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序章 ある秋の日向

※この話は『鳥十篇三 小瑠璃』の続編です。本編を読む前に、そちらを御一読頂く事を推奨します。また『花十篇十 カーネーション』のスピンオフにもなっていますが、本編を読むには特に支障はありません。 

「秋にしては随分温い風だなぁ、リィ君?」


 陽の当たる縁側で寝そべりながら、中の和室にいる数十年来の親友に声を掛けた。

「今年は冷夏だったからな。その反動だろう」

 書き物机で今時珍しい紐綴じの帳簿に向かいながらそう答え、長方形の銀縁眼鏡を額へ押し上げた。堅苦しいデザインだが、骨格の四角い彼が掛けると悪くない。眺めていると突然、皺の浮いた瞼を不快そうに二度擦った。

「目、悪くなったのかい?」

 尋ねて三十年近い付き合いで最早身体の一部と化した扇子、未だ鮮やかな朱色の紅葉が描かれている、を懐から取り出す。腕を伸ばし、鬱陶しげな白混じりの前髪へ扇いだ。

「ありがとう。ああ、とうとう私も老眼らしい。取り敢えず市販の老眼鏡を買ってはみたが、どうも度が合っていないようだ。今度店できちんと作ってもらわないと」

「娘さんにやってもらったらどうだい?」

 手元がロクに見えていないのに、無理に顧客帳簿とにらめっこする事もあるまい。

「……そうだな。特に急ぐ仕事でもない」パタン。「新しい眼鏡を作るまで、整理は一旦お預けだ」

「そうそう。こんなに気持ち良い日は昼寝しないと勿体無いよ」

 俺の提案に、勤勉な骨董鑑定師である親友は苦笑した。




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