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一章 月夜の決闘



「やっぱり君か、ハイネ・レヴィアタ君」「!!?その声は……!」


 夜もすっかり更けた林道。その隅で蹲る蒼い長袍チャンパオの少年へ、俺は声を掛けた。

 どうやら丁度、例の発作中らしい。彼は胸を押さえつつ立ち上がり、発疹だらけの顔をこちらに向けた。かなり辛そうで、武器の三節棍を支えにどうにか姿勢を保っている状態だ。

「俺を殺せる奴がもしいるとしたら、きっとハイネ君だろうと思っていたよ。―――久し振りだね。元気そうで何よりだ、お世辞抜きで」

「相変わらずですね、ジョウンさんは……」

 フッ。束の間苦痛の表情が消え、引き攣った笑みを浮かべる。

「その様子だと、今の状況も分かっていますよね?―――早く離れて下さい。“赤の輪舞スカーレット・ロンド”が大人しくしている内に、お願いします!」

 相変わらず賢い子だ。賢くて、物分かりが良くて、大人を頼らなさ過ぎる。


「―――ところでハイネ君、世界線って言葉を知っているかい?」


 十数年愛用の紅葉の扇子を広げつつ、俺は静かに尋ねた。

「え?いいえ……魔術用語ですか?」

「いや、知らないなら別に構わない。でも偶には下らない小説も読んだ方がいい、学生さん。後学のためにもね」

「?」

「まあ療養は大分長くなるだろうから、差し入れに沢山持って行くよ。幸い、仕事が忙し過ぎて読む時間も無いくせに、無駄に家へ溜め込んでいる心当たりが一人いる」

「それって、エ……うっ!!?」

 棍を持つ右手を反対の手で押さえ、脂汗を止め処無く流し始める。そろそろ臨界点のようだ。

「っは、早く逃げて下さいジョウンさん!!もう……我慢の限界です……!!!」

「残念だが出来ないね。行方不明になって以来、ずっと捜していたんだ。逃がすならともかく、自分から尻尾を巻くなんて真っ平御免だ」

「お願いです!!僕は、先生の恩人のあなたを―――殺したくない!!!」

 悲痛な叫びを上げた直後、血走り切った両眼が今夜の獲物を捕らえた。体内のウイルス量が飛躍的に増大し、瞳の中の意志の光が明滅する。

「あ……あぁ……!!」

「仮令俺が死んでも、それは決してハイネ君のせいじゃない。君はただ超科学的実験に付き合うだけだ。これ以上罪悪感を感じる必要は無いからね」

 構えた武器に魔力を満たす。これでどうにか最初の一撃は受け止められるだろう。

「何、言って……ぐっ、え……アガガ……!!」

 目の前の未来ある少年は、これまで一人で懸命に戦っていた。最凶最悪の犯罪者から受け継いだウイルスと、ずっと。だが、


「―――君は孤独じゃない。今度こそあの時の責任を取らせてくれ。その呪いを解く手伝いを、俺にさせて欲しい」

「ガガ……カワク……チヲ、クレッ!!!!」


 地獄のような苦痛に支配された発病者は湧き上がる飢餓の赴くまま、何人もの命を奪った凶器の先端を向けた。

(勝負は一度きりだな。外したら間違い無く殺られるのはこっちだ)

 汗の噴き出す掌で柄を強く握る。

(この時のために大事に使ってきたんだ。ちゃんと働いてくれよ!!)


「行くぞ!!」

「ガアッ!!」


 月光の下、猛烈な勢いで二つの影が肉薄した。




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