二章 三人組の発掘者
「見つけた」
衛星二十番、名も無き遺跡最深部。赤狐の俺を肩に乗せたトレジャーハンター、ユアン・ヴィーはそう言って、冷静に祭壇の上の観察し始めた。
今回のお宝は針や文字盤、外装に至るまでダイヤモンド百パーセントの振り子時計だ。鑑定に掛けるまでもなく、間違い無しの天文学的価値のオーパーツ。ただ動力が無いのか、三本の針はどれも動いていなかった。
「おいユアン」今さっき入って来た通路を振り返り、「姉ちゃんがまだ追い付いて来てないぞ?一回様子見に戻った方が」
「フン。あれしきの罠が一人で越えられずに、何が盗掘屋だ」
「四方八方から針が飛び出す凶悪トラップの何処が『あれしき』だぁ?相変わらず難易度馬鹿高い事言いやがって」
とは言ってみたが、姉の身軽さと反射神経を考えれば突破はさして難しくないだろう。仮令無理でも、罠はあくまで人型の侵入者を想定して作られた物。本体の赤狐に戻れば余裕で抜けられる。
「そんな事より、問題はこいつだ」
石造りの祭壇を注意深く一周観察しながら呟く。
「どうやら台から外した途端、トラップが発動する事は無さそうだな」
続いて天井と四方の壁を確認し、周囲にもそれらしい物は見当たらないか、低く言った。
(神様、今度こそこいつの望みを叶えてやってくれよ!)
未だ奴の目的は一向に分からない。が、休み返上で五年間、こうも真剣にやっているのだ。そろそろ解放されてもいい頃だろ?暇になればこの朴念仁も、大好きな小晶さんをデートに誘う気になるやもしれぬ。
指紋を付けないよう、背負ったデイバッグからビニール手袋を取り出して装着。続いて運び出しのためのロープや布袋を、床へ手際良く広げる。
カラン。「あれ、それも何かに使うのか?」
ポケットから零れ出たのは、今年の夏祭りの射的で俺が当て、いつも通り鳳凰亭で一人留守番のこいつにやった紅葉の扇子だ。少しは風雅を楽しめ、と皮肉を籠めて贈ったのだが、予想通り今日まで一度も開かれた所を見ていない。
奴は無造作に拾い上げ、何事も無く再び押し込む。
「まさか。机に置いていたんで、うっかり間違えて持って来ただけだ」
「だよな。もう十月だし」
今日は特に、扇ぐ場面を想像しただけでも総毛立つぐらい涼しい。限られた時間しか陽の差さない遺跡内なら尚更だ。帰ったら宿の女主人、第一愛人のヴァイアにヴァン・ショー(温めてスパイスを利かせた赤ワイン)を作ってもらおうっと。
「運ぶぞ」
「だから姉ちゃんを待とうぜ。勝手に下ろしたら絶対また怒るって」
先月だってそれで二、三日むくれていたのだ。なのにこの男と来たら、
「ノロマな奴が悪い。特に待ってやる義理も無いしな」
ほーら、これだもの!幾ら押し掛け弟子とは言え、女の子相手にこの態度は普通無いだろ。幾ら興味ゼロにしても、もうちょっと人としての気遣いが出来ないのだろうか?
「何をやっている、只飯食らい一号。手伝え」
「へいへい」
もう知るか。俺は命令されて仕方なしに手伝ったんだ。
相棒の肩から冷たい石畳へ降り立ち、肉体の奥底へ意識を集中させる。約二分後、人型へ無事変化完了。ほぼ同じ背丈のユアンに手袋を借り、祭壇の左側へ。
「結構重そうだな」
「いや、良く見てみろ。内側は空っぽだ。動作機構が詰まっていれば、軽く百キロを超えただろうな」
指摘を受け、文字盤の隙間から内部を覗き込む。本当だ。って事はこれ、外見だけのハリボテか?
「これならお前が背負って運べそうだな。何だ。じゃあこれ、ただの置き物か。ちょっと残念」肩を竦めてガッカリ。
「そうと決まった訳ではない。宿に戻って詳しく調べてみないと、現時点では何とも言えん」
見た目はこれでも、まだ魔術が掛けられている可能性はあるからな。道中の厳重さも鑑みると期待大だ。
側面に腕を回し、前方へ傾けて二人掛かりで底面を支える。
「いけそうだな」
「ああ」
その時、狐族の鋭い耳が不完全な時計の中から微かな声を捉えた。
「―――完了。転送開始シマス」
「ん?おいユアン。この時計今喋らなかった、って言うか光ってないか?」
「何を支離滅裂な事を――――わっ!!!?」
「ぎゃあっっ!!!」
抱えた宝の放った眩しい光に包まれ、反射的に目を閉じた俺達は―――全身が浮くような感触を最後に、そのまま意識を失ってしまった。
「もう、少しぐらい待ってくれてもいいでしょ二人共!?」
若き女トレジャーハンター、ミリカ・ミーヌがそう文句を吐きながら最深部へ踏み入る。危険な即死トラップを回避し続け、既にほうほうの体だ。ただ数箇所を怪我はしているものの、何れも浅い掠り傷。精々二、三日風呂で沁みる程度だろう。
「大体ユアン、あんたママから私の事任されているんじゃ―――あれ……?」
ようやく辿り着いた最後の間。そこには憎たらし過ぎて最近益々気になる男と、再三の注意も虚しく未亡人の尻ばかり追い掛けている弟の姿は無かった。目の前には埃一つ積もっていない石製の祭壇があるだけで、他の出入口は無い。その手前には今朝、宿で師匠が自身の背負い袋に詰めていたロープと皮袋が放置されていた。
ただならぬ異変を察し、彼女は周囲を見渡しながら叫んだ。
「ネイシェ!ユアン!!何処!?隠れてないで出て来て!!!」




