、やけに馴れ馴れしい。そして、やっぱり誰かに似ている。
俺を肩に乗せて歩き出しかけた相棒に、男は後ろ手に持っていた何かを放り投げる。
「今日の新聞だ。読んでないならどうぞ」パシッ!「何?」
受け取って広げた一瞬後。俺達二人は同時多発的な驚愕と困惑に襲われた。
「お、おいユアン……俺、寝惚けてるのか?」
「試しに互いの頬を抓ってみるか?」
「賛成」
奴の手が体毛を掻い潜り、繊細な皮膚に掛かる。俺も前脚の指で奴のほっぺたを掴み、日頃の恨みも込めてぎゅー!
「「いってええっ!!!」」
鋭い痛みが走り、即座に恒例の殴り合いへ突入。ぽかぽかぽか!!
「おーい。落ちたぞ、要らないのかー?」
外野が拾い上げたシャバム新聞。その最上部には、はっきりこう書かれていた。―――宇宙暦『六百七十七年』十月五日、と。
日付こそ合っているが、信じられない。印刷ミスなんじゃないのか、これ!?
先にスタミナが切れたので、俺から休戦協定を申し入れた。負けを認めるつもりは毛頭無いが、今はもっと他に大事な事がある。
(ここが二十八年も前の世界だって?まさか……俺達、タイムスリップでもしたってのか?)それこそ有り得ねえ。
そう考えると、目の前の気の良さそうな優男が急に胡散臭く思えてきた。まさか商売敵、バラッグ・ビータの手先か?それとも裏組織シルバーフォックスの長、つまり母さんが又もや俺達を試している?にしては肝心の後継者である姉ちゃんの不在が解せぬが……。
「ねえお兄さん、俺達の他に誰かいなかった?赤毛の女とか、俺に良く似た狐とか」
「いや、見てないな。どうした、連れか?」
「まあそんな所」
誘拐犯が素直に吐くとは思えないので、今はこれぐらいでいいだろう。それにもし万が一ここが本物の過去なら、情報は尚更出さないに越した事は無い。
「ユアン」
「ああ」
頭の回る奴の事だ、俺の二歩先ぐらいまでは考えてくれている筈。軽く頷き、同時に男へ背を向ける。
「あれ、偽物だって可能性は?」
「充分あるな。紙面は刷られたばかりだったがその程度、自前の印刷機を使えばどうとでもなる。―――まずは気付かないフリをして、あいつから出来るだけこの街の情報を聞き出すぞ。ついでに時計の件もな」
シャープな顎に手を当てる。
「しかしあいつ、何処かで」「相談なら俺も混ぜてくれよ」「「うわっ!!?」」
二人共驚き過ぎだぞー。俺達の間に頭を突っ込んできた男は、そう言ってケタケタ笑った。
(こいつ、どうやって移動したんだ?注意してたのに全然気配を感じなかったぞ。一体何者だ?)
「いきなり入って来るな!?あぁ吃驚した……」
相棒も予想外の事態に、心臓の上を押さえて動悸を治める。
「まだ何か用か?こっちは貴様に付き合っている暇など」
「いや、さっきから正体不明だの、昼間っからブラブラしてる怪しい男だの、美形だがひょっとしてこの人そっち系の変態さん?とか色々懸念を抱かせているみたいだから、まずは遅ればせながら自己紹介でもと思って」
概ね合ってる。変人だが客観視能力は中々の物だ。少し見直した。
「結構だ。私達はもう行」
「俺はジョウン・フィクス。あっちに建ってる豆腐みたいな政府館の職員だ。ほら、証明書もちゃんとあるぞ」
パサッ。懐から独特の紋章が表紙に描かれた手帳を取り出し、自身の顔写真と名前の載ったページを開く。一見すると本物っぽい。……ん、フィクス、だって?
慌てて相棒の顔を覗くと、奴も流石に気付いたようだ。まじまじと男を見、声に出さず呟いた。―――父さん、と。




