二十五章 崩落
「どっちが出口や、お嬢ちゃん!?」
「向こう!!」
夢使いが指し示す遥か先に見えたのは、黄金色に輝く小さな一つの星。おいおい、思ったより大分遠そうだぞ!?
「一応保険を掛けておくわ。全員動かないで」
彼女は杖を回しながら大きく振り、光の粉を乗組員皆へ降り掛けた。おまじないか何かか?加護だな、ユアンが呟いて肩を竦める。
「色んな物が落ちてきとるな。皆、上に気ぃ付けて」バンッ!!「ぎゃっ!!」
リィの放った銃弾は、煌の頭上に落ちてきていた胸像を見事に粉砕した。
「おい、いきなり撃つ事無いやろ飛!?」
「キィイ!」
「済まない」
一人と一匹に注意されつつも、骨董屋は冷静にマグナムの弾を籠め直して襲撃に備える。ってマグナム!?何だって市井の骨董屋がんな破壊力のある武器を平然と所持してやがる!!?
「咄嗟の判断だ。危険に気付かなかった脳天気な貴様等が悪い」
後ろへ銃を構えつつ、歪む七色の空を見上げたユアンはそうバッサリ言い捨てる。
「何やと!?」
「五月蝿い、集中が途切れる」
「そうよ煌。折角一緒にいるのだから仲良くね―――それとも、お猿さん諸共フリーダイブしたいかしら?」
まるで教師のように(?)場を仕切る母さん。流石悪党の親玉だけあって、この年にして海千山千の犯罪者共の相手もお手の物だ。
「―――いいえ。俺が全面的に悪かったわ、ボス。ほれガルム、お前も謝れ」
「キィ」ペコペコ。
きゅうぅん!
落下物に戦々恐々としながらも、巧みな操縦に従って(一見頭をポンポンしているだけに見えるが)エイは安定飛行を続ける。と、今度は目の前に赤煉瓦の塊が!
「今度は俺の番かな。行っくぞー!」
馬鹿みたいに明るくジョウンは宣言し、獲物を広げかけて動きを止めた。
「あ、しまった。連チャンで使ったから、とうとう魔力焼け起こしやがった」
「え?」
「ほら、ここ」
あ、本当だ。放射線状に貼られた地紙の所々に、火を押し当てたような穴が空いている。描かれた朝顔も三つ共焦げていた。
「おい。まさか触媒が無いと魔術は使えませんとかぬかす気か?」
「まさか。ただほら、長い間このスタイルだから力が出し辛いのと、こいつ自体がちょっとした魔力増幅装置に加工してあってさ……ぶっちゃけ半減、みたいな?」
その瞬間、青筋の立つ音がハッキリ耳に届いた。慌ててフォローに入る俺。
「ま、まだ完全に壊れた訳じゃないんだろジョウン?いけるよな?」
「まあね」
骨も焼けて中々滑らかに開かなかったが、どうにか広げ切る。
「しくじるなよ」
「任せとけ―――風よ!!」
ブウンッ!!ガラガラガラッ!!
巻き起こった旋風は、数百キロの物体を見事バラバラにして下方へ葬り去る。凄え、これで不調だって?神童さんの本調子は一体どんだけなんだよ!?
バキッ!「あ、ヤベ壊れた」「何ぃ!!?」
中骨が数本折れ、二度と畳めなくなった扇子を手に何故かヘラヘラ笑う政府員。
「まあ俺にしちゃよく保った方だよ。昔エルに貰ったウン万のなんて、二週間でブッ壊してしこたま怒られたからなー」単に道具使いが荒いんじゃないか、それ?
相談の結果、最前列に操縦士コンビ、その右側にはナビ係の夢使い。その一メートル程後方、中央にはジョウンとリィ。後方の守りは俺達と母が務める布陣になった。
「何でこう次々と厄介事が起こるの?収束にどれだけ時間と魔力が掛かると思って……」
「諦めろ。精々そいつ等から超過勤務手当をふんだくっておけ、ビトス」
「誰と間違えているの?私はエミル・アイゼンハークよ」眉を顰め、端正な顔を背ける。「俗物な大貴族の家に生まれた、何代目かの犠牲者」
「そんな事は知っている。―――そうカッカするな、悪は何れ滅びる」
「だといいけどね」
呆れた風に吐き捨て、会話終了。未来人の理解不能なお喋りに付き合う集中力など、毛頭持ち合わせていないらしい。
「また降って来た!次は私ね」
今度の相手は、如何にも高そうな椅子とテーブルセット。ポシェットに手を突っ込んだ母は、色っぽい笑顔で拳大の黒い球形を二つ取り出した。
「ハッ!!」ボンッ!!
勢い良く着弾した瞬間、球は家具ごと半径数メートルの爆発を起こす。四散した木片も瞬く間に燃え尽き、被害は降り注いだ灰のみ。しかし他のメンバーはともかく、艶やかな黒タイツには甚大なダメージだ。
「きゃあっ!?もう、火薬が足りてないじゃない!?お陰で折角誂えたコスチュームが台無しだわ!後でクリーニングに出さないと!!」
掃う程広がる白へ、半ば狂ったように叫ぶ母を宥める。
「駄目だよミーヌ、余計に汚れるから。ほら、落ち着いて座って」
「でもドラット。あなたの前で醜態を晒すなんて、私耐えられないわ!」
「ドラット?」いぶかしむ二人にユアンがヒソヒソ。どうやら上手く誤魔化してくれたようだ。
一方母はそのまま女の子座りでしくしく。また泣き落とし作戦か!ギャップ狙いが露骨過ぎるぞ!
「燃え滓でさえ嫉妬するぐらいミーヌが綺麗なのさ。さあ、部下の前なんだ」前脚で頬を撫でる。「涙を拭いて」
「うん。ありがとう、ドラット」
即座に嘘泣きを止め、俺の頭にキス。
「変ね。まるで私達、生まれた時から運命の赤い糸で結ばれていたみたい」
「ああ」
正確には生まれる何年も前からだけどな。心中でそう突っ込みを入れつつ、熱っぽい視線を見つめ返した。




